10月26日(木)に発表が延期されていた"
平成29年度 介護事業経営実態調査の概要(案)"が介護給付費分科会審議会 介護事業経営調査委員会で報告され、速報値をTwitterでお伝えさせていただきました。
27日(金)には第148回社会保障審議会介護給付費分科会が開催され、私も聴講してまいりました。
当日は座長を勤めていらっしゃる田中滋慶應義塾大学名誉教授も驚かれるぐらい審議が順調に進むという異例の事態(?)となった給付費分科会でした。
その原因は、報告された"介護事業経営実態調査"の各介護サービスにおける収支差率(サービス活動増減差額率、収支差額率)が全サービス平均3.3%、前回に比べマイナス0.5ポイントに悪化しています。
サービスごとの収支差額率をみても、ほとんど下がっており、現場の経営状況の実態を表していると誰もが共感できる数値だったからだと推察されます。
前回の報酬改定では特養の収支差額率8.7%とアドバルーンが上がり、結果5.5〜5.6%のマイナス改定を食らった特別養護老人ホームで0.9ポイント減の1.6%、通所介護でも2.2ポイント減の4.9%となっています(通所介護、訪問介護はまだ高水準だから、マイナス改定が望ましいといった意見がすでに出始めています)。
今回は、私が関与している調査・分析業務で培った視点をもとに、今回の特養における"介護事業経営実態調査"の結果を深掘りしたいと思います。
【全体結果】
上記資料は今回の特養における全体平均の結果です。
一番右側に"(参考)平成26年介護調査(平成26年3月収支)"と記載があります。
左側の「③=①-②」の段に8.7%と記載があると思いますが、これが前掲した特養は儲けすぎの根源(収支差額率)です。
しかし、"平成28年度 概況調査"に平成26年度決算と平成27年度決算と記載がある同じ段の収支差額率をみてください。
平成26年度決算は3.0%、平成27年度決算は2.5%となっています。
何か違和感を感じましたか。
"平成26年度介護調査(平成26年3月収支)"では8.7%であったにも関わらず、平成26年度決算に基づく"平成28年度概況調査"の平成26年度決算の数値は3.0%と、5.7ポイントも差異があるのです。
前者は3月単月の収支の数値(いわゆる瞬間風速)から、後者は1年間の活動成果の数値(経営の凸凹を踏まえた)から導き出されていますが、これほど大きな差異がそもそも出るのでしょうか?
「8.7%は嘘だったのか?」といった憶測が飛びかっても良さそうですが…。
より施設経営の実態を明るみにするため、3月単月の収支状況ではなく、1年間の決算書の数値に基づく調査に今回から変更になりました。
ただし、当時は関係者がこの結果を覆すほどのエビデンスを示すことが出来ませんでした。
要するに、団体単位で会員施設全体の経営状況(実態調査的なエビデンス)を把握しているところが多くはありませんでした。
よって、前回は全体で2.27ポイントのマイナス改定に至ってしまったのです。
と、この1枚だけでもツッコミどころ満載なデータなのです。
では、今回の"平成29年度実態調査"の結果ですが、全体の収支差額率は1.6%でした。
正直ここまで低くなるとは思っていませんでしたので、金曜日の会議に参加した方々も前回のように反論することもなく、納得感の高い結果と言えます。
収支差額率が低下した原因としては、「(1)給与費(人件費率)」の上昇が挙げられます。
概況調査の人件費率をみると、平成26年度決算62.6%、平成27年度決算63.8%(1.2ポイント増)、平成28年度決算64.6%(0.8ポイント増)と年々上昇傾向にあります。
定期昇給や介護職員処遇改善加算の影響と考えられます。
ただし、Twitterでもつぶやきましたが、人件費率を構成する「職員人数×賃金水準」の内、前者は業界的に人材不足の状況にあります。
「常勤換算職員1人当たり利用者数」の変動がないということは、「常勤換算職員数一人当たり給与費」が上がっているため、賃金水準が上がったといえます。
しかし、人件費を構成する科目の中の「派遣職員費(人手不足を補う)」の実態がこの結果からは知ることが出来ません。
人件費率上昇の原因が、介護人材不足を「賃金水準を上昇」させて補おうとしているというロジックだけでは、あまりにもお粗末だと指摘せざるを得ません(そんなに職員確保は簡単なものではありません)。
【居室形態別】
続いて、「ユニット型」と「ユニット以外(従来型)」の居室形態別に経営状況をみていきます。
収支差額率はユニット型が3.2%、従来型が0.4%です。
ユニット型の施設が高いのは、基本報酬が従来型に比べて高く設定してあるためです(利用者の居室のプライバシー確保を政策的に推し進めることを意図しています)。
その一方で、ユニット型の自己負担額が有料老人ホーム並みに高額なため、従来型のニーズも一定数あるため、ユニット型への転換を躊躇している法人様もいらっしゃいます(この辺のバランスは国が意図したようには進みませんね)。
また、従来型に比べ、ユニット型は開設したのが比較的新しい施設が多く、若年層の職員や賃金水準が低めに押させられていることが要因として挙げられます。
ユニット型は設備資金借入金の返済負担が従来型に比べ重く、借金返済のためにある程度の収支差額を出さなければなりません。
資料の「19 設備資金借入金元金償還金支出」、「20 長期運営資金借入金元金償還金支出」の項目をみてもらうと、従来型に比べ4倍ほど異なります。
従来型の施設は開設年度の古い施設が多く、借入金がほぼ完済されつつあり、また昔は施設整備補助金が手厚かったため、現在のユニット型ほど借入金返済負担は重くありませんでした。
ただし、従来型の多くの施設が大規模修繕や建て替えを控えていることでしょう。
昔のような補助金はなく、自己資金と福祉医療機構からの借入金で事業計画を策定して、返済していくことになります。
従来型の基本報酬はマイナス改定が続いていますから、「準ユニットケア」を視野に入れた計画の検討が必要と言えるでしょう。
【級地区分別結果】
最後に級地区分別の結果です。
実はこの資料が一番衝撃を受けました。
どこかと申しますと、マーカーをつけている、①1級地と2級地の収支差額率が1%を下回っている、②前掲の「19 設備資金借入金元金償還金支出」、「20 長期運営資金借入金元金償還金支出」を引くと、収支がマイナスになる、の2点です。
特に②については、国も想定以上に悪化している実態を目の当たりにしてしたのではないかと感じました。
1級地である東京都は、都独自の補助金(サービス推進費)が収支の2〜3%を占める大きな収益源となっています。
これがなくなると、大都市・首都圏特有の物価の高さや設備整備費用の高騰などのあおりをそのまま食らってしまいます。
また2級地では、東京都の狛江市や多摩市、神奈川県の横浜市や川崎市、大阪市が該当します。
横浜市や川崎市は東京都と隣接し、電車で30分もあれば行き来できてしまうこともあり、利用者や職員の確保もままならない状況であると推察できます。
27日(金)の会議でも級地区分の見直しに関する案が示され、特例(完全囲まれルール)の適用や経過措置の変更・終了などにより、48自治体の級地区分が引き上げとなります。
配布された資料にも「財政的な増減を生じさせない財政中立の原則の下…」と記載があるように、引き上げる分、どこかの級地区分が下げられるということが示されています。
憶測ですが、3級地(収支差額率2.2%)と5級地(収支差額率2.6%)が若干下げられるのではないかと思われますが、現時点ではなんとも言えません。
来週以降、個別サービスごとの二巡目の審議に入ります。
これからが本当の「正念場」です。
管理人