阪神間で暮らす

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自衛隊配備と闘う母親たちの選挙 その結果は…

2017-01-26 | いろいろ

より

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第64回

   ヘリパッド建設やオスプレイ強行配備に反対する沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いた『標的の村』、そして美しい海を埋め立てて巨大な軍港を備えた新基地が造られようとしている辺野古での人々の戦いを描いた『戦場ぬ止み』など、ドキュメンタリー映画を通じて、沖縄の現状を伝えてきた映画監督三上智恵さん。今も現場でカメラを回し続けている三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。不定期連載でお届けします。


自衛隊配備と闘う母親たちの選挙 その結果は…

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 陸上自衛隊のミサイル基地を容認した宮古島市長・下地敏彦候補に挑んだのは3人。保守1人、革新2人だ。今回の宮古島市長選挙、自衛隊配備問題が島を左右する大きな争点だというのに、それに反対する革新側が候補者を絞り切れなかった。それが敗因になることは誰だってわかっていた。このことは今更の話だ。「大人の事情」という子どもじみた人間関係のもつれが、いつだって大事な時に人間の結束を砕く。どこだってそうだ。主義主張が似ている者同士だからこそ、分かり合えなかった傷口は生々しく、感情のしこりは質が悪い。それはもう言うまい。

 結果は現職が辛うじて逃げ切った。でも下地敏彦候補9587票に対し、2人出てしまった革新のうち奥平一夫候補が9212票まで迫った。人口5万5千人の宮古島市で375票差。本当の横一線の闘いだった。社民・社大が推した下地晃候補の4020票があったら楽勝だったとは、もう言うまい。最大の争点だった自衛隊問題だけで見たら、配備に反対していた2候補の得票13000人であり、今回投票した有権者の44%が確実に自衛隊配備に反対していることになる。これは大きい。

 保守から市政刷新を訴えて立候補した真栄城徳彦候補は、自衛隊配備は住民投票をしてから決めるべきだと主張した。「反対」と「民意を問うてから進めるべき」という人、つまり現市長の進め方を否定する2つの立場の合計は、19777票だから67%になる。今のまま配備ありきで進んでいいとしたのは、投票した人のわずか32%。そして投票率が68.28%と低かったため、自衛隊に積極的に賛成した人は、当日有権者数43401人のうちの22%に過ぎないのだ。

  この結果を受けても、さすがの狸おやじである。当選した下地敏彦現市長は即座にこういった。

 「配備の賛否が大きな争点となり、今回の選挙で市民が配備を認めると判断したと考えている。ある意味、今選挙は形を変えた住民投票だったと思う。住民のほとんどが参加し、結論を出した」

 市長選としては投票率は過去最低の68%だというのに、「ほとんどが参加した」と言い、全有権者の2割しか自衛隊配備に賛同していないのに「自衛隊配備を認めるという結論が出た」と断定した。片腹痛い。そして「住民投票は必要ない」と、ことあるごとに自衛隊問題の住民投票を否定してきたご本人が「これは住民投票だったと思う」という。明らかにこれは、今後、住民投票が提起されるのを牽制したものだ。住民投票が成立したら覆されるということを一番よくわかっているからこそ恐れているのだろう。

 しかし、数字をちゃんと見ずに短いニュースでコメントだけを聴く市民は、市長が結論が出ましたと言ったら、そうなのかと思ってしまう人もいる。宮古島の知人から何人も、残念だったね。でも賛成が多いならあきらめるしかないということさ、などと電話をもらった。ため息が止まらない。自衛隊配備反対をあきらめるような結果ではないはずなのだが。

 今回、わたしの新作ドキュメンタリー映画『標的の島~風かたか~』の主人公たちでもある宮古島の自衛隊配備に反対する若いお母さんたちのグループ「てぃだぬふぁ 島の子の平和な未来をつくる会」から共同代表の石嶺香織さんが、同時に行われた市議会議員の補欠選挙に出馬していたことは前回ここに詳しく書いた。選挙の終盤から投開票までの様子を今回動画にまとめたので、ぜひ時間のある時に見てほしい。

