個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]
この映画は人間ヴァン・ダムと俳優ヴァン・ダムの葛藤の映画である。そしてまた、90年代ハリウッドアクション映画を楽しんできた者たちにとっては、ヴァン・ダムという鏡に映った自分を観る映画となる。
ヴァン・ダムに泣かされる日がくるなんて誰に予想できただろう。
「ライオンハート」では危うく泣きそうになったがこらえた。「タイムコップ」とか「クエスト」とかでは笑いすぎて涙出たりしたかもしれない。本作では普通に泣いた。
プレデターの中身がヴァン・ダムだったというデマを信じていた90年代。開脚180度が唯一のウリだったヴァン・ダム。180度開脚で感電地獄の床から脱出した「タイムコップ」、開脚180度をこれでもかと活用して敵アジトから脱出した「ダブル・チーム」。そればっかりと笑っていた学生時代。安っぽくて最後は怒りの逆転勝利のワンパターン。映画マニア大学生だった俺はヴァン・ダム映画をいつも上から目線で観ていた。
それでも「ハード・ターゲット」は本気で面白かった。マジでジョン・ウーのハリウッド作品ではベストワンだと思うし、映研の文集に寄せた1994年の映画ベストテンでは若気の至りで「日の名残り」や「シンドラーのリスト」や「ショートカッツ」を差し置いて第1位にしてしまった。
それからもツイ・ハークやリンゴ・ラムといった香港の大物監督たちを次々と招いたヴァン・ダム。「香港映画人をハリウッドっていうかヴァン・ダムが次々と輸入」などと言われていた90年代末。
そして時は過ぎた。俺は社会人となった。ヴァン・ダム映画が劇場にかかることは少なくなり、東京では劇場公開していたかもしれないが、信州松本ではかからなかった。いつの間にやら、ベルギーの映画人といえば真っ先に思い浮かぶのはダルデンヌ兄弟とアート指向気取りになっていた。CGとワイヤーで誰でもアクションスターになれる時代。鍛えた肉体でスクリーン狭しと暴れ回るやんちゃな映画は少なくなっていた。
そして映画館に久しぶりにヴァン・ダム映画がかかった。「その男ヴァン・ダム」。原題は「JCVD」だ。言うまでもなくジャン=クロード・ヴァン・ダムのイニシャルである。原題の方が好みだ。
ヴァン・ダムがヴァン・ダムを演じる。盛りを過ぎたアクションスター。
オープニングは3~4分の長回しアクションで、ヴァン・ダムは市街戦を戦う。マシンガンと得意のマーシャルアーツで敵兵をバッタバッタと倒していく。おふざけ無しの本気のアクションにしびれるのだが、シーン尻でエキストラがミスってセットを壊してしまう。ヴァン・ダムはぜーぜー言いながら監督に「俺はもう47だ。ワンカットなんて無理だよ」と泣き言を言う。
ヴァン・ダムの悲哀を感じさせるオープニングである。
話の本筋は、故郷ベルギーでヴァン・ダムが立ち寄った郵便局で強盗事件が発生。郵便局員や他の客とともに人質となったヴァン・ダムだが、様々な偶然から警察やマスコミにはヴァン・ダムが強盗犯になったと間違われてしまう。
そしてこの事件に至るまでのヴァン・ダムの様々な悲哀が描かれていく。
一番の泣き所は、ヴァン・ダムと前妻との親権裁判の回想だ。
娘は「パパとママとどっちと一緒に住みたい?」と問われると、ママと答える。そして娘は言う。「パパがテレビに出ると友だちに笑われるの」
その台詞はヴァン・ダムだけでなく、俺の心も撃つ。
そうだ。俺もヴァン・ダムを笑っていた。
そして妻側の弁護士はヴァン・ダム出演作のDVDを取り出しては、まともな父親として相応しくない映画ばかりだと、ヴァン・ダムの演じた暴力シーンを一つ一つ説明し批判する。俺はそれで家族を養ってきた・・・と反論するヴァン・ダム。そうだ彼の映画はくだらなく、バカバカしく、悪党を殺しまくってきたが故に低く観ていた。だが俺はそんなヴァン・ダム映画が大好きだったじゃないか。脚本のアラを突っ込んだり、演出が下手だなと普通に批評したりしつつも、ヴァン・ダム映画にせっせと通っていたじゃないか。
