以下は、コロナ外交、と題して、週刊新潮7/9号に掲載された高山正之の連載コラムからである。
彼と櫻井よしこさんの連載コラムは週刊新潮の掉尾を飾っている。
何しろ、私は、御両名の論文を読むために毎週週刊新潮を購読している。
本稿も高山正之が戦後の世界で唯一無二のジャーナリストである事を証明している。
製鉄の歴史を見ると様々な国が寄り合う欧州がつくづく羨ましくなる。
鉄作りはまずスウェーデンが木炭高炉を発達させて欧州諸国に広まった。
ただ、できるのは含有炭素の多い銑鉄。
鍛冶屋が叩いて脱炭するのが形だった。
炭素をいかに減らすかで、英国では木炭より高温の石炭を使った。
さらに18世紀、A・ダービー喞がコークスを発明し、低炭素鉄を量産する道を開いた。
鉄の橋が盛んに架けられたが、強度はイマイチで3本の橋が落ちた。
もっと含有炭素の少ない鋼鉄を作れないか。
英国のH・コートは平炉で溶けた銑鉄を攪拌するパドル法を開発した。
独シーメンスと仏マルタンは平炉に高温ガスを送り込んで鋼鉄を作ってみた。
英のH・ベッセマーは銑鉄をコークスと熱風で燃やして鋼鉄に変えるベッセマー転炉を発明した。
各国も真似た。
コークスも無煙炭から作ると炭素以外の不純物もかなり取れることが分かってきた。
無煙炭の産地、支那、ベトナム、インドが植民地にされていった大きな理由だ。
欧州の国々がそうやって製鉄技術を競い合ったのは19世紀半ば、日本の明治維新前後に当たる。
日本にも支那朝鮮という隣邦がある。
そこを訪ねたイザベラ・バードは汚穢度で競っていたと記録する。
製鉄で切磋琢磨する相手ではなかった。
仕方ないから日本は独力で頑張った。
手掛かりは長崎の出島から漏れてくる西洋事情とオランダ人ヒューゲニンの『大砲鋳造法』だった。
それで島津斉彬と南部藩の大島高任が木炭高炉を試みた。幕府と水戸、長州、鍋島各藩が反射炉を作った。
しかし明治維新を跨いだ試みは大方が失敗に終わった。
幕府の韮山反射炉も青銅の大砲を作るのがせいぜいだった。
ただ地元でいい鉄鉱石が採れた大島の釜石高炉が何とか低炭素鉄を作れた。
明治政府は大島を岩倉使節団に加え、欧州製鉄事情を視察させた。
明治28年、外国製の兵器で日清戦争を戦った日本は改めて「鉄は国家なり」(ビスマルク)を実感した。
すぐに、官営八幡製鉄所が着工された。
外国から石炭高炉とシーメンス平炉、ベッセマー転炉を買い込んでドイツ人技術者の指導の下に組み立て火入れした。しかし何度やってもうまくいかなかった。
政府はドイツ人をお払い箱にし、釜石や韮山で技術を培った日本人技術者にすべてを託した。
彼らは炉を改造し、鉄鉱石を選び、良質コークス探しも並行して進めた。
長崎港沖の高島や端島に産する優良炭が見つかった。
軍艦島こと端島はすぐ電化され、電動モーターで海底炭坑の掘削を進めた。
かくて明治36年、日露戦争の前年に日本人の手で初めて銑鉄から鋼鉄までの一貫生産に成功した。
明治41年には三池に5㍍の干満をクリアする閘門(こうもん)式の港が築かれた。
設計者は三井財閥の団琢磨。
米国のパナマ運河の閘門より6年早く完成し、今も現役で稼働している。
技術大国日本の礎となった明治人の気概はユネスコ世界文化遺産に登録され、その資料館も開設した。
ところが、ここにきて韓国が「朝鮮人にも言及しろ」と文句をつけてきた。
朝鮮人はそのころ汚穢の中にいた。
日韓併合前の話だと言い聞かせても「端島で地獄を見た」と言い張る。
確かに昭和期、密航朝鮮人が端島で働いた記録はある。
住居と恵まれた賃金が与えられ、朝鮮人専用の女郎屋「吉田屋」もあった。
真実など関係ない。
「日本人を汚穢に漬け込めないなら世界遺産登録を取り消させる」と息巻く。
その登録の折に韓国は「朝鮮人苦役の一節を入れたら賛成する」と佐藤地(くに)ユネスコ大使に言った。
そうやって相手を引っかけ禍根を植え付ける。
彼女も知っていたはずなのに。
付き合えば腹が立つ。
日本人の精神衛生からもこの国との外交はコロナ並みに8割減にしたらいい。
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