「大阪に東京竹葉亭の支店があるから一度行ってみたら」と教えてくれたのは栄さんだ。あれから二ヶ月が経過した。私は友人と一緒に正装して出掛けた。どうやら一番乗りのようだった。
白焼きが出来るのをテーブル席で待ちながら「白鷹」を酌み交わす。白焼きとは鰻の持ち味を素直に楽しむ料理だと私は思う。
艶っぽい身に山葵をちょこんとのせて醤油をほんの少しつけて口に入れる。舌の上でふわーっと淡雪の如く融けてゆく瞬間がたまらなく好きだ。酒がたちまち無くなり友人は「菊正宗」と鰻丼(松)をたのんだ。
斎藤茂太さんとの見合いの時に緊張して箸をつけずにいた美智子さん(後に奥さんとなる)の鰻を茂吉が「食べないのなら私に頂戴」と言って他人の分まで腹に入れた話を紹介すると相方は驚いて大笑いした。


鰻はなんと二層になっておりボリュームたっぷり。口直しの肝吸いの塩分をさほど感じないほど上質な脂を蓄えている。白焼きと合わせて二尾は食べたことになる。老舗直伝の技に大いに満足して店を出た。
タクシーに乗って二次会に行ったが、満腹で生ビールを一杯飲むのがやっとであった。元気な友は美貌のママに「カレーくらいならまだ食べられますよ」と言った。隣で私が苦笑しているのを見た彼女は「止めときなさい」と話を遮り、柿の種以外は決して出さなかった。
こうして連休を利用した長い旅が始まったのである。
