平成二十五年十ニ月一日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
「潜入! ウワサの現場」で記事
「公安がジャーナリストをテロ認定、秘密保護法案の闇を語るシンポジウムに潜入!」
を企画、取材、執筆しました。
今国会で物議を醸している秘密保護法案は、みんなの党、日本維新の会との修正協議を経て、11月26日に衆院を通過し、翌27日から参院で審議入りした。
その衆院通過の前日25日午後6時半から、東京都千代田区霞が関にある弁護士会館で「だれのための秘密保護法か!? これは、国民+国会議員vs官僚のたたかいだ!」と題するシンポジウムが開催された。主催は東京弁護士会。同シンポジウムでは、公安に詳しいジャーナリストの青木理氏が参加し、公安警察と秘密保護法という、あまり論じられることのないテーマで語り尽くすという。現地へ向かった。
会場は弁護士や市民団体と見られる中高年男女を中心に約300人が参加。
シンポジウムでは、まず、日弁連副会長の佐野善房氏が、こう意気込みを語っていた。「私どもは、何としても衆議院通過を阻止するために、努力していきたいと思っていますが、万万が一、通過してしまった場合でも、まだ参議院があります。冤罪事件で八海(やかい)事件という事件がかつてありましたが、その中で、控訴審で有罪判決を言い渡された被告が、『まだ、最高裁がある!』という言葉を述べました。私どもも、もし、仮に、不幸にして衆議院を通過した場合でも、まだ参議院がある! そういう気合いをもって、反対運動をさらに続けていく所存ですので、皆様も、『衆院を通過しちゃったから、諦めよう』ということではなく、さらにがんばって、なんとかこの法案を廃案に追い込みたいと思っています」
次に、印象深かったのは、第二東京弁護士会の井桁大介弁護士の話。同氏は、10年10月、ファイル共有ソフト・ウィニーなどを通じて流出して社会問題化した、警視庁公安部外事3課が作成したとみられる国際テロ関連資料114点の文書の中身について解説した。
「外事3課」とは、911を機に02年に発足した国際テロ対策を目的とした部署。後述のようにこのテロ捜査は、特定秘密保護法案ができると、日本人にも深くかかわってくる。
流出した文書によると、公安は、ムスリム(イスラム教徒)を調べるため、都内モスク・礼拝所に8時半から17時半まで張り込み、礼拝参加者数をカウントし、「人定判明者」(定期的に参加し、面が割れている人)、「追跡未実施者」(尾行をまだしていない人)などに分けてチェックしていた。さらに17時から翌8時半までは監視カメラを設置し、モスクの出入りの人数をカウントし、24時間体制で見張っていた。
また、ムスリムの捜査のため、行政機関に協力を要請し、外務省からビザ申請の情報、海上保安庁から船舶安全情報、法務省から在留資格のカードなどの顔写真の提供を受けていた。
さらに、民間業者からも提供を受けていた。例えば、流出文書には「担当課による粘り強い対策の結果、現在、都内に本社を置くレンタカー業者大手4社(トヨタレンタリース、ニッポンレンタカー、オリックスレンタカー、ニッサンレンタカー)から、照会文書なしで利用者情報の提供が受けられる関係が構築」とある。
また、化学剤取扱業者(爆弾など)、ホテル、レンタカー、インターネットカフェ、ハラール・レストラン(ムスリムの食べる食材を使ったレストラン)、中古車業者等も、公安が情報収集を図っているとある。楽天からも、肥料全般(硝酸アンモニウム、尿素など)の通信販売を行っている業者の名簿の提供を確約した、とある。また、ムスリムが留学している東京農工大、電気通信大からも名簿を入手済みとある。
金融機関からは、イラン大使の全権特命大使、一等書記官、二等書記官や事務技術職など、大使館スタッフ全員の、個人口座の詳細情報の提供を受けていた。
さらに、こんな気になる文書もある。それは「FBIからの捜査要請に基づき次のとおり聴取を実施」という文書。そこには「FBIからの質問事項 あなたは、これまでアメリカに対するテロ活動/計画に関与したことがありますか?アメリカをターゲットとするテロ活動/計画について話して下さい」とある。
