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アメリカの「ぼったくり兵器」の押し売りに、ノーと言えない防衛省

2017-07-22 | いろいろ

より

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アメリカの「ぼったくり兵器」の押し売りに、ノーと言えない防衛省  半田滋

価格が突然2倍に釣り上げられ…

技術者の生活費まで「コミコミ」

 尖閣問題で揺れる東シナ海を高高度から監視する切り札として、防衛省が調達を決めた米国製の滞空型無人機「グローバルホーク」。2020年の導入を前にして早くもお荷物になりつつある。

 3機の買い入れを決めたところ、米政府は調達から廃棄までのライフサイクルコストについて、機種選定の際に示していた金額の2倍近い3000億円以上を吹っ掛けてきたのだ。

 費用がかかっても日本防衛に資するなら我慢もできよう。肝心の性能は防衛省が求めるレベルに及ばないことも判明、省内では「調達を断念すべきではないのか」との声も上がっている。

 「えっ、また言ってきたのか」

 今年4月中旬、米国防総省を通じて、グローバルホークを製造するノースロップ・グラマン社が機体価格を合計100億円値上げすると防衛省に伝えてきた。慌てた防衛省は5月半ば、急きょ担当幹部を米国へ派遣、国防総省や同社との間で協議を開始した。

 機体価格は1機158億円で3機合計すると474億円。これを合計600億円程度まで値上げするというのだ。

 値上げは今回が初めてではない。防衛省は2014年、滞空型無人機の機種を選定する際、ガーディアンER(米ジェネラルアトミック社)と比較し、グローバルホークに軍配を上げた。

 グローバルホークは2万㍍の高高度から偵察する無人機で、武器は搭載していない。米空軍が63機を調達する予定だったが、開発の遅れと価格高騰により、45機に削減、またドイツが導入をキャンセルするなど、売れ行きはよくない。

 その点、日本は救世主のはずだが、選定段階で3機を20年間使って廃棄するまでの総額、すなわちライフサイクルコストは約1700億円だと説明していた米政府は、機種選定が終わると3269億円に上方修正した。後出しじゃんけんとはこのことである。

 一方の防衛省は2014年度防衛費に調査費2億円を計上したのを皮切りに、15年度154億円、16年度146億円、17年度168億円と取得費を積み上げて導入を既成事実化し、キャンセルしにくい状況となっている。

 こうした日本側の事情を見透かすように米側は再び値上げを通告してきたのである。

 グローバルホークの価格高騰は前例がある。米政府が2009年、韓国に示した金額は4機と要員訓練費などの合計約4億㌦(440億円)だったが、2012年米国が正式に売却を決めた際の価格は3倍の12億㌦(1320億円)になった。

 「安値で釣り、高値で売る」という催眠商法のような米国流の武器商売は予想されていたにもかかわらず、防衛省はまんまとその手を食わされたことになる。防衛省が負担するのは機体価格だけではない。遠隔操作に必要な地上装置や整備用器材などを含めると導入にかかる初期費用は実に1000億円にもなる。

 この負担とは別に維持管理のための費用が毎年約100億円もかかる。驚くべきことに、この費用の中に3機が配備される青森県の三沢基地に滞在することになる米人技術者40人の生活費約30億円が含まれているというのだ。

 よもや技術者に支払う給料まで日本側に負担させるわけではないだろう。すると一人あたり、年間7500万円を日常生活にかける計算。どれだけ優雅な暮らしをさせようというのか。

とんでもなく不自由

 「なぜ生活費の負担までするのか」との防衛省側の問いに米側は「彼らは米国での生活を捨てて日本のために働くのだ」と「さも当然」と言わんばかりの回答だったという。

 価格高騰したり、米人の生活費まで負担したりするのは、日本政府が米政府から直接、購入するFMS(対外有償軍事援助)という米国独特の売買方式が関係している。

 FMSは米国の武器輸出管理法に基づき、①契約価格、納期は見積もりであり、米政府はこれらに拘束されない、②代金は前払い、③米政府は自国の国益により一方的に契約解除できる、という不公平な条件を受け入れる国にのみ武器を提供する。

 売り手と買い手の双方が納得して契約する一般的な商売と異なり、購入する側に著しく不利な内容だが、高性能の武器が欲しい国は甘んじてFMS方式を受け入れる。世界一の武器輸出大国でもある米国は160カ国以上とFMS契約を結んでおり、日本も例外ではない。

 グローバルホークは防衛省に渡された後も主要な維持管理を米側が担うため、日本側が滞空型無人機の製造技術や整備技術を習得したくても自由に触れることさえ許されない。安倍晋三政権のもと「防衛装備移転三原則」の名目で武器輸出を解禁し、米国のライバルとなる可能性が出てきたことも、不利な条件を飲まされる一因とみられる。

