平成二十七年四月二十付、ａｕの「朝刊ピックアップ」で記事
「『朝鮮人殺せ！』の『在特会』と『安倍政権』」
を企画、取材、執筆しました。
18日付の毎日新聞朝刊に「サンデー記事巡り稲田氏が本社提訴」という記事がある。それによると、週刊誌「サンデー毎日」の記事で名誉を傷付けられたとして、自民党の稲田朋美・政調会長が発行元の毎日新聞社を相手取り、550万円の損害賠償などを求める訴えを大阪地裁に起こし、17日の第１回口頭弁論で毎日新聞社は請求棄却を求めたという。
なお、くだんのサンデー毎日の記事とは、昨年10月5日号の「スクープ 国連が激怒 安倍とシンパ議員が紡ぐ極右在特会との蜜月」。そこで稲田氏の資金管理団体「ともみ組」が10～12年、「在日特権を許さない市民の会」（在特会）の幹部と行動する8人から計21万2000円の寄付を受けた、として「在特会との近い距離が際立つ」と指摘していた。
なお、「在特会」とは、都内の大久保などのコリアンタウン等で、「朝鮮人首吊れ！」「韓国人を殺せ！！」「射殺しろ！！」などと叫んでデモ行進する団体。
くだんの記事に対し稲田氏は「寄付を受けることは寄付者の信条に共鳴していることを意味しない」、記事によって「在特会を支持していると読者に受け取られ、社会的評価を低下させる」と訴えている。真偽は今後、法廷で明らかにされていくことだろう。
ちなみに、くだんの記事で指摘しているのは、稲田氏のことだけではない。安倍首相と側近議員たちと、在特会とは、深い関係にあるのだという。例えば11年5月10日、六本木ヒルズのホールで、歴史と公民の新しい教科書の出版を記念したシンポジウムが開かれた。この席で安倍首相（肩書は現在で表記、以下同）と下村博文文科相が講演したが、このシンポジウムは、在特会と共同でデモや集会を行っている女性団体が、メンバーに参加を呼び掛けて動員していた、という。
別の在特会系女性団体は、稲田朋美・政調会長や山谷えり子・国家公安委員会委員長兼拉致問題担当大臣等らが出席する集会を告知。
さらに、12年9月の自民党の総裁選当日には、在特会系団体が、「党本部前に大挙して駆けつけ、安倍首相に“黄色い声援”を送りました。ある女性団体など、のぼり旗も立てて存在をアピールしていたのですが、その付近で安倍首相は車から降りて握手を繰り返していましたよ。その後も、自民党が大勝した衆院選、参院選で安倍首相が東京・秋葉原駅前で演説する際は欠かさず、在特会系団体のメンバーが加わって盛況を演出しています」（在特会幹部の話）。
要するに、在特会とその系列団体は、まるで安倍政権の「後援会」のような動きをしていることになる。
なお、在特会は今のところ、朝鮮人を殺す、との言葉を実行はしていないが、かつて日本では、現実に虐殺していたことがあった。それは関東大震災（1923年（大正12）9月1日午前11時58分に発生）でのことだった。
そのことは評論家の故・中島健蔵氏の著書「昭和時代」（岩波書店刊）に生々しい記載がある。同書によると震災直後、中島氏は、都内の神楽坂警察署のあたりを車で通った。その時、「ただごととは思えない人だかり」で、中島氏は車から降りて近寄った。すると、人だかりの中心に二人の人間がいて、腕をつかまれてもみくしゃにされていた。二人は別に抵抗していないが、とりまいている人たちの方がひどく興奮していた。そのうち群衆の一人の「トビグチ」（棒の端がトビのくちばしのように尖っている鉄製の道具）を持った男が、トビグチを高く振り上げるや否や、力まかせに、二人のうちの一方の男の頭めがけて振りおろした。ガツンとにぶい音がして、刃先がズブリと頭に刺さった。中島氏はその音を聞くと、思わず声をあげて、目をつぶったという。
「不思議なことに、その兇悪な犯行に対して、だれもとめようとしないのだ」、しかも、「大勢の人間がますます狂乱状態になって、ぐったりしてしまった男をなぐる、ける」と大暴れしていたという。
これは、震災の混乱につけこんで、朝鮮人の一派が暴動を起こそうとしている、というデマによるもので、首都圏各地で、同様の虐殺が横行した。
中島氏は、この悲劇は、大正、昭和にかけての日本残虐史の出発点で、法秩序を無視する残虐が公然と行われるようになったのは、このときにはじまった、と指摘している。
この時の大量虐殺と、今の在特会の言動は、通じるものがある。（佐々木奎一）
