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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

ブレード・ランナー [我が永遠のオールタイムベスト1]

2005-05-16 00:01:21 | 過去に観た映画
中学2年のころ。当時、札幌に住んでいた僕は、チャリンコで、すすきのの繁華街に向かいとある小さな、有名なミニシアター専門館に向かった。二つのスクリーンがあり、比較的大きな方ではミニシアター系映画を上映し、小さい方はいわゆる名画座だった。ただし、カルトな映画のリバイバルが多かった様に記憶している。配管むき出しな客席だったそこで「未来世紀ブラジル」のリバイバルも観たが、雰囲気あいすぎ。今は無くなった映画館なんだけど、すすきの よりやや中島公園よりにあった、結構有名だったちっこい映画館。なんつったっけ?)
映画を見始めて、数カ月の映画初心者だった僕に、「ブレード・ランナー」の印象はあまりに強烈だった。上映が終って映画館を出ると、夜のすすきの繁華街が広がっていた。それはついさっきスクリーンに写っていた2019年のロスそのものだった。中2のガキは完全にハリソン・フォード気分で歩いていた。
以来、20年近くたった今でも、この映画は僕の揺るぎないベスト1だ。
あまりこの映画の印象が強過ぎるお陰で、ブレ・ラン関係者はその後どんなに転落しようともえこ贔屓めに見てしまう。

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監督・・・リドリー・スコット
 その後「G.I.ジェーン」で完璧なバカ映画の巨匠ぶりを見せつけておきながら、「グラディエーター」のアカデミー作品賞受賞以来、すっかり天狗になってやがる。大物ぶってるのが鼻につくが「ブラックホーク・ダウン」は巨匠の仕事だった(2 時間30分ひたすら戦闘シーンの映画なんてまともな奴には撮れない)。個人的には「ブラック・レイン」の熱気ムンムンも好きだが。

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脚本・・・ハンプトン・ファンチャー&デビッド・ウェブ・ピープルズ
 もともと、俳優でもあったハンプトン・ファンチャーが持ち込んだ企画だったらしい。でもリドリーによってめちゃくちゃにされたらしい。ピープルズはファンチャーの原案をリドリーの意向にあわせ改編(大幅な)していく作業にあたったようだ。「モノローグ」を書いたのもピープルズと推測する。
 ファンチャーの名はこれ以降全く聞かない。ピープルズはと言えばイーストウッドの「許されざる者」を書いていたり、スティーブン・フリアーズ監督の「靴をなくした天使」を書いていたりして、やはり才能あるやつだったのだ。ところが2000年ごろ、ピープルズは凄まじい企画を持って帰ってきた。カート・ラッセル主演「ソルジャー」。戦うために生まれた戦闘人間が宇宙の果てで人間性に目覚め、そしてその星で新型ソルジャーと対決する!!!という、バカでも予想できるアホらしSFアクションに堂々とクレジット!!!落ちたなピープルズ・・・と思いつつ、情熱ばかり先走った出来につい燃え上がってしまった。ちなみに監督は「バイオハザード」「エイリアンVSプレデター」巨匠・ポール・W・S・アンダーソン

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音楽・・・ヴァンゲリス
 ブレード・ランナーの1~2年前に「炎のランナー」でアカデミー受賞。映画への作曲依頼が殺到していた時期の仕事であった。もともと映画音楽にとらわれない幅広い音楽活動を続けていた彼は「映画音楽家」と位置づけられることを危惧し、「ブレラン」サントラ発売拒否という暴挙にでた。拒否にはリドリーと喧嘩したからという説もどっかで聞いた気もするが、その後「1492 コロンブス」で再び組んでいるから、ガセなのかもしれない。
さて、サントラ欲しいぃぃぃという全世界のブレラン・ファンをなだめるため発売されたのが、ヴァンゲリスの譜面を基に「二ュー・アメリカン・オーケストラ」なる聞いたことも無いオケによって演奏されたCD。ヴァンゲリスと言えばあのシンセの音に誰もが魅了されていたというのに、オリジナルの前にしょぼっちいオーケストラアレンジから入ってしまったブレラン・ファンは悲惨であった。しかし無ければ無いで開き直ってあるもん聞くしかないうちに・・・まあ不思議なものであのチープなオケ版ブレランのスコアがすごい名盤に思えてきちゃうのである。「ブレード・ランナー・ブルース」なんてそもそもオリジナルとメロディ違う気もするが映画では聞けないトランペットのソロがちょっとかっこいい。「グリーンの思い出」や「フェアウェル」なんて下手したらオリジナルよりいいんじゃない?と思えてしまう。比較的最近(90年代)になってやっと待望のオリジナル音源によるサントラが発売された。ただし未使用曲またはアルバム用書き下ろし曲もけっこうあり、「ブレード・ランナー」というタイトルの新作アルバムであって、あくまでサントラ版ではない・・・とするヴァンゲリスの姿勢は頑固一徹でかっこいいんだか、大人げないんだか。だがニュー・アメリカン・オーケストラのチープな演奏も懐かしく、再販されないかなぁぁとも思う。ちなみに80年代末ごろだと思うがヴァンゲリスのベスト盤アルバムのようなものが発売され、それにブレランのエンドテーマとラブテーマがオリジナル音源で収録されていた。同じくサントラ未発売だった「ミッシング」のメインテーマも収録されておりファンを喜ばせた。
ヴァンちゃんの名前も最近はあまり聞かなくなった。アテネ・オリンピックでもしやギリシァの生んだ大作曲家として出てくるかと期待したが出てきませんでした。くだんない意地はるから「アレキサンダー」のオファーしかこなくなっちまったじゃないかよ!!

