文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

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「ニーチェの人生論」白取春彦さんに聞く…4/23、日経新聞夕刊から。

2011年04月25日 23時22分00秒 | 日記

しらとり・はるひこ 作家、哲学者。
1954年青森市生まれ。
79年独協大学ドイツ語学科を卒業、渡独。
ベルリン自由大学で文学、宗教、哲学を学ぶ。
帰国後、哲学、宗教などの分野で執筆活動。
著書は「生きるための哲学」「ニーチェ『超』入門」「ビジネスマンのための『聖書』入門」など100冊を超える。
…前文略

黒字化は私。
家や財産をすべて失った被災者は、恐怖心から将来にも不安を覚えているでしょう。
しかし自分の能力や感性を失ったわけではない。
恐怖心は自分自身の心のありようなのだから、将来をいかようにも変えることができる。
『事実が見えていない』もいい言葉です。
多くの人は自分の思いや執着、感情や勝手な想像にこだわり、真実を見ていない。
しかし、今ある事実しかない。
  
「『努力を続ける』は、高みに向かって努力を続けることは徒労ではないということ。その途中で自分と自分の人生が大きく好転していくのです」
人間は遠近法的思考をする
とはいえ代表作「ツァラトゥストラはこう語った」など、ニーチェ。
は難解だ。
「遠近法的思考」「ルサンチマン」「ニヒリズム」 「超人」など難解なキーワードが続く。 
「遠近法的思考とは、人間の考え方を述べたもので、自分に近いものはよく見えて重要に見えるが、遠くなるほどぼんやりして重要に思えなくなることです。例えば日本人にとって外国の飢饉や災害は遠くに見えて関心が薄いけれど、東日本大震災となると重大関心事になる。しかし、遠近法的思考をしっかり認識すれば、遠くもよく見えてくるはずです」 
「ルサンチマンは、妬みから生まれる敵対心を示すフランス語。ニーチェはキリスト教をルサンチマンだと決めつけたが、これは必ずしも正しくない。ルサンチマンでしか他人を見ない人は少なくない。しかし、こうした態度は自分から成功を曜実に遠ざけます。ニヒリズムについては、例えばお金がすべてと考えたり、ある価値観を絶対化することはよくないとニーチェは言っている。絶対的価値観を持つと安心だが、やがてそのためにニヒリズムに陥ります」
「超人はスーパーマンと英訳され誤解されているが、そういう意味ではなく、昨日までの自分を超えていくこと、自分の中の世間性を超えていくという意味です。絶えざる自己超克です。
ニーチェは誤解され、反ユダヤ主義だとか、ナチスの精神的支柱になったとか信じられている。
しかし彼は反ユダヤ主義に反対しており、ナチスの考え方とは違っていた。
誤解の原因はニーチェの死後、ナチスを信奉した妹のエリーザベトが、遺稿をまとめて出版した『力への意志』で、超人の具体化をヒトラーとしたこと。
逆にナチスに利用されたのです」
読書は自分の能力で意味と価値が変わる
白取さんがニーチェと出合ったのは15歳ごろ。
地元の書店で手にしたニーチェの詩集。
高名な哲学者だということすら知らなかった。
「ヘッセの詩集などが好きで、同じドイツ人の詩集だと思って買った。ヘッセは感性で読めるのに、ニーチェは難解で意味が分からなかった。
一つの言葉に3つぐらい意味がある。当時、聖書も読んでいたので、なぜニーチェが聖書に反対するのかに興味があった。ベルリンに渡り、大学の豊富な蔵書に恵まれて、ニーチェの哲学やキリスト教、仏教などを研究することができました」 
「ニーチェには『神は死んだ』という有名な言葉がありますが、確かに短い人生、神が存在すると考えた方が生きやすい。しかしニーチェの哲学はキリスト教に代わって、自己超克という新しい生き方を示し、人類に新たな刺激を与えてくれた。私自身も常に自分を新しくしていきたいのです」
「現代の読者に言いたいのは、書物には一つの意味だけが含まれているのではないということ。自分の能力と人生への態度によって、意味と価値はいつも変わってくるということです」   
(編集委員 木戸純生)


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