2006年1月31日第1刷発行、文源庫、定価(本体¥1523+税)
野崎洋光さんはNHKの番組でよく見かける人で、実にシンプルでおいしそうな料理を作っていた印象がある。彼の文章はとても分かりやすい。京風懐石はあくまでも日本料理の一つに過ぎないと言い切っているところなどは読んでいて胸がすかっとする(笑)。現代人への警句には誰もが考えさせられるはずだ。
‥「とりあえずお腹を満たすことができる」便利な環境というのが、実は現代人の、とくに若い人たちの食生活の中身を貧しくしている一つの要因であると僕は考えています。僕は食事というものをたんに「お腹を満たす作業」と考えている人たちを、皮肉をこめて「養殖人間」と呼んでいるのですが、何の努力もなく食事が与えられる環境にあれば、人間も動物も食べることに対する熱意が薄れてきます。ただ与えられたもので満足して、食べ物に対する真剣さが失われてしまう‥〔本書92ページ〕
‥現代人は噛むことを忘れ、素材本来のおいしさを忘れ、油と調味料漬けになった料理をおいしいと思っている。僕にいわせれば、これは明らかに間違った方向です。そうやって人間が持っている本能的な部分を、どんどん退化させてしまっている。人間の生命力を衰えさせている。その結果が五人に一人の生活習慣病ということではないのかと思えてならないのです‥〔本書195ページ〕
‥うま過ぎるということと本当のおいしさとは違う。過ぎた味つけはやがて飽きがくる。過剰な味つけの料理は所詮いっときのもの。いずれ飽きられます。だから現代の料理人たちは手を変え品を変えて、さらに濃厚な味つけを追いもとめなければならなくなる。それでは本当の意味での食文化の継承とはいえません。毎日食べても飽きがこないものこそ、本当のおいしさだと僕は思うのです‥〔本書203ページ〕
野崎さんの見識に敬意を表するとともに、いつか彼の料理を食べてみたいと思う。
