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映像作品とクラシック音楽 第78回 クラシック音楽でふりかえるジョン・ウー映画史(香港編)

2022-11-25 08:30:00 | 映像作品とクラシック音楽
前回の小津安二郎につづいて、クラシック音楽とからめて語るのが難しそうな映画作家を、無理矢理からめて書くシリーズです。

私は好きな映画5つあげろと言われたらほとんど迷いなくスラスラと言えるのですが、好きな映画監督5人あげろと言われると迷ってしまいます。まあでも5人の中には結局入れるんだろうな…って1人が香港のジョン・ウー監督になります。
今回はジョン・ウー映画で聞こえてきたクラシック音楽を思い出しながら、ジョン・ウー監督の映画史を振り返ってみたいと思います。
無理があるのはわかっているのですが、たまには趣味性全開で書かせてください(って、いっつもじゃねーかって?)

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ジョン・ウー(呉宇森)は主に香港で後にハリウッドでも活躍した映画監督です。
スローモーションで二丁拳銃で鳩飛ばす監督と思えばだいたいあってます。

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【クラシック音楽的ジョン・ウー映画史 香港編1〜「動物の謝肉祭」/『男たちの挽歌』】

2010年のアメリカ映画『キック・アス』(マシュー・ヴォーン監督)で、ニコラス・ケイジ(ハリウッド時代のジョン・ウー作品の常連でした)演じるダークヒーロー「ビッグダディ」が娘の「ヒットガール」に殺し屋英才教育の一環でクイズを出しました。
「ジョン・ウーの監督デビュー作は?」
「『カラテ愚連隊』に決まってるわ」

というわけで1973年の『カラテ愚連隊』がジョン・ウーのデビュー作となりますが、私は未見です。
それからいくつかの映画を作りましたがヒットに恵まれず、台湾に渡って何作か撮りますがやっぱり売れずに香港に戻り、そんな時に香港の映画プロデューサーのツイ・ハークから黒社会系(ハリウッド流に言えばマフィア映画)ガンアクション映画撮らないかと誘われて撮ったのが代表作『男たちの挽歌』(原題『英雄本色』、英題『A Better Tomorrow』)(1986)になります。

本作はニセ札組織の大者だったが足を洗ってカタギになろうとする兄と、マフィアに足を染めていた兄を許せない警察官の弟との兄弟の葛藤の物語です。そこに兄の親友のギラギラに熱い命知らずでクレージーな男が絡んできて、ニセ札の原盤の争奪戦に展開していきます。
そのギラギラな男を演じて大ブレイクしたのがチョウ・ユンファ(周潤發)です。
テレビで多少は売れていたものの大スターというほどでもなかった彼(といっても挽歌より前にも『風の輝く朝に』という傑作に主演し素晴らしい演技を見せていました)を、ジャッキー・チェンに並ぶ大スターに押し上げたのが『男たちの挽歌』になります。今日に至ってなお彼の代表作と言える作品です。
ユンファの黒メガネに黒スーツに二丁拳銃のビジュアル(厳密には「挽歌2」のいでたちですが)はハリウッドにも影響を与えました。例えばタランティーノの『レザボアドッグス』のハーヴェイ・カイテルのビジュアルはかなりユンファからインスパイアを受けています。

おっと、ユンファのことを書くとつい筆が熱くなります。空気を読み直して音楽の話に…

『男たちの挽歌』の弟役はこれまた後に香港を代表する映画スターになるレスリー・チャンです。
そのレスリー演じるキットの恋人ジャッキー(エミリー・チュウ)は音大出でチェリストを目指しているという設定で、映画序盤でなにかのオーディションを受けるのですが、その時チェロで弾くのがサン=サーンスの「動物の謝肉祭」の白鳥です。
ちなみにこのオーディションシーンのイヤミくさい審査員長を演じているのがプロデューサーのツイ・ハークだったりします。
しかし、おっちょこちょいで天然系のジャッキーは演奏中に譜面台をひっくり返してしまい、さらに会場の外で審査員長の車の窓ガラスを故意では無いのですが割ってしまいます。
当然オーディションは不合格となります。映画の中ではそこから歳月が流れ、彼女はキットと結婚し、子供たちの合唱指導を仕事にしています。

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【クラシック音楽的ジョン・ウー映画史 香港編2〜「美しく青きドナウ」/『男たちの挽歌2』】

『男たちの挽歌』で香港アカデミー賞とも呼ばれる、香港電影金像奨の作品賞を受賞したジョン・ウー(ちなみにユンファは同賞の主演男優賞を受賞)は、一躍香港のトップ監督となります。
で、挽歌の大ヒットを受けて作られたのが『男たちの挽歌2』(1987)になります。1の続編であり1のキャストが再結集…ってユンファは無理だろ!って思っていたらアクロバティックな方法で再登場を果たします。

私はこの『挽歌2』をこれまで100回は観たと思いますが、100回目でも1回目の時と同じテンションで大爆笑できます。ジョン・ウー自身はあんなん撮らなきゃよかったとか寝ぼけたことほざいてるらしいですが、ジョン・ウーのスタイルをほぼ完成させた記念碑的作品には違いないです。
私は「生涯の映画ベストテンを選べ」と言われたら必ずこの作品を10位にします。今後たくさんの映画を観て1位〜9位は変動することもあるかもしれませんが、それでも10位は『挽歌2』の指定席にしたいと思っています。10位くらいがよく似合う映画です。

さて挽歌2でもクラシックの名曲が印象的に響くシーンがあります。
冒頭、主人公のティ・ロン演じるホーさんがあり得ない量の汗をかいて目覚めるオープニングに続けて、レスリー・チャンのキットが潜入捜査の任務に向かうべく車を走らせている時、Jシュトラウスの「美しく青きドナウ」の社交ダンス用タンゴ風アレンジ曲がかかります。
「ドナウ」の印象的な映像作品と言えば大抵の人が『2001年宇宙の旅』をあげるでしょうし、あるいは最近だと『イカゲーム』とかいう人もいるかもしれませんが、私には断然『挽歌2』です。
ちなみにこのシーンは元ニセ札マフィア大幹部で再び悪の道に戻ってきた疑惑のあるディーン・セキ演じるルンさん(実はめちゃくちゃ善人)の娘が社交ダンスコンテストに出場するので、レスリーが逆ハニートラップを仕掛けようとするシーンで、そのダンスの課題曲がドナウだったわけです。殺伐とした挽歌シリーズなのにドナウのワルツの調べにのってメインキャスト・スタッフがクレジットされていくのがなんとも可笑しいです。
ジョン・ウーは若い頃ダンスのインストラクターだったということもあり、アクションシーンはダンスのように描いたり、ダンスそのものを映画の中で描いたりします。

香港時代は挽歌2のあと、『狼・男たちの挽歌最終章』(ストーリーもキャラクターも挽歌シリーズと関係ないです)を撮り、ハリウッドでは主にこれで評価されました。最初に鳩飛ばしたのこの『狼』じゃないかな?
他にトニー・レオンを主役に迎えて、ベトナム戦争を舞台に友情が崩壊していく様を描いた傑作『ワイルド・ブリット』
チョウ・ユンファとトニー・レオンのダブル主演による潜入捜査官系壮絶アクション『ハードボイルド ・新男たちの挽歌』(これも挽歌シリーズとは関係ないです)
『挽歌』とそれに続く香港時代の作品はどれも凄まじい傑作ですが、クラシック音楽的な語りどころはないのでこの程度で

そしてジョン・ウーはハリウッドに活動の場を移しますが、長くなってきたので次回に続きます(次回も読んでくれる人いるだろうか…)
それでは!また!

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