平成二十六年十月五日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
「潜入! ウワサの現場」で記事
「みずほ銀が詐欺的手口の投資勧誘で敗訴判決」
を企画、取材、執筆しました。
名の知れたメガバンクが詐欺的手法で投資信託を販売していたという事実をご存じだろうか? そんな銀行の“あくどさ”を物語る事件が現在、東京高裁で係争中である。事件は以下のものだった。
一審判決文などの裁判資料によると、都内の不動産賃貸会社B社(以下、アルファベッドはイニシャルを表す)のオーナー・安岡利樹氏(仮名、現80歳)は10年4月14日夕方、B社に居たところ、みずほ銀行のH氏が訪問してきた。
安岡氏は、1983年に旧第一勧銀(現みずほ銀)と取引を初めて以来、みずほ銀とは30年近い付き合いなのである。
そんな安岡氏に対し、H氏は投資の営業トークをし始め、自社商品の「トリプルエース」と呼ばれる同社の高格付外債ファンドや「コアラの森」(豪ドル債券ファンド)といった投資信託を勧めた。(「投資信託」とは、大小さまざまな投資家の資金を集めて一つの基金とし、この基金を専門的な管理者が証券や不動産などに投資運用して利殖を図り、この結果得られた利益を出資口数に応じて投資家に配分するシステム。もちろん、損失が生じた場合はそれは投資家の負担となる(日本大百科全書より))。
安岡氏はこれまで株式や転換社債(発行会社の株式に転換することができる権利(転換権)が与えられている社債(同))の経験があるが、投資信託はやったことがなかった。だが、H氏が営業トークをするうちに、安岡氏がコアラの森に興味を持っているように、H氏には見えた。そこでH氏は資料を渡し、商品説明をした。このときH氏は、コアラの森について、「今一番売れている商品です」「過去ずっと毎月分配金が出ています」といい、資料の中の、分配額は増え続けていることを示すページを示した。その資料は「交付目論見書」と呼ばれる商品説明書で、そこにコアラの絵の図表入りで、最も目立つ太字で「毎月20日(協業日の場合は翌営業日)に決算を行い、原則として、利息収入相当分を中心に、毎月分配を目指します」とあり、その下に1月~12月までの欄と、各月の下に毎月分配していることを示すコアラの絵のマークが並んでいた。また、資料の別の表には、03年以降、毎月、1万口当たり、40~650円の分配金額の実績が表記してあった。
この資料とH氏の説明を聞いて安岡氏は、「常に収益を出し続けている」と理解して、即日、1000万円分(1140万675口)購入した。安岡氏は資産家である。
その後、H氏の説明通り、毎月、79,805円が振り込まれた。
安岡氏は、順調に収益を上げている商品であると理解して満足していた。そこで、当時、安岡氏が株主のA社にもコアラの森を勧めたい、と思い、11年5月30日、みずほ銀行雷門支店の担当行員K氏とA社社長をB社に呼んだ。
この時、K氏が見せた資料にも、コアラの森が今まで分配のなかった月が一度もなく、分配額は増え続けている、という意味のことが書いてあった。
そこで安岡氏は、「どうしてこの商品は、ずっと分配金を出し続けているの?」と質問した。するとK氏は「2~3千億円という大きな金額で運用しているので、一部で損が出ても、他方で利益が出るので分配金が支払われるのです」という意味のことを言ったという。それを聞いた安岡氏は、自身が会社を経営する中で、資金自体が持つ力というのを実感しており、例えは、1億円ではギリギリ一つの事業しかできなくても、50億円あれば余裕をもって多くの事業をバランスよく動かせるので、相乗効果やリスク分散、コスト軽減で、より多くの成果が期待できることを実感していたため、K氏の説明は理解できなかったものの、十分説得力があったという。
こうして同日、コアラの森を、安岡氏は1000万円買い増しし、A社も1000万円分購入した。
翌月から毎月、安岡氏の口座には14万7075円、A社の口座には8万3610円、振り込まれた。
そこで安岡氏は、親心から、息子にもコアラの森を買わせてやりたい、と考えた。そこで11年7月26日、K氏と、みずほ銀行本店の総合コンサルティング部のPB室(富裕層顧客を支店と共同で担当する本店の専門部署)のH氏(前出のHとは別人)にB社に来てもらい、息子同席のもと、コアラの森の説明をしてもらった。息子は安岡氏の勧めに従って、同日、4000万円分を購入した。翌月から毎月、息子の口座には34万926円振り込まれた。