決してその年のベストテンに残るような作品ではなくても、定期的にヴァン・ダム映画やセガール映画を観る事で楽しんできたじゃないか。
そんな10~20年前の、映画ファンとしての自分の原点をほろ苦く思い出させる。
スタローンの、ロッキーやランボーの続編とは感動の質が全く違う。ロッキーまたはランボーの過去作の思い出とともにヒーローの人生を疑似体験して感動するあれらと違い、「その男ヴァン・ダム」はあの頃の自分を思い出す。ノスタルジーだ。「三丁目の夕日」に感動する団塊世代と、感動の方向性は変わらないかもしれない。
そして現在のヴァン・ダムを取り巻く、様々な状況が描かれる。
企画といえば低予算映画ばかり。それすらセガールに奪われ、仕事がなくて、弁護士費用も払えない。
そして人質となった郵便局の中でも、映画のようにかっこよくは犯人たちと戦えない。銃を突きつけられると当然だが動けず、犯人グループに命じられるままのヴァン・ダム。それでも映画スターとして、アクションヒーローとして、なんとか事態を解決しようとするヴァン・ダム。犯人一味の一人にヴァン・ダムの大ファンがいる。
そいつとヴァンダムの会話がいい
犯人に色々せがまれて、つい「ハード・ターゲット」撮影での苦労話を語るヴァン・ダム
「ハード・ターゲット!ジョン・ウーか。あいつは恩知らずな野郎だよ。あんたがハリウッドに呼ばなきゃ、今でも香港で鳩を撮ってた」
「そう言うなよ。『フェイス/オフ』は傑作だ」
「あんたを主役にしなかったじゃないか。でもあいつにも罰が当たったよ。『ウィンドトーカーズ』はクソだ」
(台詞はうろ覚え)
確実に時代に貢献しながらも忘れられていったヴァン・ダム。
それでもまだスターとしてのプライドがあり、スターである自分を演じようとする。
人質を一人だけ解放することになり、ヴァン・ダムは子供を解放しろと持ちかけるが、犯人一味は子供の母親の方を郵便局から放り出す。
ヴァン・ダムは「お子さんは僕が守ります」と言うが、母親に「あんたは自分の子供すら守れなかったくせに!!」と言われてしまう。
ヴァン・ダムにとってあまりに痛い話ばかり。
そしてこの映画のある意味クライマックスと言える、ヴァン・ダムの10分近くの独白シーンとなる。
カメラ目線で、この映画の役としてこんなところで死にたくないというようなことを語りつつも、自分自身の家族の事、ドラッグのことなど、過去の過ちを語り続けるヴァン・ダム。この映画の役を演じるヴァン・ダムと、映画スター『ジャン=クロード・ヴァン・ダム』を演じるヴァン・ダムと、ヴァン・ダムその人とが融合したような、奇妙な、それでいて美しくさえある10分間。アクションしか能がなく、シュワ、スタのように華がなく、スマートな俳優がCGとワイヤーで銃弾をかわす「マトリックス」に皆が群がるようになったハリウッドから戦力外通告されたに近いヴァン・ダム。それでもハリウッドでここ10年間もがき続けてきた苦悩をたっぷり語るワンカットは、B級アクションを養分に育った俺の映画ファン心をざくざくえぐった。
このシーンを大きなタメにして、クライマックスは盛り上がる。
郵便局に突入する警官隊。犯人に盾にされるヴァン・ダム。
あっ!!と声をあげるほどに興奮し感動を誘っておきながら、また一気に転落するまさに怒濤の展開。
そして心に沁み入るラストシーン。
ヴァン・ダムがヴァン・ダムとして生きてきたことはやはり間違いではなかった。それはかつてヴァン・ダム映画をなんだかんだ言いながら楽しんでおきながら、ヴァン・ダム映画を見下すそぶりを見せていた俺に、ほろ苦い反省を感じさせ、アクション好きだった映画ファンの原点を思い出させ、そこに自信を持たせてくれた。ヴァン・ダムに素直に感謝したくなった。
ありがとうヴァン・ダム。そしてこれからも頼むぜヴァン・ダム。
-------
長ーい追記
