ダウンタウンと香川登志緒先生 日本の喜劇人 (新潮文庫)
小林信彦
ずっと気になっていながら読んでいなかった本です。
読み終わってから、そういえば、こんな感じの本を読んだことがある、と思って思い出したのは、ピーターバラカンの「魂(ソウル)のゆくえ 」。
ソウルミュージックが黒人だけのものからアメリカ全土、そしてそれ以上に広がっていく中で大成功をおさめる黒人シンガーが数多く登場していくものの、やがて、最初の色を薄めていったソウルミュージックは良くも悪くも別のものに変わっていき、衰退を迎えていく。
それと同じようなことが日本の喜劇にもあったんですね。
ごく一部の人間しか見ることのなかった舞台の芸能がテレビという大きなメディアに登場し、喜劇人が日本全国に知られるようになる。
喜劇が一般にまで浸透するものの、テレビの波に呑み込まれ、舞台で演じられる喜劇はやがて衰退していく。
そんな大きな時代のうねりの中で、森繁久弥、由利徹、渥美清といった、私には晩年しか知ることのない面々がどんな役割を果たし、どんな力をもっていたか、小林信彦は実に明快に示している。
ある意味、独断的とも言える、文章の明快さには本当に驚きました。
おそらくは多くの喜劇人や関係者から嫌われたでしょうね。
喜劇を愛しているからこそ、喜劇人たちと、ある一定の距離を保とうとする作者は非常に正しい。
というか、そういう人じゃなきゃ批評をしちゃいけないですよね。
それにしても、この本を読むと森繁久弥の影響力の強さが分かります。
漫才やコントをやっていた人間が、いつの間にかドラマで「味のある脇役」をやっている姿を見るなんていう、おぞましいパターンは彼の時代から続いていることだったんですね。
香川登志緒と沢田隆治の話も面白い、というか、もっといろいろ知りたい。
そういえば、ダウンタウンを初めて見たのは沢田隆治のやっていた「花王名人劇場」だったと思う。
香川登志緒がダウンタウンを高く評価していた話は有名だけど、沢田隆治はどう思っていたんだろう。(ひ)