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映像作品とクラシック音楽 第83回 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』

2023-03-09 23:25:00 | 映像作品とクラシック音楽
#映像作品とクラシック音楽
#アルビノーニのアダージョ
#マンチェスターバイザシー

クラシック音楽が印象的な映像作品についてうだうだ語るシリーズ、今回はケネス・ロナガン監督の2016年作品『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を取り上げます。
アカデミー賞で作品賞他6部門にノミネートされ、脚本賞と主演のケイシー・アフレックが主演男優賞を受賞しました。
ケイシー・アフレックはベン・アフレックの弟で、ベン・アフレックのマブダチのマット・デイモンが本作ではプロデューサーを務めています。

タイトルの「マンチェスター・バイ・ザ・シー」とは舞台となる町の名前です。アメリカ北東部、マサチューセッツ州の町です。
「海辺のマンチェスター」とでも訳したくなりますが、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の4単語が町の正式名称なので「バイ・ザ・シー」まで含めて固有名詞扱いとなります。よってあえて訳さなくて良いのかと思います。
なんでそんな名前なのかと言うと、世界地図で見ればすぐ近くにあるように見える場所に、ニューハンプシャー州マンチェスターという都市があります。バイザシーよりずっと大きい街です。
それで混同を避けるため小さい方のマンチェスターが(忖度して)町の名に「バイ・ザ・シー」をつけたのだそうです。

マンチェスター・バイ・ザ・シーは人口5千人くらいとのことです。
関東圏で同じくらいの規模の自治体を探しましたが、奥多摩町が人口5千人くらいということで、奥多摩くらいの規模の町を想像してもらえば良いでしょう。そうなると奥多摩も町名を「奥多摩・イン・ザ・フォレスト」とかに変更してくれたらかっこいいですね。

まだ地理の話を続けますが、マンチェスター・バイ・ザ・シー町から車で1時間くらいのところには、クラシック音楽ファンには有名な街、あの、ボストンがあります。
なんだか、奥多摩と八王子の関係に似てますかね?(ボストンの人口は67万、八王子は58万)

というわけでやっと映画の話です。
物語序盤、主人公はボストンで1人暮らしをしています。便利屋のような仕事をして、街の人たちの水のトラブルや家電の修理なんかをしています。
バーで飲んでいると女性が寄ってくるのですが、彼は性欲など何もないかのように女の誘いを断ります。
家族もなく、恋人もなく、これといった友人もなく、バーで飲んで、寄った勢いで時々喧嘩するくらいの生活です。
そんな彼に電話がかかってきます。兄が亡くなったと。
そこで彼はしばらく離れていた故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに帰るのです。

なにしろ奥多摩くらいの町です。町の人は大概知り合いです。そしてみんな優しく接してくれます。
しかし主人公は再会を懐かしむでもなく、素っ気ないです。

この映画は明らかに一人称映画でありながら主人公が何に心を痛めているのか、前半部は何も説明しません。
ただ、ケイシー・アフレックの表情や態度から、何か知らんが心に深い傷を負っているのだろうことはわかります。
観客は主人公とともに、素朴な港町の癒しの旅に参加するのですが、主人公はちっとも私たちに心を開いてくれません。
町の人たちも、家族も、みんな事情を知っているのですが、やはり映画の観客には説明してくれません。
アメリカ北東部の寒々とした海やどんより曇った空が主人公の悲しみや苦しみに輪をかけているように思えます。
私たちは傍観者であることを余儀なくされます。
一体彼に、彼の故郷で、何があったのか?
誰も教えてくれないが、会話の端々に、出てくる人たちの表情や態度から、なんとなく察していく、そんな風に物語に身を委ねさせるところがとても映画的な展開でうまいのです。

そして物語の中盤にようやく、主人公の心の深い傷のわけが長い回想シーンで語られます。
この回想シーンで、厳かにかかるのが、「アダージョ ト短調」、俗にいう「アルビノーニのアダージョ」です。
映画のネタバレになるので、この回想シーンで語られる具体的な内容については書きませんが、深い悲しみの思い出とだけ書いておきます。

初見ではこの場面でのアダージョの使い方、あざといなぁとも思いましたが、それでも彼の抱えた苦しみ、背負った業の重さを表現するにはこれくらいの曲を使うしかなかったという監督の想いもわかりました。
改めて見ると、沁みてきます。曲がかかりはじめた瞬間になんか泣きそうになりました。

町に残った人たちは悲しみを克服したが、町を離れてしまった主人公には、苦しさはついて回る。
そんな彼も街と、街の人たちと触れ合い、少しだけ生きることに意味を見出そうとする。

そんな物語を静かなタッチでまとめた作品でして、音楽はあまり使わない。それだからこそ回想シーンのアダージョが効いてきます。

そのアダージョの演奏ですが、そりゃボストンの近くのマンチェスターが舞台なんですからボストン響かボストンポップスの演奏かなと思いきや、エンドクレジットによるとロンドン・フィルハーモニックの演奏となっておりました。
イギリスの方のマンチェスターつながり?

ちなみにアルビノーニのアダージョについて、映画のクレジットではwrritten by Tomaso Albinoni and Remo Giazotto (作曲トマゾ・アルビノーニとレモ・ジャゾット)となっていますが、実際にはジャゾットのオリジナルなのだそうですね。

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話は全然逸れるのですが、本作で主人公の元妻を演じたミシェル・ウィリアムズですが、不幸で不運な女性を演じれば右に出るものはありません。「ブロークバック・マウンテン」では旦那を男性に奪われる役でした。「マリリン七日間の恋」では疲れた大スター、マリリンモンローを演じました。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は出番は少ないのですが、過去を乗り越えやっと立ち直ってきたように、精一杯明るく振舞う演技は強く印象に残ります。さすがうまいです。本作でアカデミー賞助演女優賞ノミネートです。
今度スピルバーグの伝記映画『フェイブルマンズ』ではスピルバーグの母を演じ、しかもアカデミー賞で主演女優賞にノミネートです。こいつは楽しみですね。
余談の余談ですが、ミシェル・ウィリアムズさんは、日本女子カーリングの平昌銅メダルメンバーにしてチーム「ロコ・ソラーレ」の代表でもある本橋麻里さん(現在は姉妹チーム「ロコ・ステラ」で選手として活躍)に似てると思います(写真2枚目参照)。別に「そだねー」とか相槌はいりません。





それでは今回はこんなところで
また素晴らしい音楽と映画でお会いしましょう

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