この文書を指し、井桁氏は、このFBIの情報が流出したことに対し、FBIが怒って、秘密保護法案の成立を求めているから、安倍政権は成立を急いでいるのかもしれない、という趣旨の発言をしていた。
こうしたムスリムに対する捜査は、実は私たちにとっても他人事ではない。ジャーナリストの青木理氏はこう語る。「秘密保護法案の事務局は、内閣情報調査室、略して内調という組織。発足以来、ここの組織のトップは全員が警察官僚なんです。それも、いわゆる公安(警備公安警察)の局長などの幹部が、警察の組織のトップになれなくなって来ている。その下のスタッフも、基本的には公安から出向できている。つまり、内調は、警察の出先機関であり、もっと正確にいうと、公安のダミーのような組織なんですね。ですから、今回の法律をもっとも欲しくて、つくろうとしているのは誰かといえば、公安官僚なんです。外交や防衛の秘密もそれはあるでしょう。でも、むしろ、内政における治安立法として、戦前の治安維持法のような形で使わる恐れの非常に強い法律です」
また、前出のテロ捜査の流出資料について、青木氏はこう語る。「僕がびっくりしたのは、この資料のなかで、成果が誇示されている。こんな成果があった、私たちは危険なムスリムを検挙した、という事例が載っている。その一つが、インターネットのチャット上で、『ブッシュアメリカ政権のイラク戦争はひどい、反対だ』と書いてある。このような危険な人物は、野放しにすると本物のテロリストになりかねないから、別件で逮捕した。それが、この間の外事3課の誇るべき成果だ、と書いてあったことです。唖然としました。組織をつくって、やることがないと、こんなことをするのか、と」
これはイスラム教徒に限った話ではない。なぜなら、秘密保護法案の第12条の2には、テロの定義について、「テロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の者を破壊するための活動)」と記しているためだ。
読んで字の如く、「又は」以下の二つの文は、いわゆるテロだが、冒頭の「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」というのは、何にでも当てはまってくる。
原発、イラク派兵、消費税、安倍政権、公明党、秘密保護法案などの反対を世に訴えると、この条文に該当することになる。
すると、どうなるか。秘密保護法にあるテロリズム活動をしている者は、ムスリム同様、監視する必要がでてくる。それをやるは当然、公安である。
青木氏はこう語る。「流出資料には、ムスリムの人たちを徹底的に尾行するなかで、あるムスリムに対して、駅をおりて行ったり来たりしている、今日は不審だ、そのうち、セブンイレブンに寄ってセロハンテープを購入(目的は不明)、と書いてある。それをみて、セロテープくらいそれは買うだろう、目的なんか何だっていいじゃないか、と苦笑したが、やがて、うすら寒くなりました。法案によれば、僕はまさに『政治上その他の主義主張に基づき、他人にこれを強要』しているわけですね。秘密保護法案は、おかしいのではないか、と。こういうテロリズム活動をしていると、家に帰る途中、例えば、僕が焼き鳥屋に行き、ビールを飲んで、その帰りにコンビニに寄って、家に何時に帰って、奥さんはどんな人で、子どもは何歳でどこの学校に通っている、といった情報が丸裸にされる。さらに住民票のデータはもちろん、銀行の取引状況、レンタカー情報や、愛人の有無や性癖など含め、プライバシーの情報が全部取られる」
このように青木氏は語っていた。秘密保護法案が成立して法律通りに運用されると、たしかに青木氏はテロリストに認定されて、尾行もされるし、取材で懲役10年の実刑判決を受ける身になってしまう。もちろん青木氏だけではない。誰もが政治にモノ申すと逮捕されてしまうという、まさに治安維持法の様相を呈してくるといえよう。(佐々木奎一)
写真は、ジャーナリストの青木理氏。