ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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過労死企業“開示”訴訟、二審で開示命令取り消し

2012年12月14日 | Weblog

2012年11月30日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号

「朝刊ピックアップ」で記事 
 
「過労死企業“開示”訴訟、二審で開示命令取り消し」
 
を企画、取材、執筆しました。

 

 けさの日本経済新聞に「労災認定の企業、『ブラック企業と評価の恐れ』、一審の開示命令、高裁が取り消し」という記事がある。

 これによると、過労死などで従業員が労災認定を受けた企業名を開示しないのは違法として、市民団体「全国過労死を考える家族の会」代表の寺西笑子氏(63)が、大阪労働局の不開示決定の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が29日あり、大阪高裁は、開示を命じた一審・大阪地裁判決を取り消し、請求を退けたという。山田知司裁判長は、「企業に過失がなくても『ブラック企業』と評価される恐れがある」などと判決理由を述べたという。

 ちなみに、一審判決の内容は、ニュースサイト・マイニュースジャパンの11年11月23日付の佐藤裕一氏の記事「過労死企業名『開示せよ』 大阪地裁で国が全面敗訴 主張1つも認められず」に詳しい。これによると、この裁判の最大の争点は、労災認定を受けた企業名が開示されることで、「当該企業に対する社会的評価が低下する」との被告国の主張に対し、裁判所がどう判断するかだった。

 この点について、一審判決で同地裁の田中健治裁判長は、労災の支給決定がされたとの事実自体が、その会社の労働基準法等の法令違反があったか否かを問題とするものではない、と指摘し、企業名を開示することが、「社会的評価の低下と直ちに結びつくものとはいえないところであって、当該事実が明かになることにより一定の社会的評価の低下が生じえるとしてもそれは多分に推測を含んだ不確かなものにすぎない」と指摘。

 さらに、同裁判長は、過労死関連と目される「脳血管疾患及び虚血性心疾患等」による労災認定について、「労働時間等の労働環境以外に年齢、生活習慣等の様々な要因が影響するものとされており、一般的には単純に労働時間の長短や労働環境の影響のみによって発生するものとまで認識されてはいないものと解される」と述べていた。

 そして、上記により、仮に労災の支給決定がされたという事実により、「一定の社会的評価の低下が生じたとしても、そのことが直ちに当該事業所が取引先からの信用を失い、あるいは、求職者から当該事業場への就職を敬遠されるような事態を招く蓋然性が存するものと認めるに足りる的確な証拠はなく、そのようなおそれはあくまでも抽象的な可能性にすぎないものというべきである」として、被告の主張を退けていた。

 だが、冒頭のけさの記事によれば、この点について高裁判決では「情報公開法は法人などの正当な利益を害する恐れがあるものを不開示情報と規定する」と指摘し、脳・心疾患による死亡で労災認定されただけでは過失や法令違反があることを意味しないのに「社会的には『過労死』『ブラック企業』という否定的評価をされ、信用が低下し、利益が害される蓋然性が認められる」として不開示決定は適法と判断したとある。

 このように一審とは正反対の判断となったわけだが、そもそも情報公開法は、国がこれまで隠してきた事実を極力オープンにして、その事実を主権者である国民が知り判断していくことを趣旨としている。高裁判決は、この法律の精神と照らし合わせて妥当といえるだろうか。

 また、厚労省の保有する労災手続きの文書だけでは、法令違反の有無が判断できない、というのなら、死に至った背景に企業の違法行為があったのかどうか、調査する制度をつくって、事実を国民に明かにする必要があるのではないか。(佐々木奎一)


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