いま思い出せる限りのヴァン・ダム映画の短評を記す
『ブラックイーグル』
ヴァン・ダム無名時代のショー・コスギ主演作。墜落したステルス戦闘機をめぐりCIAエージェントのショー・コスギとKGBエージェントのヴァン・ダムが対決。ヴァン・ダム初登場シーンは開脚180度でナイフ投げを披露していて笑える。ショー・コスギのハイキックを開脚180度で体を落としてかわすところも笑える。普通にしゃがめばいいのに。
『ブルージーン・コップ』
まあまあ面白かった印象はあるが、どんな話だったか全く覚えていない
『ライオンハート』
ヴァン・ダムが脚本にも携わった感動作。ヴァン・ダムにとっての「ロッキー」になり得るいい映画だった。親子愛的なスポコン映画だったような記憶がある。ラストで泣きそうになった(が、ヴァン・ダムのために泣くのに抵抗があったのでこらえた)
『ダブル・インパクト』
ジャッキーが一人二役を演じたダブルドラゴンだかツインドラゴンだかに触発されたかのように、それにやや遅れて発表したヴァン・ダムの一人二役もの。ヴァン・ダムはこれ以降も双子役とかあの手この手で一人二役を演じる。ジャッキーの楽しさに比べヴァン・ダムのチープさが目立ってしまった気がする。
『ユニバーサル・ソルジャー』
初めてヴァン・ダムを、しかも劇場の大スクリーンで観た作品。今にして思えば監督ローランド・エメリッヒで、共演ドルフ・ラングレンというすごい組み合わせ。当時、年末全国拡大ロードショー作品として公開。ようやく映画の面白さに目覚めアート系作品の洗礼を受けていた時期で、その頃の自分にはこの映画は悪趣味でくどくてバカバカしくてこき下ろしたものだった。「その男ヴァン・ダム」の親権裁判の妻側弁護士のように・・・
カロルコが「ターミネーター2」の利益をつぎ込んで作ったと言う作品だが、その割りにとても安っぽく、興行的にもこけた。後にカロルコが倒産した遠因になってるんじゃないかと疑いを抱く。
ドルフの残忍演技やラストの怒りの逆転ヴァン・ダムキックは印象深く、再見・再評価したい作品。
『ボディ・ターゲット』
意味不明の邦題。濡れ場にもチャレンジのヴァン・ダム。たしか相手役はグラン・ブルーの女優でなかったっけ。
シェーンを現代的にアクション的に作り直したような割とまとまりのいい作品だったが、チープさは否めなかった。
『ハード・ターゲット』
問答無用。ジョン・ウー名刺代わりの強烈な一作。ストーリーは無いに等しいが、映像的にはジョン・ウー要素がぎっしり満載で、アクションはどこもかしこもかっこよく、文句なしでヴァン・ダム主演の最高傑作だ。敵役のランス・ヘンリクセンが良かった。
『タイム・コップ』
「カプリコン・ワン」や「2010年」や「シカゴ・コネクション」などのピーター・ハイアムズと組んだSFアクション。
未来カーのデザインが一昔前のステロタイプな未来っぽいデザインで笑える。アクションもタイムパラドックスによるヴァン・ダム一人二役も、全般ヴァン・ダム的にはハイレベルで、ヴァン・ダム作品史上一番キャッキャキャッキャと笑って楽しめたバカ映画。テンポよく構成もすっきりしていて実際デキはいい。
『ストリート・ファイター』
カプコンの格闘ゲームヒット作の映画化。ゲームは「ストリート・ファイターII」だったけど映画のタイトルでは当然「II」が削られた。
アジア某国のジャングルを舞台としていて全然ストリートでないけど、そんなことはどうでもいい。
チュンリーをゲームの格好にさせるため、捕らえた敵の好みでチャイナドレスを着せられ、とげ付きの手錠をはめられる強引さが笑えた。ヴァン・ダム演じるガイルが、リュウ、ケンを差し置いて主役となる。ヴァン・ダムのサマーソルトキックはゲームそのもの。もしかしたら特撮なしでやってたんじゃなかろうか。ヴァン・ダムのガイル率いる国連多国籍軍がバイソン将軍(ゲームのベガに当たるボス敵)の基地に攻め込む時、多国籍軍の面々の中に日本の軍人も。いいのか?
