以下は月刊誌WiLL2月号の書評欄からである。
『検閲官』山本武利著、書評者・岩田温
被占領期に何が行われていたのか。
米国による日本改造が本格的に実行されていた時期に、歴史家はほとんど言及しない。
被占領期こそ歴史家が真剣に取り組むべきだと説いた際、「その時期はまだ歴史ではない」と言い放った某大学教員の高慢な面持ちが忘れられない。
彼は愚かなのではなく卑怯なのだ。
被占領期を語らぬ歴史家など詐欺師と同様である。
この時期に現在の日本の姿が定められた。
被占領期に何が行われていたのかを明らかにしないのならば、歴史家の意味などない。
彼らが被占領期を語らないのは、語れば左翼が崇め奉る戦後民主主義の幻想を否定することになるからだ。
憲法が押しつけられ、言論が統制された。
紛れもない事実である。
事実を口にすることが憚られているから日本は異常なのだ。
著者は真面目一徹の研究者である。
イデオロギーに染められていない。
事実に忠実なのだ。
文章も硬い。
資料を長々と引用するのも、決して読みやすい文章とはいえない。
だが、私は著者を研究者として心の底から尊敬している。
山本武利こそが研究者の鑑であると信じて疑わない。
彼は何かを主張しようとしているわけではない。
事実だけを説いているのだ。
長年の研究成果を要約した本書で面白かったのは2点だ。
第1に、GHQが郵便物の検閲を行った際に、目立つ印を押したり、ビニールテープによる封緘を行っていたことへの考察だ。
GHQは検閲を行っていることを秘匿しようと努力した。
だが、ここでは自らの検閲の痕跡を残すかのように行動している。
なぜかー。
著者の推理は興味深い。
「ウォッチ・リスト」なるGHQが特別に調査しようとする人々のリストがあった。
この重要な検閲対象の人々の郵便検閲をする際には、検閲があったことを隠蔽(いんぺい)した。
何も「なかった」ように振る舞ったのだ。
著者の推理は鋭い。
一般人に対して、敢えて検閲した事実を哂した背景には、ウォッチ・リストによる極秘検閲を隠すための陽動作戦があったのではないかというのだ。
そのように解釈すれば、GHQの意図は明白になる。
資料を読み解くだけでなく、解釈する重要性を示した1例と言ってもよい。
2点目は、日本人が米国占領軍の手先となり同胞の秘密を盗み見る葛藤についての記述である。
戦後史に特筆すべき名著『幻化』を遺した梅崎春生の兄、梅崎光生の事例が象徴的だ。
彼は生活が苦しかった時期、占領軍に金をもらった人々の思いを描写している。
「敗戦後の日本人の思想や動向を占領軍GHQに密告する言わばスパイみたいな仕事だったので、一人一人の心の底に忸怩(じくじ)たるものがヘドロの如く沈殿していたであろうことは想像に難くない」
研究者である著者は自らの想いを一切語っていない。
だが、行間から日本人としての憤怒(ふんぬ)の想いが伝わってくる。
極めて実証的な本だが、静かな怒りが伝わってくる。
被占領期を研究すれば誰もが事実に直面する。
この事実をなかったことにしようとする左翼、「リベラル」が如何に学問を歪(ゆが)めてきたのか。
そうした事実を見つめようとしない歴史学者が如何に国民を欺(あざむ)いてきたのか。
著者は事実しか語っていない。
だが、静かな怒りを感じる。
実証的な研究者はかくあるべしと思わせる渾身の力作である。
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