 基礎票もなく支援団体もない、地縁血縁さえない3人の子を持つママさん候補がどんな闘いをしたか。無謀といえば無謀。準備や下積みや秩序や慎重さを重視する当たり前な人たちの中には、暴走だ、無謀だと彼女たちにブレーキをかける人たちも多かった。正論だと思う。でも、既成の概念やがんじがらめの島の構図を突き抜けていく力というのは、常識派が目をむくような突拍子もないところから飛び出してくるのだろう。暗雲に覆われて窒息しそうな空の下、ほんの一瞬だけ刺す光にさっと手を伸ばし、「あそこに行こう!」と叫ぶ瞬発力と、すぐに「それいいね!」と躍り上がって続いていくノリ。多くの場合、それは若者の特権なのだろうが、今は若い人の方が常識の枠を気にしてスマホの中の世界にだけ居場所を求める風潮にある。香織さんの周りに集まってきたのは、決して若いと言えない人も大勢いたが、感性で生きる自由度の高い人々だったのだろう。少人数ながらハートのある、しかし呑気で票読みする人もいない、笑顔が絶えない、あまり見たことのない選挙戦だった。

 終ったから正直に言うが、わたしは石嶺香織さんという人には、ママさんグループの代表でいてほしかった面もある。市議になってしまえば市民全体に奉仕するのだから、一つのグループに首っ引きではいられないし、何より、信念をもって活動する市民の姿はドキュメンタリーになるが、市議の政治活動を撮影しても観客に面白がってもらえるかはわからない。でも、当選は無理でもきっと、彼女の選挙活動が自衛隊問題への関心を高めるだろうし、市長選自体が盛り上がるからいいだろう、そんな風にしか当初は思っていなかった自分がいた。まさか、街宣カーも準備できずに第一声を上げた素人候補者が、当選するとは思わないではないか。

  そう、彼女は当選したのだ。補選トップ当選の前里こうけん候補8374票、2位の石嶺香織候補は7637票で、次点に3000票差をつけた堂々たる結果だった。7600人もの人が彼女を見ていてくれた。3人の乳幼児を抱えて奮闘してきた姿を知っていてくれたのだ。資金も知名度もないけど正義感と情熱は人一倍ある、それでどす黒い雲が渦巻く政治の闇に飛び込み、雲間を広げたという快挙。

  人はみなオリンピックが大好きで、体操選手の宙返りのように自分には到底できない人類の技に歓声を上げ、拍手を送る。スゴイ人はスゴイものだと感動するのだろう。でも私にとっては、自分には到底できない事を次々にやってのける彼女たちの方が、インパクトがある。みんながあきらめている「政治」。変えられそうもない構造。開きそうもない古い扉。重くて醜い現実を直視することだけでも、普通は耐えられないのに、そこに正面から切り込んでいくというアイディア自体が、3回転半に挑戦するアイススケート選手と同様にすごいと思う。

 私にはできない。あんなに人を信じられないし、自分の力をあそこまで認めていない。この状況が最悪であるということを認識する力は持っているが、彼女たちは認識して向き合う力だけでなく、打破することができると思い込むほどの強い信念の力を持って行動できてしまう。私は、映像を使って人々に知らせて、目覚めた国民を一人でも多く作ることで、大衆の力で状況を変えていこうと頑張っている。すごい遠回りで、手間暇かかっている。ところが彼女たちは「私が」乗り込んでいって変えよう!という。市議会にも、審議会にも、ヒロジさんが逮捕されている名護署の中にもどこにでも、その体ひとつ、いや、赤ちゃんを抱いて入っていって「まず話をしたいのです」と向き合う。みんな面食らうのだけれども、彼女らのその凛とした強さは、私にとっては月面宙返りより「すげえ!」ことなのだ。

 宮古島市議会は、議員26人中女性は石嶺香織さん一人。自衛隊に反対しているのはたったの3人。どれほどこれから苦労するだろうか。私はかわいい妹を猛獣の檻に放すくらい、心配でならない。自衛隊問題だけやっているわけにはいかないし、市議として猛勉強しつつ3人の子育ても佳境で、潰れるのではないかと凡庸な老婆心が動く。でも彼女は猛獣たちを恐れてはいない。獣の足にかみついたネズミは小さいかもしれないが、どんなに振り払っても噛み付いた正義の歯は猛獣のスネに深く刺さったまま。そう、彼女は相当しつこい。納得するまで諦めない黄金のネズミなのだ。

  香織さんはさっそく、当選証書授与式に0歳児のひなちゃんを伴って参加した。ひなちゃんは待機児童である。「仕事場に連れてくるな」と言うならば、保育所待機児童問題を解消せよ! と訴えるところから香織旋風の始まり始まりなのである。



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