『クエスト』
ヴァン・ダム初監督作!!!!
オープニングでヨボヨボじーさん姿のヴァン・ダムがチンピラみたいな奴をマーシャルアーツでぶっ飛ばすところからしてすでに面白い。そしてそのじーさんの回想で物語は進む。早い話が昔々格闘技世界王者的なものを決める天下一武道会的な大会があって、ヴァン・ダムはそれに出場し・・・書いているだけでもう一度観たくなってくるバカバカしさ。
『サドン・デス』
再びハイアムズと組んだ、ヴァン・ダム版「ダイ・ハード」。副大統領だか州知事だかその辺のクラスの偉い人も観戦するアイスホッケーの試合場がテロリストに乗っ取られる。客席にはヴァン・ダムの子供たちもいる。たった一人でテロリストたちと戦うヴァン・ダム。これもバカ映画的楽しさにあふれつつ、ハリウッドアクションの鉄板フォーマットに乗っかったストーリーだし、構成はすっきりしていて無難に楽しめる。ヴァン・ダムとハイアムズは相性が良かった。
『ダブル・チーム』
香港からツイ・ハークを招いて撮ったアクション映画。共演はデニス・ロッドマンで意外といい。
大企業的陰謀を感じるくらいコカコーラがやたらとフィーチャーされているのが気になるが、さすがツイ・ハーク。すげー面白かった。開脚180度を最も多用かつ有効に使った映画でもある。「ハード・ターゲット」「タイム・コッブ」「ダブル・チーム」がヴァン・ダムのベスト3だと思う。
『マキシマム・リスク』
またも香港から監督を招いて撮ったアクション。監督はリンゴ・ラム。誰だ?と思われるかもしれないが、私見では香港でノワールものを撮ればジョン・ウーに唯一対抗し得る才人だった。リンゴ・ラムがチョウ・ユンファ主演で撮った「友は風の彼方に」はものすごい傑作である。後年この「友は風の彼方に」の後半部分をあるアメリカの映画オタクがパクってリメイクしそいつは一躍人気監督となった。そのパクリ映画は「レザボア・ドッグス」というタイトルだ。
ともかくそんなリンゴ・ラムとの作品では、残念ながらあまり快心の作とはならず、リンゴ・ラムもハリウッドから退散してしまった。それでも香港時代の「フル・コンタクト」を思わせる弾道映像など、センスのよいアクションは随所に光り、ラストまで飽きさせない。ちなみに本作でもヴァン・ダムは双子の兄弟で一人二役。
『ヴァン・ダム in コヨーテ』
「ロッキー」のアカデミー賞受賞監督ジョン・G.アビルドセンと組んだ作品。なんと黒澤の「用心棒」のリメイク。ただ内容的にはリメイクというよりインスパイアという感じで、ストーリーはだいぶ異なる。
現代設定で流れ者ヴァン・ダムが田舎町を牛耳るギャングをやっつけるみたいな話だったと思うが、二大勢力を操り喧嘩をけしかけ相打ちを狙うわけではない。いっそ、まんま用心棒にしてしまえば、ある程度の面白さは保証されたのに、アクションの少ないユルい内容でがっかり。
『レジョネア』
ヴァン・ダムがフランスの外人部隊の兵士を演じる、戦場もの。アクション控えめで、演技派に転向しようとしていたのかもしれない作品だが、だとするとその試みは失敗に終わった。
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[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]
この映画は人間ヴァン・ダムと俳優ヴァン・ダムの葛藤の映画である。そしてまた、90年代ハリウッドアクション映画を楽しんできた者たちにとっては、ヴァン・ダムという鏡に映った自分を観る映画となる。
ヴァン・ダムに泣かされる日がくるなんて誰に予想できただろう。
「ライオンハート」では危うく泣きそうになったがこらえた。「タイムコップ」とか「クエスト」とかでは笑いすぎて涙出たりしたかもしれない。本作では普通に泣いた。
