福祉マネジメント&デザイン

SocialWelfare Management&Design
〜福祉サービスに経営と創造を〜

「or」思考ではなく「and」思考で新しいモノゴトを受け入れる

2017年04月22日 | 経営戦略
AIのケアプラン、来年度から提供開始へ 自立支援に軸足 セントケアHDら新会社(JOINTより)”というニュースをご覧になられた方もいらっしゃると思います。

高齢福祉にもAIの波がついに押し寄せようとしています。
賛否両論あると思いますが、私はどちらかというと建設的に受け止めている賛成派です。
その理由として、ケアプラン作成のすべてをAIが担うのではなく、最後はきちんとケアマネジャーが関わるこプロセスがあるためです。
AIにこれまでの利用者や家族の状況、それを踏まえたケアプランの膨大なデータを学習させ、いわゆるパターン化された画一的なケアプランに止まることなく、きちんとケアマネジャーが適正化を図る仕組みを想定しています。

記事の中でも、『岡本CEOは会見で、「要介護度やADLの改善だけが自立ではない。AIを使って何を目指していくのか、そこを誤れば最大のリスクになる。自立という概念を立体的に議論し、価値観を間違わないようにしていきたい」』と述べられています。

定型文化されることは想定されます。
例えば、新規利用者の初回ケアプランをAIを活用することにより7〜9割程度が完成し、最終的にケアマネジャーがブラッシュアップするという仕組みが出来れば、ゼロから作成するより断然効率的ですし、ケアマネジャーの経験やスキルによる作成スピードの偏り、表現レベルで頭を悩ますことは少なくなると考えられます。
ケアプラン作成における効率化・合理化という点においては、優れものといえます。
空いた時間で利用者や家族との相談援助や潜在的なニーズの掘り起こし、モニタリングを通して、2回目以降は見直していくことで、「ケアマネジャー」としての本来業務の強化につながることでしょう。

ここで大事な視点として、「or」思考ではなく「and」思考でモノゴトを考える習慣を付けることです。
私自身もAIの導入というニュースを初めに聞いたときは反対派でした。
皆様と同じように、ケアプランは利用者ごとに画一的なものではなく…といった感情が強かったと思います。
それは、「AIを導入することに賛成 or 反対」という視点だけでモノゴトを捉えていたからです(その時点での限られた情報から判断することになると、「反対」という感情がより強くなる傾向があります)。

しかし、初回ケアプラン作成のAI活用の事例を考えてみましたが、「AIを活用することで、初回ケアプランの作成の効率化 and 相談援助の時間を確保することができ、ケアマネジャーの本来業務の強化が図れる」という理に適った状況を作ることが出来ます。
少子高齢化が進み人口減少社会が加速するなか、属人的な業務で終わらせるのではなく、良い意味でデジタル化による「効率化」や「合理化」という流れを受け入れていくことが必要です(デジタル化の波は避けて通れません)。
新しいモノゴトに対して、「賛成 or 反対」ではなく、いかに「and」で受け入れていくかが求められます。

管理人

介護保険制度の2018年度改正案から動向を考える

2017年04月15日 | 経営戦略
次年度の介護保険制度の改正案(地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案)が厚生労働委員会で強行採決されました。
新聞やニュースでご覧になられた方もいらっしゃると思います。
我々が生業にしている社会保障制度の動向がこんな形で方向付けられているとなると、憤りすら感じられた方もいらっしゃったのではないでしょうか。

さて、この改正案の焦点になっているキーワードをいくつか取り上げます。

【利用者負担の2割から3割へ見直し】
2割負担の利用者の内、特に所得の高い層の負担割合を3割に引き上げるというもの。
介護保険制度の持続可能性の確保のためには、いわゆる現役世代との痛み分けが必要という方針を加速させた形となります。
3割負担となる対象者は12万人。
それと合わせ、2017年8月より高額介護サービス費の月額上限も37,200円から44,400円(7,200円引き上げ)となります。
3割負担となりますが、高額介護サービス費の月額上限があるので、実質7,200円増となります。
しかし、保険給付を抑制させる国の方針から推察すると、月額上限は今後も引き上げられる可能性が高いと考えられます。
例として、要介護3(26,931単位)の方の1割負担額(地域係数10で算出)は26,931円、2割負担53,862円(44,400円に対して+9,462円)、3割負担80,793円(44,400円に対して+36,393円)となります。
今後、1〜3割の自己負担額に応じた月額上限設定など、応能負担のさらなる拡充を図る可能性が高いことは、容易に想像することが出来るでしょう。


【介護医療院の創設】
介護療養型医療施設(介護療養病床)は2017年度末で廃止(ただし6年間の経過措置)され、新たに「介護医療院」が創設されます。
これまでの経過措置のあいだに、介護療養病床が老健へ移行する施設もありましたが、施設基準や職員配置基準を緩和した新たな入所系サービスという位置づけとなるようです。

