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文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

この雷が風車に落ちると、風車を設置した業者が大きな損失を被るので、業者は現地の政府や気象局と組んで、化学物質を積んだロケット弾を発射し、雨雲を消している

2020年02月06日 04時27分41秒 | 全般

2/1発売の月刊誌正論も日本国民のみならず世界中の人達が必読の書です。
以下は、特集 中国人権弾圧 絶望の慟哭、に、少数民族理解歪める 中国の“プロパガンダ”、と題して掲載された関西学院大学で学んだ内モンゴル人ミンガド・ボラグ氏の論文からの抜粋である。
前文省略。
環境破壊を遊牧に転嫁する俗説 
毎年の春になると、大陸から黄砂が日本を襲ってくる。
この時期、低気圧の影響で強風が発生し、それによって東アジアの内陸部の砂塵が大気中に舞い上げられ、偏西風によって日本にまで運ばれてくるからである。 
この黄砂に関するニュースをよく聞くと、「内モンゴル」や「ゴビ砂漠」といった言葉が頻繁に登場する。
それによると、「内モンゴル草原」で飼育している家畜が過度に増加したことで、その家畜が牧草だけではなく、草の根までも食べてしまって、そのせいで牧草が再生できなくなり、草原は破壊され、砂漠化か進み、黄砂が発生しているーと解説されることが多い。 
だが、これは「中国官製見解」そのものである。 
「内モンゴル」では、この家畜の過度な増加と黄砂の関連性に関する先の見解のもと、2000年以降、牧畜業に対する規制政策が次々と打ち出された。
政策の内容や実施日は多少異なるものの、その内容は大きく「休牧政策」と「禁牧政策」のふたつに分けることができる。 
「休牧政策」とは、家畜が新芽を食べてしまえば、草が生えなくなるという理由で、新芽の季節に草原で家畜の放牧をすることを禁じることをいい、この期間中、家畜を畜舎に閉じ込めて干草などで飼育させるようにする。
その期間は地域によって多少異なるが、休牧開始日程が、大体毎年4月1日で、休牧期間は約70日から90日間である。 
「禁牧政策」とは、砂漠化などにより放牧を継続することが難しくなったとされる地域において放牧を完全に禁じることである。
この場合、禁牧区域を有刺鉄線で囲い、家畜はすべて売却させられ、牧畜民は町の周辺に用意した集合住宅などに強制的に移住させられ、街頭清掃やゴミ処理の仕事で生計を立てるようにすすめられた。 
しかし、これらの政策が実施されてから、20年が経過しようと、しているが、毎年のように萠んでくる黄砂の量は変わっていない。
むしろ増えているというデータがある。
これはつまり、黄砂の発生原因が家畜の過度な増加にあるという説が大きな間違いであることを意味しているのである。 
放牧文化の中で生まれ育った筆者は、この説は無理やりに「犯人」を探し当てたものであり、この説を唱えた学者はモンゴル放牧文化に対して素人だったと思っている。
根拠はモンゴル人が飼育している家畜(牛、馬、羊、山羊、駱駝)の草の食べ方にある。
これは放牧世界では常識であるが、普通、羊と山羊は前歯で草を噛み切って、馬は唇と前歯で草を噛み切ってたべる。
ところが、地表に草がなくなると、羊や山羊や馬は前足を巧みに使って草の恨っこを掘り起こして食べることかできる。 
一方、牛は長い舌に草を巻き付けてけて引っ張り切って、ラクダは歯全体を使って草を噛み切って食べるのみである。
牛とラクダは足を使って草の根っこを据り起こして食べるどころか、雪の下に埋もれた枯れ草を掘り起こして食べるのも苦手である。 
だから、「家畜が牧草だけではなく草の根までも食べてしまう」という説は、強いて言うなら馬や羊や山羊に限定した話であって牛やラクダには関係のないことなのだ。
というか、羊や山羊が草の根っこを掘って食べる時点で環境破壊がすでに起きているはずなのだ。 
実際、モンゴル草原を訪れた人は感じていたであろうが、モンゴル牧畜民の草原や草に対する愛着は驚くほどのものである。
例えば、モンゴル伝統医療では、よく漢方のような薬草などを粉末にした薬を出すが、薬草の根っこや種どころか茎も使わない。
使うのは枝や葉っぱや花である。 
しかし、「休牧政策」や「禁牧政策」の対象はすべての家畜であり、政府は牧畜民の意見を聞くこともなく、政策が施行されていった。結果として多くの牧畜民が先祖代々受け継いできた牧草地や家畜を手放し、都市部に流入し、モンゴル文化の礎である畜産業が崩れ始めた。
正しい文化理解が 生態系の保全に 
近年、砂漠化防止のために実施された「休牧政策」や「禁牧政策」によって家畜の姿が見えなくなった草原に、風力発電のための風車が急速に設置されている。
約200メートル間隔で設置された風車の大軍が草原を埋め尽くす日はそう遠くないかもしれない。 
