『週刊現代』より
*****
熊本地震で覆される原発の安全評価〜テレビは結局、あの事故から何も学んでいない!
報道されなかった「想定外」の事態
本コラムは、今号を含め、あと2回で終了することになった。最後に、どうしても伝えたいのが、今年4月の熊本地震と、原子力発電所の再稼働の問題だ。
熊本地震では、いくつかの「想定外」の事態が起きた。まず、4月14日に震度7の地震が起き、これが本震だと思われていたが、16日にも再び震度7の揺れが起き、実はこちらが本震で、14日のほうは前震に過ぎなかったことが判明した。
そのうえ、異なる3つの地域で地震活動が連動し、活発化。政府の地震調査委員会の想定を遥かに超える30km近くが動き、それまで知られていなかった断層が見つかった。いずれも、現代科学の限界を露呈する事態だ。
これらの話は、テレビのワイドショーでも繰り返し報道されたが、もうひとつ重大な「想定外」の事態が生じたことは、ほとんど報じられていない。
実は、これまで規制委が用いていた基準地震動(各原発ごとに定められる、想定しうる最大の揺れ)を算出する「入倉・三宅式」と呼ばれる計算式に、熊本地震で得られたデータを入れて計算すると、想定される揺れが、何と実際の揺れの3分の1から4分の1に「過小評価」されるというのだ。しかも、これを主張したのは、規制委の初代委員の一人だった地震学の権威、島﨑邦彦東大名誉教授である。
この計算式は、すでに再稼働の審査で合格を出してしまった関西電力高浜原発のほか、間もなく合格すると見られる関電大飯原発や九州電力玄海原発の安全性評価にも使われている。つまり、審査の根拠が根底から覆される、大変な事態だ。
島﨑氏に反論できなかった規制委はやむを得ず、大飯原発については試算し直すと発表したが、高浜については再計算を拒否している。その理由は、「断層から遠いから大丈夫『だろう』」という、いい加減なものだ。
もちろん本当の理由は、高浜3、4号機が動かせなくなるのを防ぐことだ。同機は規制委から安全の「お墨付き」を与えられて再稼働したが、大津地裁の仮処分で運転停止に追い込まれ、現在係争中。基準地震動がひとつの争点になっている。再計算となれば、再稼働は当分できない。
もうひとつ、稼働後40年超の老朽原発である高浜の1、2号機については、7月7日までに20年以内の運転延長を規制委が例外的に認めなければ、廃炉になってしまうという事情があった。テレビ局にとって、電力会社は大事なスポンサー。その意向を忖度して原発再稼働の障害になるニュースは流さないのが不文律になっているようだ。
また、原発を選挙の争点から外したいという官邸の意向に沿うことにもなるから、一石二鳥。こうしてテレビが報じなければ、大きな騒ぎにならず、うやむやになる可能性が高い。つい先日、規制委が1、2号機の運転延長を容認したのはご存知の通り。
以前、規制委は「原発の安全を守るための組織」ではなく、「原発をとにかく動かすための組織」だと指摘したことがあるが、いままさに、その通りの状況にある。そして、テレビ局はひたすら電力会社と官邸の意向に沿って報道する。彼らは、福島原発事故の教訓から、何も学んでいないのだ。
『週刊現代』2016年7月9日号より
*****