ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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“ひきこもり”支援の現場報告シンポに潜入!

2012年02月23日 | Weblog

 

 厚生労働省によると、全国の「ひきこもり」の人数は、推計約26万世帯に達するという(同省の06年度研究結果より)。しかも、「ドキュメントひきこもり『長期化』と『高年齢化』の実態」(著: 池上正樹/宝島社刊)によると、ひきこもりという言葉が日本ではじめて登場した1991年以来、ずっとひきこもり続けている層や、一旦、社会からリタイヤして、そのまま密かに地域で息を潜める「大人のひきこもり」は増えているという。

 そんな中、「不登校・ひきこもり支援シンポジウム ひきこもりへの多角的支援を考える 親の会、訪問支援、居場所、就労支援の現場から」と題する集会が1月9日、東京都品川区内で開催された。主催はNPO法人「メンタル・コミュニケーション・リサーチ」。ひきこもり支援の現場の実態を知るため、集会に潜入した。

 会場参加者は約100名。ひきこもりに携わる大学生と見られる20代の男女が大半だった。シンポジウムでは、ひきこもり支援をしているパネリストたちが2時間半にわたり実情を語った。なかでも特筆すべきは、次の2人の話だった。

 まず、ひきこもりに対する「居場所」の支援をしているNPO法人「KHJ千葉県なの花会」の藤江幹子理事長の話。同会は、月3回、ひきこもりの若者のための「居場所」をもうけている。藤江氏はこう語る。「私たちの会は現在、17歳~43歳までのひきこもりの若者がいます。女性が割と多いのが特徴で、現在、10名が女性で、16名が男性。なので男性は楽しいですよね。女性も楽しいです。何をしているかというと、テニスや卓球、バトミントン、バスケットなどのスポーツや、人形劇、陶芸、気功、アートセラピーや、ボーリング大会、クリスマス会、バーベキュー、誕生会、飲み会といったイベントをしています」という。

 同会では、例えば、こんな支援の実例があるという。それは小学校後半から引きこもり続けているという20代の女性Aさんの話。Aさんは母とともに同会に見学にきた。その後、「居場所」に1年半母子で通うなかで、仲間が増え、徐々に「居場所」以外でも友達と交流するようになり自信をつけていった。その間、通信高校に入学し、途中から高卒認定試験に挑戦するようになった。さらに、ボランティアやバイトにもチャレンジし始め、人に合わせるとより疲れるので、「疲れたら休む」という自分のペースでを大切にして、活動しているという。

 藤江氏は「大事なのは、楽しいと思えること。それが一番の力になります。そのために色々工夫して進めています。『居場所』に来た人は、人と人がつながることで自信ができて、『仕事をしなさい』と誰から言われなくても、刺激を受け合うなかで、自然と、仕事をし始めるようになります」と語る。

 次に、就労支援をしているNPO法人「文化学習協同ネットワーク」の藤井智・若者支援事業統括責任者の話。同法人は、「非求職型」と呼ばれる「働く意志はあるけど求職活動に向かえない」というタイプのひきこもりに対し、就労支援を行っている。場所は東京都三鷹市と神奈川県相模原市の2か所。藤井氏は三鷹市を担当しているという。同氏は語る。「人が最も育つ現場というのは、働く現場だろう。働く場所ほど、人を育てる機能のある現場はない。そう我々は思っている。そこで具体的に何をやるかと言うと、パン屋さんと農場とカフェを独自に持っており、実際に黒字が出る事業所で就労支援を展開している」という。

 最近の若者の傾向については、「年間約300人のひきこもりの若者と接しているなかで、圧倒的に多くの若者に共通するのが、働きたいというよりは、働けるようになりたい。就職試験受けて、受かりたいんだけど、もし受かったら、うまくやれるかどうか不安、という『対人関係不安』のある人たち。もう一つは、自分に何ができるのか、自分は何がしたいのか、という『自己イメージの不確か』な人が多い。そこで大事なのは、まっとうに働く体験をして、『あぁ、人っていいな。働くってわるくないな』と感じること。そうならない限り、継続的で安定的な就労には結びつかない、というのが我々の考え」と述べる。

 例えばこんな支援のケースがあったという。30歳前後のN君(男性)は、最初は「ずっとテレビゲームをやって生きていこうと思います。両親が死んだら、そのときは死にます」と、悲壮感なく言う若者だった。そのN君が6カ月のパン研修を経て卒業する頃には、「生きようと思います。ここにきて一番よかったのは人とのつながりです。一人の人に心を開いたことによって、どんどんつながりが増えていって、僕にかかわってくれた人たちに感謝しています」と語ったという。

 藤井氏は「支援に魔法はない。それに外から与えられる『希望』には要注意。自分自身も日々闘いで、世の中やってられない、という気持ちと、生きるってステキだよね、という気持ちがせめぎ合っている。この闘いを絶えずしていくなかで、人と社会への信頼を維持し、再生産させていく。今、社会はそのことが問われているのではないか」と語る。

 このようにイベントなどを通して楽しむ方法や、働くなかで生きる楽しさを実感するなど、色々な方法がある。上述の2人のような善意の人たちの下で、ひきこもりの人たちのタイプに合ったやり方で支援を受けていけば、状況は改善されていくのではないか。

 

写真は、「KHJ千葉県なの花会」の藤江幹子理事長。


 
 2011年1月15日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「“ひきこもり”支援の現場報告シンポに潜入!」
 
を企画、取材、執筆しました。 


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