待機者の減少傾向が加速する中で、介護と医療が一体となった「介護医療院」は、特養や老健との住み分けをいかに明確にしていくかが重要だと考えます。
近年、施設に求めらる役割や機能が時代とともに変化する風潮が強いように思います(救護施設が精神障害者の受け皿としての役割を担っていたり、グループホームで看取りを行うことが求められるなど)。
サービスを選ぶ利用者のや家族にもその違いが分からず、結局、ケアマネジャーの言う通りになってしまうでは、自己選択・自己決定の理念に反してしまいます。
利用者や家族が介護保険サービスをきちんと納得して利用できるよう、きちんと役割や機能を整理しながら、地域包括ケアシステムで提唱している面による社会福祉の展開が必要だと思います。


【共生型サービスの創設】
介護と障害が一体となってサービス提供を可能とする「共生型サービス」の創設も法人の事業戦略を大きく左右する内容といえます。
共生型サービスのモデルとなっているのが、”富山型デイサービス”です。
将来の利用者との関係性を築くために」でも触れましたが、この”富山型デイサービス”では利用者(要介護・要支援者だけと限定していない)が互いに交流できる居場所となっています。
地域住民の通い慣れた場所という認知から、将来の利用者(互いに支える関係)へと結びつくと思います。
制度化される「共生型サービス」が”富山型デイサービス”のように定義されるかは分かりませんが、介護サービスのさらなる拡充・展開が期待されるといえます。

以上、【利用者負担の2割から3割へ見直し】【介護医療院の創設】【共生型サービスの創設】の3つのキーワードを取り上げました。
今後、介護保険制度や報酬改定についての情報も随時、取り上げていきたいと思います。

管理人

組織の弱体化を打ち破るためには古い慣習を捨てる

2017年04月09日 | 経営戦略
2000年から始まった介護保険制度も早17年目を迎えました。
それまでの高齢福祉サービスは措置制度に守られた形でサービスが提供され、運営していたわけですが、一夜にして「経営」を求められるようになりました。
多くの施設は旧態依然の制度(賃金制度や考課制度、昇進・昇給制度などの人事関連)や習慣などをそのまま引きずっている法人・施設が少なくありません。
さらに、民間介護事業所による競合他社の急増や度重なる介護報酬のマイナス改正の影響、人材不足のあおりを受け、ますます福祉施設・事業所の経営の厳しさは増しています。

その中でも法人・施設独自に経営改革や体制強化(本部機能強化や重要業績評価指標:KPI指標の導入)に取り組んでいるところも増えています。
うまくいっている法人様もあれば、途中で頓挫してしまい、我々のようなコンサルタントに依頼する法人様など様々です。
うまくいっている法人様の傾向として、しっかりと理念に沿った経営改革の計画を示し、丁寧な合意形成(職員への説明など)を図り、経営層だけではなく、職員一人ひとりが「変革(イノベーション)していくんだ」という志を持てている組織が挙げられます。
経営層だけで進めるのではなく、良い意味で職員全員を巻き込み(参画させて)、役割を持たせ、帰属意識を高めることが成功の鍵と言えます。

さて、そのように経営改革や体制強化を進める中で度々ぶつかるのが、古くから受け継がれている慣習です。
例えば、記録のデジタル化。
これまでずっと記録は手書きだった現場で、記録類をパソコン入力し、事務作業の効率化・合理化を図ろうとする際、決まって職員から聞こえてくるのが「パソコンができない人はどうするんですか?」という質問です。
皆さんの中にもこのような質問があり、挙げ句の果てに、「パソコンで記録を書くことができないので辞めます」みたいな話も聞きます。

そのような意見を職員が平気で言え、経営判断に大きな影響を及ぼせてしまう業界だから、世間で福祉職の地位が低くみられてしまうのではないか、と不安に思うことがあります。
民間企業では、職員自身でなんとかする(パソコン教室に通うなど)、会社主催のパソコン研修などに参加して学ぶ、といったところでしょうか。
「辞めるっていう人が出るなら、記録のデジタル化は止めるか」といった堂々巡りを繰り返し、いつまでたっても効率化・合理化が図れないお客様も少なくありません(経営改革が頓挫してしまう法人様の多くは、こう言った発言による経営判断の鈍化による影響が主な要因といえます)。

しかし冒頭で触れたように、特に高齢福祉はますます効率化・合理化が求められ、ますますサービス業としての淘汰が加速することが容易に想定されます。
経営体力の弱い法人は医療法人に吸収されてしまう、社会福祉法人のホールディング化(共同における力関係の優劣)などで経営理念を捨てざる終えない状況に陥ってしまう可能性もあります。

古い慣習を引きずることで組織の活性化が図れず、ひいては組織の弱体化を招き、衰退する。
「運営」から「経営」が求められるようになった高齢福祉サービスでは、”柔軟な組織づくりのためには確認する・見直しすることの習慣化が必要”で言及したように、組織の活性化を通した”柔軟性”を高めることが重要です。
従来通り行っている介護方法(食事、口腔ケア、排泄、入浴など)、日中活動(レクリエーション)、家族対応や家族会の内容などに慣習になっていることがあれば、「〜ぱなし」になっている証拠です。
古い慣習を捨てて、今こそ変革(イノベーション)を起こす時です。

管理人