気持ちいい朝でした。ふとしたときに日常が愛しくなる最近。以前は何かを考えだすと悶々と引きづっていたのですが、小さなことで気持ちをリセットできるときが増えてきた気がする。恵みはそのへんに転がっている。
本の感想です。
道尾秀介さんの小説『カラスの親指』(講談社文庫)読みました。面白かったです。
カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫) | |
道尾 秀介 | |
講談社 |
道尾さんの小説を読むのは『向日葵の咲かない夏』『骸の爪』に次いで3冊目。今回も日常の様子を細かく綴りながらも設定はありえない!!という部分は共通しているもの、作品に通底するテンションがほかの2作とは大きく異なりました。『向日葵の咲かない夏』と『骸の爪』もそれぞれ雰囲気が異なります。一人の作家にこれだけ多くのものが内在していて、かつそれを表現でてきているってすばらしいですね。引き続きほかの道尾作品も読み進めます。
【関連記事】読書日記:道尾秀介著『骸の爪』 閉鎖された環境
『カラスの親指』は途中正直ちょっと冗長だとおもいました。けれどもその冗長さがラストへと続く仕掛けになっているので、ぜひ読み始めた方は最後まで読み切ってください。最後まで読むかどうかで読後感が大きく異なります。
小説の主人公は詐欺師です。詐欺師が別の詐欺師に出会い、さらにはスリの少女、少女の姉、姉の恋人であるマジシャンと疑似家族になるというなかなか現実離れした小説です。
詐欺師の人は、詐欺師の人を見かけるとなんとなく雰囲気で同じ人種だなとわかるものなんですかね~。
あたしは数年前にホリスティック系のシンポジウムに行ったのですが、そのとき会場のそばを歩いている人たちをみて、「この人たちは絶対同じ会場に行く」ってわかりました。
ヤクザも雰囲気でわかりますよね。
小説のなかに出てきた発言で、誰が言っていたのか忘れてしまったのですがとても印象的だったことがあります。
詐欺とマジックは人をだますので似ているような気がするけれども、大きく違う。一流の詐欺は最後まで詐欺だと気づかれないほうがいいけれど、一流のマジックは、マジックだと気づかれないとマジックにならない、というのです。
なるほどなーと。詐欺はだまされているときはしあわせだったという話は聞く気がする。その間は夢をみている。いきすぎるとくじ引きや抽選も個人的には同じ気がしてしている。一方のマジックはネタをみて、みなで楽しめる。
ということがですね!! 最後の最後で、スパイスのように効いて小説が展開します。
一歩引いて考えたとき、諸行無常なあたしたちの人生は夢のようなものかもしれない。あたしたちひとりひとりがそれぞれの思い込みで、幻想の世界を生きている。と考えると、人生って詐欺みたいなものなのかなとおもったり。。。
そこまで引かなくても、「騙された」「裏切られた」というけれども、多くの場合は相手からすると、裏切ったり騙したりしたつもりはないのかもしれないとおもったり。もちろん詐欺を肯定するわけではないけれど、人生に存在するいろいろは、白黒はっきりつけられるものではなく、グラデ―ションなんだなとおもいながら拝読いたしました。
小説のラストとしては、あたしとしては、最後にあの人とあの人を再会させてあげたかった、という大円団がありますが、、、うーんそうしないのが小説の深みなのでしょうね。
話が変わりますが、肉親や家族は、つい後回しにしてしまうこともあるけれど死んでから後悔するよねということもあらためておもいだしました。
こうやって色々と考えるきっかけをくれるのが 重層的と言うか 彼の小説の魅力なんだと思います。いいもの読んだ!
ではまた~
---
月2回、東京都豊島区池袋で、読書交換会をやっています。人にあげても差支えがない本を持ち寄り交換する読書会です。
⇒東京読書交換会ウェブサイト
◆臼村さおり twitter @saori_u
思考していることを投稿しています。