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のんちゃんのり弁 [監督:緒方明]

2009-11-28 12:48:48 | 映評 2009 日本映画
個人的評価: ■■■■□□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

点数は渋めだが、とっても好きな映画である。
働く事、稼ぐ事、オトナの責任、30代の再出発・・・色々と人生の教訓となるようなものが散りばめられていて、元気がなくなった時に観返してみたくなりそうな映画だ。
脚本は素晴らしい。
鑑賞前に脚本を読んでいたので(シナリオ誌10月号に掲載されていたやつ→「のんちゃんのり弁」のシナリオ感想・・・参照)、さてこのいいホンがどのように映像化されるのかと観に行ったのだった。

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[役者について]
小西真奈美は、この物語のヒロインに結構はまっていた。
「子供が子供を産むからだよ」「子供の手だ。この手を大人の手にすること」などなど散々子供呼ばわりされる役に、マッチしている。彼女自身が言うように、何もしてこなかったくせになまじプライドだけはある・・・そんな女に、もう若手女優でもないが大物の風格があるでも、栄光のアイドル時代の記憶が残るでもない小西真奈美という女優の姿がだぶって見えてくる。
クライマックス(?)の亭主との大喧嘩のシーンで、ポカスカ叩きながら顔が笑っているように見えるので、拍子抜けする・・・とか、ラストで弁当屋の開店準備をしながら自然と涙があふれてくるというシーンで、エグッエグッとしゃくり上げるように泣く姿が、オーバーアクトに感じられる・・・とかシナリオで勝手に想像したイメージと違い違和感のある場面はある。
だが、それはそのシーン単体で観れば違和感を感じるものの作品全体の演出トーンとしては統一されている。彼女は「子供」であるから、子供のような無邪気な芝居を監督は求めたのであろう。またそれらの芝居が決して下手という訳ではなく、現在の小西真奈美自身の自然にあふれた感情とも取れ、そこに漂う演技の甘さも、大人になりきれないヒロイン小巻のキャラクターの中に吸収されている風にもとれる。
総じて見事に演出されていた小西真奈美は、どうとでも料理のできるいい女優さんなのだと思う。

ただし、本作の一番の名台詞にして長台詞

「はい。トシくってます。子供もいます。そのわりに金は無い。資格は無い。一般常識も世の中のこともなーんも考えずに生きてきて、もうすぐ32です。そんな馬鹿女が今日!はじめて!目標ができたんです。遅いですよ!そんなの百も承知!でもね!行き場所が見えたんです!居場所じゃなくて行き場所!最近の若いもんは幼いと思ってらっしゃるかもしれないけど。世の中の31の女が仮に全部そーでも!今のあたしは違う!もう全然覚悟が違う!お願いします!お金はいりませんから!」

ここでの演技は、1カットで一気に喋ってくれるのはいいのだけど、時々、「聞き手から目をそらす仕草」がとても気になり、引きつけられなかった。
長台詞中に2~3度、目をそらす、その行為がまるで台詞を思い出そうとしているようにも見え、もちろんそんな訳はないのだから、多分、彼女の芝居の癖なのだろう。そうでなければ監督があえてそのように演技指導したのだろうか?
好みの問題かもしれないが、ここだけはキッと相手を見据えて喋り続けてほしかった。

役者陣では他に岸辺一徳が良かった。ぬぼーっとした威厳。「東京物語」をリメイクするなら笠智衆がやっていた役は岸辺さんにやってほしい。
「お金をもらうのは悪い事じゃない。悪いのは何もせずにお金をもらう事」
「なんかの責任とるってのは、だいたい他のなんかをほったらかしにしなきゃできねえんだ。捨てたくないからって全部抱えてりゃ、みんな腐らせちゃうんだよ。あんたそれわかるかい」
などなど名台詞多し。それらを押し付けがましさを感じさせずに、さらりと教えてくれる。

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[映像について]
本作で、観る前から予想はしていたから、それほど落胆はしていないのだけど、やはり「普通過ぎる映像」に物足りなさを感じた。
晴れた日の昼の屋外のシーンってどんな映画でも映像がのっぺりと単調になりどうも好きになれない。
本作はそうしたシーンが多く、クライマックスの大喧嘩シーンも「ととや」の戸を突き破った後は、そんな感じで喧嘩の緊張感は途切れて脱力する。
本作にいくつかあった、昼の屋内の窓際の映像。
陰影のコントラストがついて、ただ撮るだけで何か高級感が出る。昼の場面を美しくするなら窓際だ・・・と妙な確信をもった。
それから望遠レンズなどで被写界深度を浅くして、近景と遠景でピントを明確に分けるとそれだけで日常風景では見られない「映画的ゾクゾク感」のある画になるのだと、これもいくつかあったそうしたショットから感じた。撮影は面倒だろうけど。屋外でパンフォーカス気味の画って面白みを感じない。それはこの後に見た「空気人形」(撮影:リー・ピンビン)が遠景のボケた映像ばかりで構成されていてその映像の美しさに打ちのめされて余計に思った。
ただ脚本がいいというだけじゃ感動は薄くなる。それなりに凝った映像が合わさる事で、感動は深くなる。それはまやかしの感動にすぎないかもしれないけど、私はまやかされたい。

ただし、そうは言ってものんちゃんのり弁のカメラは流石プロの仕事・・・と感じさせる部分も多い。
小西真奈美が奇麗に元気良さげに撮れていたこと
商店街の人情物語でありながら映像の節々に商店街の衰退の兆しが垣間みられてそんな語りと映像の不一致が映画に奥深さを与えていること・・・など
予算も日程も余裕がないだろう状況で、すらすらとこれだけの画を撮れるのはやっぱりすごい事なんだと思う。

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