プレデターの中身がヴァン・ダムだったというデマを信じていた90年代。開脚180度が唯一のウリだったヴァン・ダム。180度開脚で感電地獄の床から脱出した「タイムコップ」、開脚180度をこれでもかと活用して敵アジトから脱出した「ダブル・チーム」。そればっかりと笑っていた学生時代。安っぽくて最後は怒りの逆転勝利のワンパターン。映画マニア大学生だった俺はヴァン・ダム映画をいつも上から目線で観ていた。
それでも「ハード・ターゲット」は本気で面白かった。マジでジョン・ウーのハリウッド作品ではベストワンだと思うし、映研の文集に寄せた1994年の映画ベストテンでは若気の至りで「日の名残り」や「シンドラーのリスト」や「ショートカッツ」を差し置いて第1位にしてしまった。
それからもツイ・ハークやリンゴ・ラムといった香港の大物監督たちを次々と招いたヴァン・ダム。「香港映画人をハリウッドっていうかヴァン・ダムが次々と輸入」などと言われていた90年代末。
そして時は過ぎた。俺は社会人となった。ヴァン・ダム映画が劇場にかかることは少なくなり、東京では劇場公開していたかもしれないが、信州松本ではかからなかった。いつの間にやら、ベルギーの映画人といえば真っ先に思い浮かぶのはダルデンヌ兄弟とアート指向気取りになっていた。CGとワイヤーで誰でもアクションスターになれる時代。鍛えた肉体でスクリーン狭しと暴れ回るやんちゃな映画は少なくなっていた。
そして映画館に久しぶりにヴァン・ダム映画がかかった。「その男ヴァン・ダム」。原題は「JCVD」だ。言うまでもなくジャン=クロード・ヴァン・ダムのイニシャルである。原題の方が好みだ。
ヴァン・ダムがヴァン・ダムを演じる。盛りを過ぎたアクションスター。
オープニングは3~4分の長回しアクションで、ヴァン・ダムは市街戦を戦う。マシンガンと得意のマーシャルアーツで敵兵をバッタバッタと倒していく。おふざけ無しの本気のアクションにしびれるのだが、シーン尻でエキストラがミスってセットを壊してしまう。ヴァン・ダムはぜーぜー言いながら監督に「俺はもう47だ。ワンカットなんて無理だよ」と泣き言を言う。
ヴァン・ダムの悲哀を感じさせるオープニングである。
話の本筋は、故郷ベルギーでヴァン・ダムが立ち寄った郵便局で強盗事件が発生。郵便局員や他の客とともに人質となったヴァン・ダムだが、様々な偶然から警察やマスコミにはヴァン・ダムが強盗犯になったと間違われてしまう。
そしてこの事件に至るまでのヴァン・ダムの様々な悲哀が描かれていく。
一番の泣き所は、ヴァン・ダムと前妻との親権裁判の回想だ。
娘は「パパとママとどっちと一緒に住みたい?」と問われると、ママと答える。そして娘は言う。「パパがテレビに出ると友だちに笑われるの」
その台詞はヴァン・ダムだけでなく、俺の心も撃つ。
そうだ。俺もヴァン・ダムを笑っていた。
そして妻側の弁護士はヴァン・ダム出演作のDVDを取り出しては、まともな父親として相応しくない映画ばかりだと、ヴァン・ダムの演じた暴力シーンを一つ一つ説明し批判する。俺はそれで家族を養ってきた・・・と反論するヴァン・ダム。そうだ彼の映画はくだらなく、バカバカしく、悪党を殺しまくってきたが故に低く観ていた。だが俺はそんなヴァン・ダム映画が大好きだったじゃないか。脚本のアラを突っ込んだり、演出が下手だなと普通に批評したりしつつも、ヴァン・ダム映画にせっせと通っていたじゃないか。
決してその年のベストテンに残るような作品ではなくても、定期的にヴァン・ダム映画やセガール映画を観る事で楽しんできたじゃないか。
そんな10~20年前の、映画ファンとしての自分の原点をほろ苦く思い出させる。
