私が携わっているいる平成29年度決算書(事業活動計算書)に基づく各地域の「特別養護老人ホーム実態調査」の数値がまとまりつつあります。
今日は特養の経営実態を読み解きながら、次年度の事業計画書策定の方向性について考えたいと思います。
平成29年度は介護報酬改定前というタイミングです。
しかし、4月から始まった「介護職員処遇改善加算(新Ⅰ)」の影響により、全体的にサービス活動収益(以下、収益)が押し上げられています。
ご承知の通り、「介護職員処遇改善加算」は介護職員に加算以上の賃金へ転化させて還元しなければなりませんので、"いってこい"な訳です。
そうすると収益は押し上げられますが、同様に人件費も上昇し、結果としてサービス活動費用(以下、費用)が押し上げられます。
調査対象地域では、介護人材の採用が思うようにいかず、「利用者10人あたり職員数」が昨年度より減少しています。
この指標は、各施設の「常勤換算職員数(正規・非正規の直接・間接人員含む)/1日あたり利用者数×10」で算出します。
例えば、100名定員で2:1で職員を配置していれば、職員は50名となります。
利用率100%で計算すると、「50/100×10=5.0」となります。
「利用者10人あたり職員数」なので、10倍してもらうと定員100名定員換算に置き換えることができます。
この「利用者10人あたり職員数」が減少しているということは、直接雇用職員が減少しているということがいえます(反対に派遣職員が増加)。
要するに人件費(職員の人数×賃金水準)を構成する、職員の人数が減少したことで、人件費の上昇は抑制されたといえます。
そして調査結果で最も深刻な要素が、"利用率"の低下です。
調査対象地域の「本入所+短期入所」の利用率はで1〜3ポイント低下しています。
定員100名の特養で、利用率1ポイント相当で365名ですので、3ポイントとなると約1,000名を越してきます。
1日あたりに換算すると、毎日3名分のベッドが常に空いている状況となります。
では、なぜ空床があっても、なかなか埋められないのかです。
1.利用者の重度化(入院予防)
特養の入居要件として、要介護度3以上になり、また日常生活継続支援加算を算定するため新規入所者の重度化(要介護度4・5、認知症重度者など)が進んでいます。
そのため、利用者の状態が安定せず、入所してもすぐに入院してしまう(逝去される)というケースが増えています。
また、利用者の重度化に伴い、誤嚥性肺炎などによる入院も増加傾向にあるという話を聞きます。
現場では口腔ケアや口腔体操、訪問歯科医や歯科衛生士による口腔内の清潔保持などに取り組んでいると思います。
しかし、口腔ケアの仕方が標準化されていなかったり、職員の入退職によりサービスの質の向上が図れず、利用者の重度化対応に追いついていない状況もあるようです。
"
フレームワークを活用した経営戦略②"で「バランスト・スコア・カード(BSC)」についてご紹介しましたが、良い経営を行うためには、人材育成に注力することが出発点となります。
大変な時だからこそ、人材への投資を行い、皆さんが目指す利用者・家族満足につながるサービス提供に結びつけていただきたいものです。
入院者を予防するという取り組みとして、利用者をいかに入院させないかを検討するため、多職種が連携し「入院カンファレンス」というのを定期的に開催し、状態が安定しない利用者への対応の検討や現在入院している利用者の対処の目処などを共有し、空床期間の削減に取り組んでいる施設があります。
利用者をいかに多職種が連携して(同じ思いで)ケア出来るかが、利用者の生活を支える上では重要です(そのための
思い込みをなくしたり、
組織の中の共通言語化に取り組めているでしょうか?)。
2.待機者・家族との関係性構築(空床管理)
生活相談員が待機者リストを管理し、空いたらすぐに声かけができるようにしていると思います。
利用者の重度化に伴い、これまで4〜5年ぐらい施設で生活してご逝去されるサイクルから、現在では1〜2年とそのサイクルも早くなってきています。
申し込まれてから、いかに利用者や家族との関係性を築き続けられるかが、空床管理においてはポイントになっています。
ある法人では、待機者リストの上位の方のご自宅へ毎月生活相談員が訪問し、生活の様子や状態などのヒアリングに訪れながら、顔のみえる関係性の構築に注力しています。
「理想的ではあるけれども、生活相談員が十分に時間を確保することが難しい」という反応が正論だと思いますが、結果的に高い利用率を維持することが出来ています。
生活相談員として何をしなければならないか(職務)やどういった能力が必要か(職能)を明確になっていますか。
何でも屋化してしまう生活相談員や介護職員の役割を明確にし、現場で役割を全う出来る多職種連携体制を構築することが、組織を作っていく上では必要です。
生活相談員に重点的に何に時間を割くか検討の余地が残されているのではないでしょうか。
3.地域で存在感のある法人となるために(待機者確保)
待機者リストを用いて、地域の家族介護者の方たち向けの特養を知ってもらう機会や認知症や看取りなどの勉強会を開催したり、自治会レベルでの地域住民同士が顔の見える関係性を構築できるよう地域公益的な取組に展開している法人があります。
その地域の新参者の法人(地方から進出してきた法人など)は特に、その地域での認知度はほぼ皆無でしょう。
地域住民にファンになってもらうための取り組みを行っていかなければ、結果的に貴法人・施設が選んでもらえません。
また、ユニット型はプライバシーを確保された個室である反面、その費用負担の高さから敬遠され、申し込み控えが現れてきています。
有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅と費用的にほぼ互角となってしまうユニット型においては、新規利用者確保が難しくなっていくことが想定されます(借入金返済を加味すると、経営状況の厳しさが増していくでしょう)。
すでに10月が終わろうとしていますが、事業計画書で立てられた上半期の成績評価はいかがだったでしょうか。
今年度の利用率や平均要介護度などの経営指標の目標は達成されたでしょうか。
上記の状況は平成29年度の状況ですから、4月の報酬改定を迎え、今年度はどういった状況を迎えていらっしゃるでしょうか。
お客様からは、特に利用者確保、職員確保は深刻化しているという話を聞かせていただきます。
経営状況が厳しさを増す中で、どうしてもネガティブになってしまうのは致し方ないと思います。
しかし、こういった状況だからこそ、「
コア・マネジメント」に基づく、「ケアの標準化」「入院者予防」「職員定着・育成」「役割の明確化」「地域公益的な取組」といった組織づくりやサービスの質の向上といった視点を取り入れながら、下期への対応策や次年度の事業計画書策定の方向性について討議を進めていただきたいと思います。
管理人