哲学者か道化師 -A philosopher / A clown-

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宮崎駿『崖の上のポニョ』

2008-09-06 | 映画
 宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』も見た。実質的なライバルの押井監督は『ポニョ』について、「老人の妄想」とうそぶいたそうだがまあ、『スカイ・クロラ』も『ポニョ』もどっちもどっちだと思う。でも、この『ポニョ』については、好きでもないあのネタを言わざるを得ない。
「ポニョかわいいよポニョ」

 あらすじは、一言で言えば現代の『人魚姫』。ポニョは魔法の力を持つ父親のもとから逃げ出し、ある男の子と出会う。男の子とポニョはお互いを気に入るが、ポニョは父親の手で連れ去られてしまう。しかし、諦めない男の子とポニョ。ポニョは父親の魔法の力を盗み出し、男の子に会いに行く。 

 『ポニョ』は宮崎監督が現代の子供の未来を案じて作ったという映画だそうである。そのため、小さい子が退屈しないように約一時間半と短い上映時間で、さらにエンド・テロップまで例の「ポニョの歌」のワンコーラスに収めるという、見やすい映画になっている。しかしまあ、いつものジブリ・アニメぽさはかなり強い。特に気になったのは、男の子のお母さん。子供と親が名前で呼び合うという現代的な家族を描こうとしたようだが、このお母さんがいつものジブリ・アニメの肝っ玉母さんそのまま。途中、いねーよ、と突っ込んだ。こういってはなんだが、今の団塊ジュニアくらいの世代の子供の扱い方なんか、見ていて心苦しくなるほど殺伐としているぜ。子供に向かって「調子に乗んな」とか吐き捨てているし。閑話休題。しかも、軽と思しき自動車にMTで乗っているのもよくわからん。これは、監督の機械好きが強く反映されている部分ではないかと思う。また、お父さんが船長でいつも家に不在なのだが、今のお父さんの存在感の無さを表しているのかと思った。それに尺が短いせいか、最初の方に出てくる女の子とか、活躍するのかと思いきやほとんど出番がないキャラも多い。

 総じて言えば、『ポニョ』も『スカイ・クロラ』と同じく、精神分析的、あるいは象徴的に見ればすごくわかりやすい作品だが(たとえば、ポニョは男の子と暮らすために魔法の力を失う)、一方でテーマやメッセージとなると、いまいちはっきりしない感じだ。たとえば、ポニョと男の子がトンネルを抜けようとするシーンがあるのだが、ポニョはそこを通るのを嫌がり、なんとかそこを通ろうとすると魔法の力が弱まってしまうのである。しかし、作中そのトンネルがどういうものなのかという説明はなく、イメージ的に、トンネルって怖いよね、というふうに押しつけられた感じだ。全体的に、ポニョのお父さんの態度もよくわからないし。それに、5歳児なみの女の子が魔法の力を得たからって、すぐに世界が崩壊しそうだ、という話になるのも、セカイ系のジョークかと思った。たぶん、この映画の主人公たちと同じ5歳くらいの観客をターゲットに作っているため、難しいあらすじなんてわからないよね、ならイメージで繋ごう、というふうに、逆に子供をなめた映画になっているのではないかという危惧すら感じもする(ただし、大人でも難しい部分もかなり多い)。結構子供でも、物語に反応はすると思うんだけどなあ。なんとも子供がどう見るか感想を聞いてみたい映画だ。

 じゃあ、『ポニョ』は駄作なのか?という声が聞かれそうなものだが、これまでさんざん言い散らしてはきたが、そうは思わない。『ポニョ』は泣ける映画なのだ、おっさんにとって。というか、この映画にちょっと泣けてきたことで、まだ20代前半の僕自身が、おっさん化しているのを感じた。だって、ろうそくの火が水を温めて進むおもちゃの船を、魔法の力で大きくして、津波で沈没した町を旅して、人々にあっていくとか(ついでに言えば、好きな女の子と)、すごく夢があるでしょう。正直、このシーンはちょっと中ダレしてきたところでもあったが、大らかでいいシーンだと思った。でも、ポケモンとか遊戯王とかをやっている今の子供たちの胸に響くのかといえば、ちょっと微妙。でもいい、僕の胸には響いた。こう考えると、押井監督の「老人の妄想」というのは、実にうまい批評だと思う。さて、『スカイ・クロラ』と『崖の上のポニョ』はヨーロッパの映画賞にもっていかれているが、どんな評価を受けるかな?

 結論を言えば、僕は『ポニョ』を傑作だとは思わない。やはり、ちょっと無理のある映画ではあった。万人に受け入れられる映画ではない。それでも、心に残る映画だと思う。うーむ、監督のロリコンとマザコンもここまでくれば立派!

追伸:ヨーロッパでも賞は逃したけど大受けだったらしいから、やっぱり傑作ということでよいのかと。ああいう神話的なイメージって、ちゃんと伝わるものなんだなあと感心した。熱烈なファンも熱烈なアンチもいるし、結構見る目を問われる映画なんだろうなあとも思う。とりあえずは、『千と千尋の神隠し』を抜いて、宮崎監督の最高傑作という評価が定まりそうな予感。

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