早く真実を究明して日韓両国民に広く知ってもらうべきだという思いが強まり、2本の論文執筆の動機となった。
両論文の冒頭には、いずれもこの懸念について触れた。
それから20年が経過し、日韓関係が極めて感情的に反発しあっている現状をみると、このときの懸念も故なしではなかったと改めて思う。
考えてみれば、元慰安婦たちも「挺身隊の名で強制連行された」とは言っていなかった。
金学順さんも、植村記事掲載直後の韓国メディアとの会見や裁判の訴状では「挺身隊」とも「強制連行された」とも言っていなかった。
しかし、彼女たちがそう証言しているかのように朝日新聞が報道した結果、彼夊たちを誤解し、対韓感情を害する日本人が増えてしまったのだ。
吉田証言報道を誤報だと認めた朝日新聞は、木村伊量社長が9月11日の謝罪会見の場で、慰安婦報道が日韓関係の悪化にどう影響したのか第三者組織を起ち上げて検証すると表明した。
しかしこのことだけをみても、朝日新聞の責任は明らかである。
歴史捏造の恐ろしさ
「慰安婦強制連行」の虚構に反発せず、信じてしまった多くの日本人がいた理由も考えておきたい。
私は、その背景にも朝日新聞の存在があったと考えている。1970年代、朝日新聞は本多勝一氏の『中国への道』を掲載し、「南京大虐殺」をはじめ、日本軍が中国大陸で残虐の限りを尽くしたと報じた。
日本軍の「悪行暴き」はその後も続き、当時を知らない戦後生まれの世代に「日本の軍人は虐殺や残虐行為をする人たちだったのだ」と刷り込み続けた。
その結果、自虐史観や日本人としての罪悪感に囚われた人たちが、「そんな残虐非道な日本軍人であれば、『女狩り』をやっていたとしてもおかしくない」と信じるのも無理はない。多くの日本人はこうして「慰安婦強制連行」という嘘話を無批判に受け入れたのではなかったか。
私は当時を知る人たちとの接触があったので、比較的早く、「慰安婦強制連行」の虚構に気付くことができた。
日本人だけではない。
『文藝春秋』の依頼で92年2月にソウルで取材したところ、当時を知る年長者たちは口をそろえて「強制連行などなかった」と語った。
この稿続く。