スタローンの、ロッキーやランボーの続編とは感動の質が全く違う。ロッキーまたはランボーの過去作の思い出とともにヒーローの人生を疑似体験して感動するあれらと違い、「その男ヴァン・ダム」はあの頃の自分を思い出す。ノスタルジーだ。「三丁目の夕日」に感動する団塊世代と、感動の方向性は変わらないかもしれない。
そして現在のヴァン・ダムを取り巻く、様々な状況が描かれる。
企画といえば低予算映画ばかり。それすらセガールに奪われ、仕事がなくて、弁護士費用も払えない。
そして人質となった郵便局の中でも、映画のようにかっこよくは犯人たちと戦えない。銃を突きつけられると当然だが動けず、犯人グループに命じられるままのヴァン・ダム。それでも映画スターとして、アクションヒーローとして、なんとか事態を解決しようとするヴァン・ダム。犯人一味の一人にヴァン・ダムの大ファンがいる。
そいつとヴァンダムの会話がいい
犯人に色々せがまれて、つい「ハード・ターゲット」撮影での苦労話を語るヴァン・ダム
「ハード・ターゲット!ジョン・ウーか。あいつは恩知らずな野郎だよ。あんたがハリウッドに呼ばなきゃ、今でも香港で鳩を撮ってた」
「そう言うなよ。『フェイス/オフ』は傑作だ」
「あんたを主役にしなかったじゃないか。でもあいつにも罰が当たったよ。『ウィンドトーカーズ』はクソだ」
(台詞はうろ覚え)
確実に時代に貢献しながらも忘れられていったヴァン・ダム。
それでもまだスターとしてのプライドがあり、スターである自分を演じようとする。
人質を一人だけ解放することになり、ヴァン・ダムは子供を解放しろと持ちかけるが、犯人一味は子供の母親の方を郵便局から放り出す。
ヴァン・ダムは「お子さんは僕が守ります」と言うが、母親に「あんたは自分の子供すら守れなかったくせに!!」と言われてしまう。
ヴァン・ダムにとってあまりに痛い話ばかり。
そしてこの映画のある意味クライマックスと言える、ヴァン・ダムの10分近くの独白シーンとなる。
カメラ目線で、この映画の役としてこんなところで死にたくないというようなことを語りつつも、自分自身の家族の事、ドラッグのことなど、過去の過ちを語り続けるヴァン・ダム。この映画の役を演じるヴァン・ダムと、映画スター『ジャン=クロード・ヴァン・ダム』を演じるヴァン・ダムと、ヴァン・ダムその人とが融合したような、奇妙な、それでいて美しくさえある10分間。アクションしか能がなく、シュワ、スタのように華がなく、スマートな俳優がCGとワイヤーで銃弾をかわす「マトリックス」に皆が群がるようになったハリウッドから戦力外通告されたに近いヴァン・ダム。それでもハリウッドでここ10年間もがき続けてきた苦悩をたっぷり語るワンカットは、B級アクションを養分に育った俺の映画ファン心をざくざくえぐった。
このシーンを大きなタメにして、クライマックスは盛り上がる。
郵便局に突入する警官隊。犯人に盾にされるヴァン・ダム。
あっ!!と声をあげるほどに興奮し感動を誘っておきながら、また一気に転落するまさに怒濤の展開。
そして心に沁み入るラストシーン。
ヴァン・ダムがヴァン・ダムとして生きてきたことはやはり間違いではなかった。それはかつてヴァン・ダム映画をなんだかんだ言いながら楽しんでおきながら、ヴァン・ダム映画を見下すそぶりを見せていた俺に、ほろ苦い反省を感じさせ、アクション好きだった映画ファンの原点を思い出させ、そこに自信を持たせてくれた。ヴァン・ダムに素直に感謝したくなった。
ありがとうヴァン・ダム。そしてこれからも頼むぜヴァン・ダム。
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長ーい追記
いま思い出せる限りのヴァン・ダム映画の短評を記す
『ブラックイーグル』