 配備先が三沢基地に決まったのは、米軍がグローバルホーク4機を配備するグアムが台風に見舞われる7月から12月初旬まで機体の避難先として三沢基地を選んだことによる。

 日米のグローバルホークが集中すれば、なにかと便利、という米側の理屈だが、本州最北にある三沢基地は降雪の心配があり、防衛省は冬場だけ自衛隊版グローバルホークを那覇基地へ避難させることも検討する。

 日本のカネで購入しながら、不自由な運用を余儀なくされる運命のグローバルホーク。それでも日本防衛に不可欠であるなら、受け入れる余地はあるだろう。

 しかし、防衛省が求めるほどの性能は発揮できないことが少しずつわかってきた。日本に提供されるのは最新型ではなく、ひとつ古いブロック30というタイプ。防衛省は最新型の提供を期待したが、FMSのため米政府の判断に従うほかない。

 そもそもグローバルホークは陸上偵察用に開発され、洋上偵察は不向きとされる。防衛省が予定している尖閣諸島を含む東シナ海の上空からの洋上偵察は、ミスマッチというほかない。

 では北朝鮮対策に使ってはどうか。北朝鮮の偵察は海上自衛隊のP3C哨戒機を改造したOP3画像データ収集機がすでに行っている。撮った画像は鮮明とされる。OP3の飛行時間が10時間なのに対し、グローバルホークは36時間と滞空時間こそ優るが、精密な画像は上空から送れず、地上に戻って取り出す必要があるため、滞空型の利点は生かせないことになる。防衛省幹部は「高価格なのに性能はいまいち、といったところ」と不満を漏らす。

誰も求めていない

 さらに奇妙なことがある。武器類は陸上、海上、航空のいずれかの自衛隊が要求するが、グローバルホークはいずれの自衛隊も導入を求めていないのだ。

 安倍政権が閣議決定した5年間の武器買い入れ計画である中期防衛力整備計画(2014年度~2018年度)に「滞空型無人機を新たに導入する」と書かれているものの、陸上、海上、航空どの自衛隊の項目にもなく、「共同の部隊」が保有することになっている。

 現在の担当は制服組の陸海空の幕僚監部ではなく、背広組の内部部局にある防衛計画課に割り振られている。背広組が武器導入の受け皿になるのは極めて異例だ。

 購入後の「共同の部隊」のあり方をめぐり、省内で押しつけあった結果、「飛行機だから」との理由で機体は航空自衛隊が管理し、「情報収集だから」との理由で情報本部が収集したデータを扱うことが決まった。もはや話はグズグズなのだ。

 前出の幹部は「今となっては導入の言い出しっぺがだれなのか分からない。政治銘柄かも、と自民党国防族にあたったが、だれも知らないというのです」と困惑する。

 「ならば政治の圧力はないはず」と省内で武器導入を統括する防衛装備庁は、無人機で高い技術を持つイスラエルとの連携に着目した。イスラエル製の無人機はグローバルホークに近い性能を持ちながら、価格は数分の1程度。グローバルホークの代わりにイスラエルとの共同開発機に差し替えることを検討したのだ。

 しかし、対米追従の姿勢が目立つ安倍首相の「お気に入り」、稲田朋美防衛相は記者会見でイスラエルとの共同開発について問われ、「現時点では計画はない」とあっさり答えて関心を示す様子はなく、話は立ち消えとなっている。

 このまま行けばグローバルホークは2019年度末以降、つまり2020年の東京五輪・パラリンピックの年に自衛隊に配備される。秘密を扱う情報本部に配属されるため、たとえ能力不足が露呈しても防衛秘密の壁に阻まれ、その事実が公表されることはない。

 北朝鮮の弾道ミサイル発射を契機に内閣情報衛星センターがつくられ、4機の情報収集衛星が運用開始されて久しいが、1枚の画像さえ公表されていないのと同じく秘密の海に沈むことになる。

 グローバルホークは目立つ武器でもないうえ、3機と機数も少ないせいか、費用対効果に見合うかどうか、米国によるさらなる日本支配の道具に使われないかなど論点が多いにもかかわらず、国会でまともに議論されたことは一度もない。むしろコトを荒立てないことにより、問題の風化を期待する防衛官僚すらいる始末だ。

 これだけは言える。防衛省は武器調達をまじめに行っていない。年間5兆円を突破した防衛費の一部は「税金の無駄遣い」と批判されても仕方ないのである。

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 半田 滋
 1955年(昭和30)年生まれ。下野新聞社を経て、91年中日新聞社入社、東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。92年より防衛庁取材を担当している。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に、「零戦パイロットからの遺言-原田要が空から見た戦争」(講談社)、「日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊」(岩波新書)、「僕たちの国の自衛隊に21の質問」(講談社)などがある。
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