一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『探偵はBARにいる3』 ……このシリーズは探偵版『男はつらいよ』かも……

2017年12月11日 | 映画


シリーズ第1作の映画『探偵はBARにいる』を見たのは、
6年前の2011年9月であった。
探偵・大泉洋、相棒・松田龍平という組み合わせが面白そうだったし、
なによりもヒロイン・小雪に魅力を感じた。
事実、とても面白く、満足したので、

映画『探偵はBARにいる』 ……ハードボイルドと純愛のカクテル……

と題してレビューを書いた。(赤字のタイトルをクリックするとレビューが読めます)
そのときはまだシリーズ化されるとも知らず、
〈シリーズ化されたらいいな~〉
と思い、

軽快でテンポが良く、ユーモアも随所にちりばめられていて、とても面白く見ることができた。
ハードボイルドには「非情な愛」がつきものだが、
この作品には「純愛」がカクテルされている。
それが見る者の胸を締めつけ、せつなくさせる。
観客動員次第では、続編もありえるし、シリーズ化される可能性もある。
そういう意味でも、映画化第1作となる本作は、見ておくべき作品と言えるのではないだろうか。


と書いた。
その予想が的中し、
第2作目となる『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』が公開されたのが、
第1作から2年後の2013年5月であった。
尾野真千子をヒロインに迎え、
こちらも楽しく見ることができたので、

映画『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』 ……尾野真千子の魅力全開……

と題し、レビューを書いた。(赤字のタイトルをクリックするとレビューが読めます)
そのレビューの最後を、私は次のような言葉で締めくくっている。

毎回、魅力的なヒロインを迎え、
この後も3作、4作と続編が制作されれば、
長く愛される国民的映画になるだろう。
あまりマルくなってほしくはないが、
ハードボイルド&ドタバタコメディで、
これからも我々を楽しませてくれることを願う。
小雪、尾野真千子に続く「謎の美女」のヒロインにも期待したい。
札幌・ススキノを主舞台とし、
前作では小樽、今作では室蘭でロケされている。
北海道をオンボロ車で走り回るが、
北海道は広いので、ロケ地には困らないだろうし、
どこでロケされるかも、映画を見る者の大きな楽しみ。
第3作が待ち遠しいぞ、私は……


この3作目となる作品がなかなか出来なかった。
待つこと4年。
ついにシリーズ第3弾となる『探偵はBARにいる3』が、
12月1日に公開された。
ヒロインは、北川景子。
他に、前田敦子やリリー・フランキーも出演しているという。
ワクワクしながら映画館へ向かったのだった。



妖しいネオンが瞬く、アジア最北の歓楽街、札幌・ススキノ。
この街の裏も表も知り尽くし、
「ススキノのプライベートアイ」と自称する探偵(大泉洋)は、
相棒・高田(松田龍平)の後輩から、
「恋人の麗子が失踪したので探してほしい」
との依頼を受け、引き受ける。


早速調査に乗り出すと、探偵は、
麗子(前田敦子)がアルバイトをしていたモデル事務所のオーナー・マリ(北川景子)と出逢う。


かすかな既視感を覚える探偵は、
マリの周囲を嗅ぎまわるうちにマリの手下に襲われ、
これまで無敗を誇った高田も波留(志尊淳)という若者に倒されてしまう。


次第に麗子の失踪の陰に、
裏社会で暗躍する札幌経済界のホープ・北城グループの殺人事件が見え隠れする。
マリはグループの代表・北城(リリー・フランキー)の愛人だった。


そんな中、何かを思い出す探偵。
なじみの元娼婦・モンロー(鈴木砂羽)が可愛がっていた、


今にも死にそうに震えていた女……
〈あれか……?あれがマリか……?〉
緊張が走る裏社会。
巨額の薬物取引。
2つの殺人事件。
……すべてはマリによる、北城をも欺く作戦であった。


そしてマリは、探偵に最後の依頼を託す。
その時、探偵と高田の別れへのカウントダウンが始まっていた……




今回も、探偵(大泉洋)の過酷なアクションシーン満載で、
大いに楽しませてもらった。
船の先端にパンツ一丁で括りつけられ寒風に晒されるというシーンには思わず笑ってしまった。


ロケをしたのは2月の北海道だそうで、
こういう風に大泉洋がひどい事になっているのを見て喜ぶ……というのが、
このシリーズの“売り”であるし、(コラコラ)
〈今度はどんなひどい目に遭っているんだろう……〉
と、ワクワクしながら見るのが、シリーズファンの良き鑑賞法と言えるだろう。(爆)
このシリーズは売れっ子脚本家の古沢良太が担当しているのも楽しみのひとつだが、
大泉洋は、その古沢良太から、
「日本一ひどい目に遭う芝居が似合う男」
「天性の被害者アクター」
と呼ばれているそうで、
それに対し、大泉洋は、『キネマ旬報2017年12月上旬号』で、

