犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

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the 禁句s やらなきゃできない

2018年02月06日 | the 禁句s
リハビリに取り組まない母に、鍼の先生は根気強く、
動き方の指導をしてくれる。

椅子からの立ち上がりの動作、寝返りの動作など。
パーキンソン病は、動作に関わる無意識の動きがスムーズにできなくなる。
今まで無意識でやっていたことを、意識的にする必要がある。

何年も、同じ点について指導している。
そのせいか、言葉に苛立ちも見える。
「練習しないとできるようにならないです。」



「今まで無意識でやっていたことを、意識的にする必要がある。」
と書いた。
これを、
「今まで無意識でやっていたことを、意識的にしなければならない。」
と書いても意味は同じだ。

だが、この二重否定がくせものだと私は思っている。
特に、リハビリやコーチの場面では。

二重否定は強い肯定を意味する。
「ほんとに意識的にやる必要があるんだよ!」と言いたいときに、
「意識的にやらねばならない。」と言う。

二重否定は強い肯定を意味する、とは言え、
やっぱり否定は否定なのである。
なんたって、二度も否定している。
その否定の雰囲気は、強く伝わる。

強く伝わることが、肯定の強調になるわけだが、
印象としてはやっぱりどうしても否定になる。
弱気なところに聞くと、否定的な印象が残ってしまう。
また、強い意志や強い言葉は、弱気なときに聞くと、
「そんなのわたしには無理」という気持ちになりかねない。

それで、私はひとに何かを伝えるときに、
強く伝えたいと思っても、二重否定は用いないように気を付けている。
「練習しないとできるようにならないです。」ではなく、
「練習すればできるようになっていきます。」と言う。



別の見方をすれば、
「練習すればできるようになっていきます。」というのも、
弱気なところに聞くと、嘘くさく感じる。
そんなの信じられない。
こんなに今できないのに、練習していればできるようになるとか、
そんな甘い言葉に乗せられる気になれない。
という気持ちも分かる。

また、「練習しないとできるようにならないです。」というのも、
単純に、事実である。
練習しないでほったらかしていたらぐんぐん上達した、ということがあるんなら
連れて来やがれと言いたいくらい、事実である。

しかし、人をやる気にさせるために話すときには、
事実を述べれば良いというものでもないだろう。
耳に残る印象の心地よい、肯定の意味のときは肯定の表現で伝えたい。



ところが、この二重否定の表現は、慣用的であり、
日常、無意識にごく自然に私たちは使っている。

「もう行かなきゃ」
などと、後半を略して言う。
行かなきゃなんなのだ、というところは略している。
略しているなどという意識は、もう無い。
「もう行かなきゃ、次の予定に間に合わない。」
という後半の否定がひそんでいる。

こんなの、あまりに慣用的で日常的なので、二重否定とも否定とも感じずに使っている。
言葉の癖として、多く使う人と、そうでもない人の違いはありそうだ。
習慣的によく使っているのを、意識して使わないようにすることは、
たしかになかなか難しいことではある。
しかし、意識してみるだけの意義はあると思う。

「よく見なきゃダメでしょ。」
うえーん、叱られた。
「よく見なさい。」
はい、よく見る。
子どもに注意するとき、どちらで言っているだろうか。



二重否定は、強い肯定の意味を持つと同時に、
後半の否定の部分が、聞く側に印象として残る。
と、私は考えている。

「よく見なきゃダメでしょ。」と言われると、
「ダメでしょ。」が残り、
「練習しないとできるようにならないです。」と言われると、
「できるようにならないです。」が残る、ということだ。

これはもう、呪いの言葉でしかない。(この表現も一種の二重否定である。)
より良い行動を促すつもりが、相手に呪いをかける結果になりかねない。

子育ての中で使う場合、二重否定で表現したらうまくいかない、
ということも無い。
言うことをよく聞く子になる場合もある。
「ダメでしょダメでしょ」と言われ続けたら、自己肯定感は下がり、
ひとの言うことをに従うようになる。



ちょっと話が広がり過ぎたきらいがあるが、
とかく、コーチやリハビリなど、ひとのトレーニングを促す場では、
否定的なことは否定の形で、肯定的なことは肯定の形で伝えたい、
という考えを持っている。

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