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俳優・・・
ハリソン・フォード言わずと知れたスターだ。ミスター・インディアナ・ジョーンズにしてハン・ソロ船長で人気絶頂のころだった。80年代後半では「刑事ジョン・ブック」でオスカー候補にも。90年代にも「エアフォース・ワン」の熱血大統領でスターぶりを見せつけたが、それを最後に墜ちた。ハリソン好きの間で魔の三部作と揶揄される「6デイズ・7ナイツ」「ランダム・ハーツ」「ホワット・ライズ・ビニース」実はこの三本、全て年末第一段興行の作品である。密かに年末には必ず新作を送っていたハリソンだが、3年続けてくそ地味作品をブレゼントされてはたまったもんではない。「K19」はちょっと復活ハリソンだったけど、翌年はまた地味すぎる「ハリウッド式殺人事件」で年末レースに参戦。
でもね、どこまで落ちようともお前は、元警官・元殺し屋・元ブレードランナーのデッカードなんだ。俺は今でもファンさ!!インディ4なんてやめて本気でブレラン2でも考えてくれよ!!
ルトガー・ハウアーの全フィルモグラフィ中、最も傑出しているのがブレランであることは誰もが認めるだろう(尤も、その後「ブラックレイン」でリドリーが松田優作に付けた演技とブレランのルトガーの演技に差異が無いようにも感じるが)
ショーン・ヤング(レイチェル)[のちいろいろ出たけどブレランを越えれない]、ダリル・ハンナ(ブリス)[のちスプラッシュ]、ジョアンナ・キャシディ[のちロジャー・ラビット]と女優たちもみんな素晴らしかった。エトワード・ジェームズ・オルモスなんて未だにビデオリリース・オンリー作品の解説読むと「ブレード・ランナーのエドワード・・・」だ。

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・・・ふう
そんなこんなで大好きなブレラン。ビデオを入手し、何度も見返した。ルトガー・ハウアーがタイレル社の社長の鼻の穴に指を突っ込むシーンが公開時にはカットされていたらしく、それら未公開カットをつけた「完全版」なるものがリリースされたのが、やはり中学のころだ。見たくなかった。少々の興味は湧いたけど、数カットの追加なぞするまでもなく、僕にとってブレ・ランは「完全」だった。「完全版」は未だに見てない。
しかし、ブレランという映画のある種カリスマ性ともいえる魅力は、もっと別な事情の第三のバージョンの存在が象徴していたように思う。
通常の映画ではディレクターズ・カットなどと銘打って、公開時より数分長いバージョンがDVD等で発売される。バカにするなと言いたい。不完全なものに1800円も払わされてるってことじゃねーか!!映画作家として真に誇りがあるなら「フィルムを縦に切れ!!」くらい言って満足のいく編集したものを劇場にかけろ!!
ブレランはどうか!? この映画の場合、無かったものが付けられたことより、あったものが消されたことの方が問題になるという、大変めずらしい事情があった。
92年に「ブレード・ランナー最終版」が公開された。「完全版」という名前は既に使っていたので使えない。苦肉のタイトルが「最終版」だ。
「最終版」にはルトガーがタイレル社の社長の鼻の穴・・・が加えられたわけではない。もともと存在しなかったラストのデッカードとレイチェルが山道を車で疾走するシーンが元通りにカットされ(有名な話だが撮り足しは車内のハリソンとショーンが写る数カットのみで後はキューブリックの「シャイニング」のボツカットを使ったという)、全編を埋め尽くしていたハリソン・フォードのモノローグが全部取っ払われ、あと公開時にも「完全版」にも無かったユニコーンが走る5~10秒くらいの1カットが挿入された。
1カット増えて1シーン減って、さしひき1分程度短くなった。ディレクターズカットの方が公開版より短いという、考えてみれば前代未聞の事態が発生したのだ!!

