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フーリエ解析大全

2006-06-23 01:00:06 | Book review
 前回は、あまり意味のないブックレビューを書いた。今度はもう少しましなのを書いてみようと思う。ということで、含みのある本をレビュー。


フーリエ解析大全 (上・下) 朝倉書店

私の知っている限りで、最も丁寧な、かつ最も親切なフーリエ解析の入門書兼参考書である。上下あわせて1万円以上するのだが、買ってしまった。女性に生まれていたらグッチだのプラダだのを買ってしまっていたであろうことを考えると、安い買い物である。

基本的に、これを使って量子力学をバリバリやれるような力をつけたい!とか関数解析の入門の一ステップに!とか思っている人は読む気が起きないだろう。あまりに趣味的で、あまりに高踏的。すべてのセクションが数ページ一話読みきりになっているのだが、3節でいきなり扱われているのがWeylの一様分布定理。無理数を自然数倍してmodを取る数列を考えると、その区間に一様分布するという定理である。力学系の準周期解の、ポアンカレによる取り扱いなど思い出す向きもあられよう。

そして圧巻は11節。タイトルたるや「至るところ微分不可能な連続関数」。連続ならどっかでは微分可能だろう、というナイーブな直感を打ち破るこの反例はWeierstrassの手になるもので、実は初等的な事実しかその構成に要しない。

そんなの勉強しても時間の無駄じゃん。と思ったら、人間は進歩しなかった。続く12節では、Weierstrassの同時代人たちの冷ややかな反応をスケッチしつつ、次の節からはきわめて現代の物理学的な「モンテカルロ法」「数学的ブラウン運動」へとそのテーマをシフトさせていく。実は、ブラウン運動を時間軸に沿ってグラフにすると、いたるところ微分不可能な関数になるのです。また、ブラウン運動を用いた解析では、そのランダムネスが逆に空間に正則性を生み、調和関数の解との関係性が生まれる。調和関数と言うのは、正則関数の実部が満たす方程式(ラプラス方程式)の解のことで、正則関数と言うのは何回でも微分可能な関数。われわれはこうして、微分可能な世界へと帰ってきたのです、と来る。

 そのほかにも、非線形微分方程式や直交多項式や確率論、統計手法へと話は及び、果てはワインの貯蔵法、データの捏造法(!)までも指南してくれるとはこれまさに至れり尽くせり。しかも、なんと驚くべきことに、フーリエ解析の専門書にもかかわらず、Lebesugue積分論の知識を仮定していない!ある程度積分論を知った今となっては、多少のまどろっこしさも感じるが、それは読み飛ばせばいいだけの話であり、逆に大学1・2年のころこの本を読むことができたことを思い返せばなんという親切さだろう、と思う。

 こういう数学の本を、昼食後ミルクティーでも飲みながら読みふけることができる生活にすごく憧れる。あぁ、早く人生を引退したい。ビバご隠居。