こういう小説にはセイント・ジュリアンが似合う
セメント樽の中の手紙
葉山嘉樹
角川文庫
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=200806000314
普段読む本とは毛色の違う本ですが、プロレタリア文学という括りではなく、奇妙な味の短編小説として興味を持って読んでみました。
プロレタリア文学といわれるものを呼んだ記憶がないのですが、こんな説経臭くない、というか、貧しい人間の苦しみを描いていながら、そんな状況が恐らくはどうにもならないことを悟った上での小説なのが、長い時を経ても作品が風化しない理由なんでしょう。
みんな力をひとつにしてがんばれば現状を打破できる、なんて葉山嘉樹はまったく思っていなかったはず。
大体、この人のプロフィールからしてふざけている。
早稲田の高等予科に入り、親の財産をすべてもらいながら、それを遊びに使い、無くなったところで学校を辞めて、職を転々とする。
しかたなく肉体労働もしつつ(その経験が小説に生かされている)、新聞記者になったりもするが、労働運動を指導していたため、逮捕されてしまう。
自作の「年譜」に書かれていた経歴なので、どこまでが本当なのか分からないところも興味深い。
自分をあえて卑下するような偽悪的なところが、いかにも昔の「作家」という感じですが、表題作、「セメント樽の中の手紙」は教科書に載るくらい有名な作品だそうです。
この作品もテイストは「年譜」に近いかもしれません。
セメントあけの作業を一日中行っている労働者が、作業中に偶然手紙を見つける。
女性が書いた手紙によると、自分の夫が作業中にセメントの中に入って死んでしまったというのだ。
自分の夫が入っているセメントがどうなっているか知るために、セメント樽の中に、ビン入りの手紙を忍ばせたという文面に男は驚くが何の行動もしない。
果たしてそんな話が本当か嘘か、真実を求めることもせず、いつ自分がセメントに巻き込まれてもおかしくない自分の生活にただ気づかされる。
ここから何らかの教訓を読み取ったとしても、それは読者の勝手というものですが、私の印象に残ったのはやたらに不条理な設定と、何の進展もないまま終わる後味の悪い余韻。
この短編集に入っている、他の作品もその点は変わらず、読んでいて連想したのは野坂昭如の作品でした。
どちらも怖い小説だったなあ。
ところで、まったく話は変わりますが、直木賞は辻村深月ですか。
少し前に読んだ別の作品が、今まで読んだ中でもっともひどい作品のひとつだっただけに選考委員ってアホばっかりじゃないの、と思ってしまいました。
まあ本を売るための宣伝賞で、本屋大賞と変わりはないんでしょうけど。
それにしても、舞城王太郎にはなかなか賞をあげないもんですね。(ひ)
セメント樽の中の手紙
葉山嘉樹
角川文庫
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=200806000314
普段読む本とは毛色の違う本ですが、プロレタリア文学という括りではなく、奇妙な味の短編小説として興味を持って読んでみました。
プロレタリア文学といわれるものを呼んだ記憶がないのですが、こんな説経臭くない、というか、貧しい人間の苦しみを描いていながら、そんな状況が恐らくはどうにもならないことを悟った上での小説なのが、長い時を経ても作品が風化しない理由なんでしょう。
みんな力をひとつにしてがんばれば現状を打破できる、なんて葉山嘉樹はまったく思っていなかったはず。
大体、この人のプロフィールからしてふざけている。
早稲田の高等予科に入り、親の財産をすべてもらいながら、それを遊びに使い、無くなったところで学校を辞めて、職を転々とする。
しかたなく肉体労働もしつつ(その経験が小説に生かされている)、新聞記者になったりもするが、労働運動を指導していたため、逮捕されてしまう。
自作の「年譜」に書かれていた経歴なので、どこまでが本当なのか分からないところも興味深い。
自分をあえて卑下するような偽悪的なところが、いかにも昔の「作家」という感じですが、表題作、「セメント樽の中の手紙」は教科書に載るくらい有名な作品だそうです。
この作品もテイストは「年譜」に近いかもしれません。
セメントあけの作業を一日中行っている労働者が、作業中に偶然手紙を見つける。
女性が書いた手紙によると、自分の夫が作業中にセメントの中に入って死んでしまったというのだ。
自分の夫が入っているセメントがどうなっているか知るために、セメント樽の中に、ビン入りの手紙を忍ばせたという文面に男は驚くが何の行動もしない。
果たしてそんな話が本当か嘘か、真実を求めることもせず、いつ自分がセメントに巻き込まれてもおかしくない自分の生活にただ気づかされる。
ここから何らかの教訓を読み取ったとしても、それは読者の勝手というものですが、私の印象に残ったのはやたらに不条理な設定と、何の進展もないまま終わる後味の悪い余韻。
この短編集に入っている、他の作品もその点は変わらず、読んでいて連想したのは野坂昭如の作品でした。
どちらも怖い小説だったなあ。
ところで、まったく話は変わりますが、直木賞は辻村深月ですか。
少し前に読んだ別の作品が、今まで読んだ中でもっともひどい作品のひとつだっただけに選考委員ってアホばっかりじゃないの、と思ってしまいました。
まあ本を売るための宣伝賞で、本屋大賞と変わりはないんでしょうけど。
それにしても、舞城王太郎にはなかなか賞をあげないもんですね。(ひ)