ヴァン・ダム無名時代のショー・コスギ主演作。墜落したステルス戦闘機をめぐりCIAエージェントのショー・コスギとKGBエージェントのヴァン・ダムが対決。ヴァン・ダム初登場シーンは開脚180度でナイフ投げを披露していて笑える。ショー・コスギのハイキックを開脚180度で体を落としてかわすところも笑える。普通にしゃがめばいいのに。
『ブルージーン・コップ』
まあまあ面白かった印象はあるが、どんな話だったか全く覚えていない
『ライオンハート』
ヴァン・ダムが脚本にも携わった感動作。ヴァン・ダムにとっての「ロッキー」になり得るいい映画だった。親子愛的なスポコン映画だったような記憶がある。ラストで泣きそうになった(が、ヴァン・ダムのために泣くのに抵抗があったのでこらえた)
『ダブル・インパクト』
ジャッキーが一人二役を演じたダブルドラゴンだかツインドラゴンだかに触発されたかのように、それにやや遅れて発表したヴァン・ダムの一人二役もの。ヴァン・ダムはこれ以降も双子役とかあの手この手で一人二役を演じる。ジャッキーの楽しさに比べヴァン・ダムのチープさが目立ってしまった気がする。
『ユニバーサル・ソルジャー』
初めてヴァン・ダムを、しかも劇場の大スクリーンで観た作品。今にして思えば監督ローランド・エメリッヒで、共演ドルフ・ラングレンというすごい組み合わせ。当時、年末全国拡大ロードショー作品として公開。ようやく映画の面白さに目覚めアート系作品の洗礼を受けていた時期で、その頃の自分にはこの映画は悪趣味でくどくてバカバカしくてこき下ろしたものだった。「その男ヴァン・ダム」の親権裁判の妻側弁護士のように・・・
カロルコが「ターミネーター2」の利益をつぎ込んで作ったと言う作品だが、その割りにとても安っぽく、興行的にもこけた。後にカロルコが倒産した遠因になってるんじゃないかと疑いを抱く。
ドルフの残忍演技やラストの怒りの逆転ヴァン・ダムキックは印象深く、再見・再評価したい作品。
『ボディ・ターゲット』
意味不明の邦題。濡れ場にもチャレンジのヴァン・ダム。たしか相手役はグラン・ブルーの女優でなかったっけ。
シェーンを現代的にアクション的に作り直したような割とまとまりのいい作品だったが、チープさは否めなかった。
『ハード・ターゲット』
問答無用。ジョン・ウー名刺代わりの強烈な一作。ストーリーは無いに等しいが、映像的にはジョン・ウー要素がぎっしり満載で、アクションはどこもかしこもかっこよく、文句なしでヴァン・ダム主演の最高傑作だ。敵役のランス・ヘンリクセンが良かった。
『タイム・コップ』
「カプリコン・ワン」や「2010年」や「シカゴ・コネクション」などのピーター・ハイアムズと組んだSFアクション。
未来カーのデザインが一昔前のステロタイプな未来っぽいデザインで笑える。アクションもタイムパラドックスによるヴァン・ダム一人二役も、全般ヴァン・ダム的にはハイレベルで、ヴァン・ダム作品史上一番キャッキャキャッキャと笑って楽しめたバカ映画。テンポよく構成もすっきりしていて実際デキはいい。
『ストリート・ファイター』
カプコンの格闘ゲームヒット作の映画化。ゲームは「ストリート・ファイターII」だったけど映画のタイトルでは当然「II」が削られた。
アジア某国のジャングルを舞台としていて全然ストリートでないけど、そんなことはどうでもいい。
チュンリーをゲームの格好にさせるため、捕らえた敵の好みでチャイナドレスを着せられ、とげ付きの手錠をはめられる強引さが笑えた。ヴァン・ダム演じるガイルが、リュウ、ケンを差し置いて主役となる。ヴァン・ダムのサマーソルトキックはゲームそのもの。もしかしたら特撮なしでやってたんじゃなかろうか。ヴァン・ダムのガイル率いる国連多国籍軍がバイソン将軍(ゲームのベガに当たるボス敵)の基地に攻め込む時、多国籍軍の面々の中に日本の軍人も。いいのか?