そこで発電した電力は北京に送られているという。
また、「禁牧政策」によって無人になった草原に次々と鉱山が開発され、鉱山から運び出された砂が山のようにあちらこちらにそびえ立っている。 
現地の牧畜民の間では、「休牧政策」や「禁牧政策」の本当の狙いはこれだったのではないか、という声があがっている。
皮肉なことに、鉱山によってできた砂山の上にエコ・エネルギーとして導入された風車が回っている。 
この風力発電用の風車や鉱山開発が草原に新たな悲劇をもたらし、それを巡るトラブルが夏季の草原では毎日のように繰り広げられている。
風力発電は環境への負荷が少なく、再生可能エネルギーとして注目されているが、欧米では風車による人体や生態系への悪影響が懸念され、撤去されるケースも度々報告されている。 
「内モンゴル草原」で起きている光景は、このような問題ではない。真夏のモンゴル高原は上昇気流が発生しやすく、雨季になると、落雷が増える。
この雷が風車に落ちると、風車を設置した業者が大きな損失を被るので、業者は現地の政府や気象局と組んで、化学物質を積んだロケット弾を発射し、雨雲を消している。 
「消雲ロケット」は2008年に開催された北京オリンピックのために開発されたものだという。
鉱山の場合、雨が降ると、鉱山は崩落したり、重機が滑ったりするなど危険性が高まるので、作業を停止しなければならない。
それが開発業者にとっては損失になるので、同じく化学物質を積んだロケット弾を使い、雨雲を消している。 
当たり前の話だが、雨季に雨が降らなければ牧草は生えない。
牧草が生えなかったら家畜の食べ物はなくなり、結果的に牧畜民の生活が困窮に陥る。
また、モンゴル遊牧民は古来、テングル(天)とガジル(大地)を崇めてきた民族であり、日常生活の中でも刀の刃を聖なるテングルに向かっておくことが禁じられている。
だから、モンゴル人にとって聖なるテングルに向かってロケットを発射することなど許し難い行為である。 
牧畜民は現地政府に「消雲ロケット」の発射を禁じるように陳情を出すと、業者と組んだ役人は、それは人工降雨用のロケットであるとの一点張りの返事を繰り返す。
仕方なく牧畜民は自分たちで パトロール隊を結成し、「消雲ロケット」を撃つ業者の取り締まりを始めた。
それによるトラブルが一層激しくなったのだ。2017年の夏、「内モンゴル」の「チャハル草原」で、パトロール隊が「消雲ロケット」弾を発射しようとしている現場を取り押さえ、発射しないように注意した。
しかし、業者は場所を変えてロケットを発射しようとしたので、怒った若者たちは業者の車や機械を壊した。
案の定、パトロール隊のメンバー全員がその日のうちに逮捕された。ちょうどその時、里帰りしていた私は、現地の牧畜民の話を聞くことができた。  
「今回はロケットを発射する前に取り押さえた。にもかかわらず翌日から草原に大雨が降ったのである。これはつまり、あのロケットは人工降雨のロケットではないことが証明された」「車や機械を壊したことは確かに度が過ぎた行為だったが、消雲ロケットを発射する悪質業者や、その業者に協力する役人を取り締まらないのは不平等だ」 「この風車はエコ・エネルギーとして導入されたものであるというが、すぐ近くでは石炭の露天掘りによって草原が破壊され、生態系が大きく崩れている。どうして違法な鉱山を止めないのか」 
「石炭鉱山ができてから井戸が次々と干上がった。昔は深さ3メールから5メートル井戸を掘れば水が出たが、今年から100メートル掘らないと水が出なくなっている」「うちは深さ100メートルもある井戸を掘ってもらったが、人間が飲む水をまかなうのが精一杯で、家畜が飲む水はよそから運んでいる」 
このように牧畜民たちは口々に訴えていた。
モンゴル高原で採掘されている石炭は、褐炭といって不純物が多い低品位炭であるので、洗って不純物や不良炭を取り除く必要がある。
そのため、地下水を大量に汲み上げたり、川を塞き止めてダムを作ったりしなければならない。
1トンの褐炭を洗浄するのに約3.6トンの水が必要だと言われており、それが地下水源の枯渇を招き、各地で井戸が干上がる現象が起きている。
それだけではない。地盤沈下による被害も後を絶たなくなっているというのだ。 
地球温暖化にしろ、草原の砂漠化にしろ、すべての問題は人為的な要因によるものである。
ゆえに、これらの問題に取り組む際、「人」から始めなければならない。
また、先祖代々、その地で生活してきた人こそが、誰よりもその地に愛着を持っており、誰よりもその地のことや保護の仕方を知っている。
だからそこに暮らす人々に敬意を払い、彼らの文化を守り、生活を安定させることがすべての始まりであると私は考えている。


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