2013年3月29日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
「朝刊ピックアップ」で記事
「生活保護費で「パチンコ」通報条例の波紋」
を企画、取材、執筆しました。
けさの産経新聞のコラム「産経抄」が、朝日新聞のコラム「天声人語」を批判している。
発端は3月6日付の「生活保護への色眼鏡」という見出しの天声人語。冒頭、仏文学の翻訳者の堀口大学が訳した批評家グールモンの一文「女を悪く云(い)う男の大部分は或(あ)る一人の女の悪口を云って居るのである」を引用し、こう記している。
「卓見だと思う。人はごく狭い知見や印象で全体を語りがちだ。だから文中の『女』は何にでも取り換えがきく。たとえば若者、オジサン、アメリカ人(略)……そして生活保護受給者もまた、しかりではないだろうか。去年、お笑いタレントの母親の受給問題をきっかけにバッシングが起きた。あれなど、一人を悪く言うことで全体をあげつらう一例だったろう。(略)一部への批判が全体への色眼鏡になっているようで気にかかる」
そして、こう批判を展開している。「いきつくところと言うべきか、兵庫県小野市が議会に条例案を提出した。受給者がパチンコなどで浪費しているのを見つけた市民に通報を義務づけるのだという。耳を疑ったがエープリルフールにはまだ間がある。(略)そもそも誰が受給者なのか一般市民には分からない。効果は疑わしいうえ、小野市だけでなく全国で色眼鏡が濃くなりかねない」
けさの産経抄は、この天声人語の内容を紹介した上で、堀口大学の詩「若い君に」の一節「一度でいいから他(た)の場所で こころ静かにさがしてみては? 君の詩を、心にともす君の灯(ひ)を さがしてみてはどうだろう?」を引用して、こう指摘している。
「若者に限らず、当面の生活の心配がなくなった受給者には、パチンコ、競輪、競馬以外の場で、さがすべきものがある」
そして、「市の狙いはあくまで、自立支援という生活保護のあるべき姿の啓蒙だ」と条例を擁護している。
ちなみに、小野市(人口約5万人)には条例に対する賛否が全国から約1700件きており、監視社会を招く、憲法違反、といった反対の声がある一方で、血税なのだからパチンコで散財させないのは当然、といった擁護論も多く、賛否は二分しているという。
なお、3月25日付の『アエラ』(朝日新聞出版刊)によると、蓬莱務・市長がこの条例をつくったきっかけは、昨年後半の生活保護費の支給日でのことだった。朝、登庁すると、1階の社会福祉係の窓口付近に列ができていた。エレベーターを待つ間、何の気なしに彼らの話を聞いていると、次のような言葉が耳に入ってきたという。
「今日はこのあと、どこのパチスロ行くんや?」
同じころ、「生活保護でお金が入ったからとパチンコに行っている人がいる」といった、それまではなかった市民の声が2、3件届いた。さらに、担当職員から、受給世帯は5年前に比べて164%増の約120世帯だと報告があった。「それで、生活保護制度とは何なのか、当たり前のことを市民に示す条例をつくろうと思ったのです」(蓬莱氏)
蓬莱氏は特殊金属線メーカーの経理課長や総務人事部長を経て、1999年に52歳で市長に就任。「私もかつていろんなギャンブルをやって大負けした経験があるから、ギャンブルの恐ろしさがわかるんです。身近なパチンコだって、今はすぐに2万円も5万円もすってしまう。パチンコを『娯楽』と言って生存権にからめて語るのは、現実を知らない議論です」(同)
ちなみに、生活保護法には「生活上の義務 第六十条 被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、支出の節約を図り、その他生活の維持、向上に努めなければならない」とある。この一文を具体化した小野市の条例が、マイナスに作用するのか、それともプラスに働くのか、注目したい。(佐々木奎一)
写真は、蓬莱務・小野市長。