困っちゃうんだよね~ そういうの。でもみんな、楽しみにしているからねえ、僕がどんな風にヤラれるのかを。だいたい北海道の人たちはもう、この20年あまり、僕がひどい目に遭うのを日々楽しみに待っているんです。『水曜どうでしょう』からずーっと。皆さん、それを見ると溜飲が下がって元気が出るみたいで。(笑)「映画でもキミたちは、僕がひどい目に遭うのを待っているのかい」と声を大にして言いたい。本当にね、道民の皆さん、いや、北海道からいくらかお中元をいただいてもいいんじゃないかと。

と言っているのだが、
それに対し、古沢良太が、

そうは言っても、ひどい目に遭っても「決して可哀想に見えない」っていうのが、大泉さんの美点ですよ。

と答えているのが可笑しい。


このように、大泉洋に対する拷問のようなシーンが“売り”ではあるのだが、
前作がPG-12だったのに対し、
今作はPG-12に指定されてはおらず、
過酷なシーン満載ではあるが、残虐なシーンはほとんどない。
それは、シリーズ3作目にして、監督が代わったからだ。
1、2作目を監督した橋本一から、
第3作は吉田照幸に代わっている。
吉田照幸はNHKに入局し、
サラリーマンを題材としたコント番組『サラリーマンNEO』の企画立案や、
2013年度上期の連続テレビ小説『あまちゃん』の演出を手掛けるなどした人で、
吉田照幸のカラーがよく出た作品になっていると言えるだろう。


シリーズ3作目の『探偵はBARにいる3』が、前2作と違うことは他にもあって、
相棒・高田(松田龍平)の新しい面を見ることができるということ。
普段は北海道大学農学部の助手をしているのだが、
今回、ニュージーランドの教授から教えを乞うため、
札幌をから引っ越すという設定になっている。
〈いよいよコンビ解消か……〉
と、探偵(大泉洋)が、いや、鑑賞者も感傷的になる。
果たして、真相は……


それから、無敗を誇った高田(松田龍平)が、初めて喧嘩で負けるシーンがある。
高田は空手の師範代であり、喧嘩が異常に強く、度々探偵の窮地を救うのだが、
今回、波留(志尊淳)という若者に1回倒されてしまう。
果たして、2回目は……


このシリーズ常連の共演者も健在で、
見る者を楽しませてくれる。
桐原組若頭・相田(松重豊)、


北海道日報の敏腕記者・松尾(田口トモロヲ)、


ススキノの陽気な客引き・源(マギー)、


「2」から登場のショーパブ“トムボーイズ・パーティー”のママ・フローラ(篠井英介)、


探偵の行きつけの喫茶店“モンデ”の看板娘・峰子(安藤玉恵)。


私は、ことに、この安藤玉恵が大好きで、
彼女が出演している映画のレビューでは、必ず彼女について触れるようにしているのだが、
本当に芝居が上手く、存在感のある女優だと思う。


安藤玉恵が出演しているだけで、私は嬉しくなるのだ。


そして、ヒロインを演じた北川景子。


彼女も良かった。
探偵とヒロインとのプラトニックな恋愛もこのシリーズの“売り”のひとつで、
「男はつらいよ」シリーズの車寅次郎(渥美清)と「マドンナ」との関係に似ているが、
今回、初めて、探偵がヒロインと関係を結ぶ。(ほんまかいな?)
そこら辺りの微妙な(美しい)関係性が好いし、切ない。
毎回、この“切なさ”を楽しみしているのだが、北川景子もそれを裏切らない演技をしている。


ここまで書いて気が付いた。
『探偵はBARにいる』シリーズは、
探偵版『男はつらいよ』シリーズであると。(笑)
そういう意味で、今後もシリーズを続けてもらいたいし、
早めに4作目、5作目を見たいと思う。


最後に……
この『探偵はBARにいる3』には、
エンドロールの後に、もうワンシーンがある。
これがなかなか好いのだ。
このワンシーンについて、古沢良太と大泉洋は『キネマ旬報2017年12月上旬号』で、次のように語っている。

古沢 あれはエピローグとして、ダラダラと長いセリフのやりとりを書いておいたんです。本当はスパッとオチを付けて、綺麗に終わりたかったんですが、そのまま吉田監督に委ねてしまって……そうしたら、完成作では大泉さんと松田さんが超ベテラン漫才師のような呼吸で喋っていて!

大泉 龍平くんが素晴らしいですよねえ。あのエピローグを観るのと観ないのとでは、映画のニュアンスがまったく変わってしまうことを、ここで力説しておきます!

ということで、
場内が明るくなるまでは、絶対に席を立たないようにね。


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