この施設の3階の中央には広い展望ガラス窓があって、そこからは、遥か彼方の木曾山脈から、眼下に広がる一面の田圃が眺望できる。
オソマツ君は此処からぼーっと広大な田圃を見ていることが好きだ。
今日も大粒の雨が降る田圃を見ていた。が、
気が付くとあぜ道の草が枯れて茶色くなっている。
これは、除草薬を散布したに違いないとイライラしてきた。
嘗ての農家は除草薬は決して使わ無かった。
土を痛めるからである。あぜ道の草は必ず手で刈った。
小型エンジンの付いた草刈り機も使わなかった。
角や隅が綺麗に刈れないからである。手で刈って、半日放置すると、
夏は刈った草が良く乾く。そこで、草が種を持っているかどうか、よく見極めて種が無かったら草を田圃に埋めこみ、
種がありそうならば乾燥させ焼き払った。
何れの場合もこうした方が土のためにいいからである。
あぜ道とは言え除草薬を散布なんかして百姓の心意気を冒涜する行為である。
これが近代化であったら、農業は衰退するであろう。土の中の微生物の営みが肥えた土をつくり、そのおかげで豊作がもたらされる。除草薬を散布して、その微生物を殺したら、回復に数年は必要だろう。
全ての作物は土つくりから始まるという農業のイロハのイの字を知らない農業経営者が増えた。
困ったものだ。オソマツ君は久しぶりに老人特有の怒りを覚え自らを苦笑した
追記;エジプトのピラミッとの中の石の部屋の中に当時の石工の落書きが刻まれていたと云います。その落書きには「最近の若い者は仕事をキチンとしない」と云うようなことが書いてあったと云います。6000年も前から年寄りは「最近の若い者は・・・・」と云って何かにつけてなげいていたということです。これは6000年も続く人類の年寄りの習性なのでしょう。(T)