『クエスト』
ヴァン・ダム初監督作!!!!
オープニングでヨボヨボじーさん姿のヴァン・ダムがチンピラみたいな奴をマーシャルアーツでぶっ飛ばすところからしてすでに面白い。そしてそのじーさんの回想で物語は進む。早い話が昔々格闘技世界王者的なものを決める天下一武道会的な大会があって、ヴァン・ダムはそれに出場し・・・書いているだけでもう一度観たくなってくるバカバカしさ。
『サドン・デス』
再びハイアムズと組んだ、ヴァン・ダム版「ダイ・ハード」。副大統領だか州知事だかその辺のクラスの偉い人も観戦するアイスホッケーの試合場がテロリストに乗っ取られる。客席にはヴァン・ダムの子供たちもいる。たった一人でテロリストたちと戦うヴァン・ダム。これもバカ映画的楽しさにあふれつつ、ハリウッドアクションの鉄板フォーマットに乗っかったストーリーだし、構成はすっきりしていて無難に楽しめる。ヴァン・ダムとハイアムズは相性が良かった。
『ダブル・チーム』
香港からツイ・ハークを招いて撮ったアクション映画。共演はデニス・ロッドマンで意外といい。
大企業的陰謀を感じるくらいコカコーラがやたらとフィーチャーされているのが気になるが、さすがツイ・ハーク。すげー面白かった。開脚180度を最も多用かつ有効に使った映画でもある。「ハード・ターゲット」「タイム・コッブ」「ダブル・チーム」がヴァン・ダムのベスト3だと思う。
『マキシマム・リスク』
またも香港から監督を招いて撮ったアクション。監督はリンゴ・ラム。誰だ?と思われるかもしれないが、私見では香港でノワールものを撮ればジョン・ウーに唯一対抗し得る才人だった。リンゴ・ラムがチョウ・ユンファ主演で撮った「友は風の彼方に」はものすごい傑作である。後年この「友は風の彼方に」の後半部分をあるアメリカの映画オタクがパクってリメイクしそいつは一躍人気監督となった。そのパクリ映画は「レザボア・ドッグス」というタイトルだ。
ともかくそんなリンゴ・ラムとの作品では、残念ながらあまり快心の作とはならず、リンゴ・ラムもハリウッドから退散してしまった。それでも香港時代の「フル・コンタクト」を思わせる弾道映像など、センスのよいアクションは随所に光り、ラストまで飽きさせない。ちなみに本作でもヴァン・ダムは双子の兄弟で一人二役。
『ヴァン・ダム in コヨーテ』
「ロッキー」のアカデミー賞受賞監督ジョン・G.アビルドセンと組んだ作品。なんと黒澤の「用心棒」のリメイク。ただ内容的にはリメイクというよりインスパイアという感じで、ストーリーはだいぶ異なる。
現代設定で流れ者ヴァン・ダムが田舎町を牛耳るギャングをやっつけるみたいな話だったと思うが、二大勢力を操り喧嘩をけしかけ相打ちを狙うわけではない。いっそ、まんま用心棒にしてしまえば、ある程度の面白さは保証されたのに、アクションの少ないユルい内容でがっかり。
『レジョネア』
ヴァン・ダムがフランスの外人部隊の兵士を演じる、戦場もの。アクション控えめで、演技派に転向しようとしていたのかもしれない作品だが、だとするとその試みは失敗に終わった。
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