ホテル内に作られた大集会場で共和党ミーティング前の早朝ミサが行われる。両手をかざし、賛美歌を歌いながら涙をはらはら流して感動している女性たちがいた。
今日の注目は前ニューヨーク市長のジュリアーニ候補のスピーチ。
9/11でおおいに株を上げたジュリアーニ氏は中絶や同性愛に寛容な発言や、賑やかな女性関係で、共和党の最も厚い支持層であるキリスト教右派の反感を買っていると言う噂。
午後、二時間ほど空き時間が出来たので、平和を訴えてホワイト・ハウス前に二十六年間座り来んでいるピシオットさんを訪ねることにした。タクシーに乗り、十分ほどで着く。
「コンチータ、元気?僕のこと覚えてる?」
と声をかけると真っすぐに目の中を覗き込んで、
「イラクは悪くないわ、イランも問題じゃない、問題なのはイスラエルよ。」と切り出した。壮絶とも思える風貌に透き通った二つの目が僕を射抜く。
「ああ、そうだね、その話はこの間聞いたよ。夕べの雨はひどかったね、大丈夫だった?」
「ああ、雨・・・、そう、ひどかった、この傘とね、ビニールをかぶってね、でも入ってくるのよね。下からも。」
「いつも何時にベッドにつくの?」
「ベッドなんかないのよ、看板に寄っかかって眠るの。」
公園でキャンプ行為をしてはいけないという法律の為に彼女はテントも張れないし、横になって眠ることも許されずに二十六年。
「だれかが犠牲にならなきゃならないのよ。みんなのためにね。国の為じゃなくて、誰かのためじゃなくて、みんなのために、子供達のために・・・。」
サクリファイスという言葉を使った。犠牲、いけにえ・・・。
返す言葉が見つからない。
「これがブッシュのやっている事よ。」
彼女の横に座り込んで、観光客たちに片っ端から声をかけるか細い声を聞きながら、夕日に赤く染まるホワイト・ハウスを眺めていた。
「ねえ、コンチータ、僕の奥さんは料理が上手いから、今度何か作ってもらって来るよ。何か食べたいものある?」
「私、ベジタリアンだからね。」
「分かった、大丈夫だよ、何が好きなの?」
「うーん、何でもいいわ、そうね、チャイニーズかしら。」
「じゃあ、また来るよ。」と固くハグしてまた共和党集会に戻る。
コントラストが鮮やかだった。