余談・・・最終版でのユニコーンのカットは「レジェンド」の未使用カットを流用して後から付けたんだよ・・・という説もある。だが、ブレラン・フリークによると「レジェンド」のユニコーンと「最終版」のユニコーンは「明らかに違う馬だ」・・と言うことである。真偽のほどは知らない。
余談終る。

これは見たかった。「完全版」とは訳が全然違う。しかし戸惑いもあった。今さら俺が愛したあの映画がニセモノだったなんて言われても・・・
ラストシーンの抜けるような青空に本物のパラダイスを観たあの気持ちはどうしてくれるんだ!! 
『そこには本物のパラダイスがあった(シャイニングの惨劇前の空ですけど・・・)』なんて間抜けな事になっちまうじゃねーかよ!!
モノローグは本来無かっただと!?あの日、夜のすすきの繁華街を歩きながら、ハリソン気分でぶつぶつモノローグを語っていた思い出に泥を塗るのか!!
「殺し屋の求人は無いな・・・俺は元警官、元殺し屋・・・元ブレードランナー」(いらっしゃい、いらっしゃい、さあどうぞ、二つで充分ですよ・・・に続く)
「なあに、いざとなったら、ずらかるさ」
「お互いいつまで生きるか、誰が知ろう」

ぶっちゃけかっこ良かったんだよ。あのモノローグ。
後になってからしたり顔で「どおりで、あのモノローグは浮いてると思った」なんて抜かす奴!!ほんとのこと言ってみ。お前らも夜の歌舞伎町とか栄とか中州とかでハリソン気分でモノローグひとりごちてたんだろ?

などなど色々思うところはあったものの、映画館で「最終版」を観た。
僕はブレランを観て以来、どんな映画からも受けなかった最も強い衝撃を、ブレランによってもたらされた。今風に言えば「あり得ねえ」くらい感動した。むろん全く別ものの映画みたいだ、とか言う気はない。まず「ブレラン初公開版」の感動ありきの再感動ではあるのだが、しかしその衝撃は凄まじかった。映画を観る側に甘えを許さない、説明一切抜きになったことによる、ブレランエッセンスの純粋抽出。余韻もへったくれもなくぶっつりと観客を突き放し、無情に響くヴァンゲリスのエンドテーマ。
追加されたユニコーンのショットはラストの伏線となり、ドラマに厚みを与える。ブレランはSFでありながらハードボイルドでもある。ハードボイルドにそぐわなかった(と後から思った)スゥイートな感じが、最終版では一切消され、そこにはクール(「かっこいい」という意味でなく直訳調に「冷たい」という意味で)な感じが残った。

中2の時、ブレードランナーを越える映画は現れないと、確信のようなものを持った。その確信はある意味で正しかったし、ある意味では間違っていた。
ブレード・ランナーはブレード・ランナーによって超えられてしまった。ブレード・ランナーを越え得るのはブレード・ランナーしかなかった。
今も昔も、一番好きな映画は?と聞かれると、迷わずに「ブレード・ランナー」と答えることに変わりはない。ただし今は心の中で「かっこ最終版かっことじ」と付け加えることにしている。

そしてその両方の衝撃を最初に映画館で実感できたことの幸運。

いつかDVDで、初公開版と最終版が同時に楽しめるようなものが出るだろう・・・と待ち続けているのだが・・・出ない。(モノローグをサブ音声にして、ユニコーンのカットを自動で飛ばしたり、ラストシーンを自動で飛ばしたり、できないのかなあ)
それまではVHSで、時には「最終版」、時には「初公開版」を楽しむのである。

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4 コメント

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おお!! (しん)
2005-08-03 23:50:52
そう!そう!

ジャブ70ホール!!

ありがとうございます!!

はっきり思い出した
返信する
そのミニシアターは… (くま)
2005-08-02 20:19:50
JABB70ですね。

私は高校生の時封切りで見て虜になり、

JABBにリバイバルを見に行きました。

たぶん映画館だけで5回は見たな。

やっぱり初公開版が一番好きです。

最終版見ても自分の頭の中でデッカードの

モノローグを反芻してたくらい。

さっき友人と久々に初公開版の話をしていて

Googleでここを発見しまして、あまりに自分の

体験と近いので思わずコメントしてみました。
返信する
>cobocho様 (しん)
2005-06-18 08:44:15
コメントどうもです。

イメージ・ガリレオ・・・みたいな感じの名前ではなかったような

返信する
映画館 (cobocho)
2005-06-17 01:10:14
えー、札幌にあった映画館というのは、イメージ・ガリレオ?ガレリオ?とかいう名前だったと思います。

私はそこで「隠し砦の三悪人」を見ましたです。

ブレードランナー、私も衝撃を受けた作品ですので楽しく読ませていただきましたです。
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