全てが怖いくらいに順調に行っているように見えたが、突然、終焉した。11年11月10日、A社の確定申告のための作業で担当者が、みずほ銀行雷門支店に電話し、「コアラの森の分配金の経理について、確定申告でどう処理すればよいか、教えて欲しい」と聞いた。すると、同支店は、こういう趣旨の回答をした。
「A社に対する分配金は、全て、収益を原資とするものではなく、元本を取り崩した『特別分配金』であるから、A社の収益ではなく、税務上、収益と認識する必要はない」
その事を聞いた安岡氏は、驚き、「詐欺に遭ったような衝撃」を受けた。利益だと思って喜んでいた毎月の支払いが、実は「特別分配金」という名の、自分のつぎ込んだ金が原資で、あたかもタコが自分の足を食べているようなものだったのだから、騙されたと思って当然といえよう。
翌日、安岡氏、A社、息子は、全てのコアラの森を解約した。
その後、安岡氏とA氏、息子は、12年5月14日に、みずほ銀行を相手取り、損害金として合計4,023,077円(投資額の利息分しての額)を求め、東京地裁に提訴した。
安岡氏は、「みずほ銀行の勧誘も、分配がこれまでずっと行われていることを強調していたし、それ以上の説明はなかった。特別配当金と称して、自分の投資元本を分配する等の行為は、パンフレットや目論見書には一行も記載されていないことは言語道断であり、私の異議申立以降、目論見書やパンフレットに分かりやすく元本配当について明記したことから考えても、私たちが契約した当時は、説明不足であったことは明らか。意味のない分配実績を声高に強調して、あたかも安定した商品のように勧誘するようなやり方は、許せません。私のような投資信託の経験のない一般的な人間に、このからくりを見破るのは、大変難しいと思います」と訴えた。
一方、みずほ銀は、資料については、みずほ投信投資顧問株式会社が作成している、と主張し、被告に同社も加わった。原告の主張に対し、被告側は、最初に安岡氏と契約した際の資料のうち、電化製品の説明書のように細かい記載の並ぶ「請求目論見書」と「交付目論見書」の合冊(計80ページ以上)の中に、小さい字で、「収益分配時における課税上の取り扱いについて」という項目があり、その本文に「受益者が収益分配金を受け取る際、『普通分配金』と『特別分配金』は以下のように区別されます」「当該収益分配金落ち基準価額が、当該受益者の個別元本を下回っている場合には、その下回る部分についての額が特別分配金となり、当該収益分配金から当該特別分配金を控除した額が普通分配金となります」と一見してわかりずらい文が載っている。それをもって、十分な説明を行っている、と主張した。
その後、審理を経て、今年3月11日、一審判決が下った。判決文には、安岡氏に対してみせた資料のなかの大項目の「ファンドの特徴」「収益分配方針」「収益分配金の支払い」には特別分配金については一言も触れられていなかったことについて、「受益者の最大の関心事である毎月支払を受ける収益分配金につき、その原資が何でいかなる性質の金員の支払であるかを示す金融商品としての最も基本的な性質に関わる事実であることに対する配慮を欠いた極めて不適切な記載というべきである」「特別分配金の存在を想起することは不可能」と断じ、安岡氏とA氏に対する被告の説明義務違反を認定した。(息子については、ちょうど被告側が、この時期に、分配型の投資信託の販売が社会的批判を受けたことを受け、こっそりとパンフレットに特別分配金のことを明記したことを理由に、違法性はないとした)
そして、損害は、安岡氏とA社がコアラの森を購入した金額から、利益を指す「普通分配金」と解約時の清算金を差し引いた額を算出。その上で、みずほ銀の営業マンが渡したパンフレットには「お申し込みの際は投資信託説明書(目論見書)および目論見書保管書面の内容をよくお読みください」と記載されていることを理由に、「原告らの側にも一定の落ち度があったというべきである」とし、「損害について5割の過失相殺をするのが相当」とした。こうして、安岡氏に対して33万9673円、A社に対して35万87円の支払いを、被告らに命じた。
この判決を下したのは、東京地裁民事23部の宮坂昌利裁判長、青木裕史・上木英典裁判官だった。その後、みずほ側は控訴した。原告は控訴しなかった。
みすほ銀に判決の見解を聞いたところ「一審判決をふまえ控訴しております。事実関係や当行の考えは、引続き裁判で主張します」というのみだった。メガバンクが詐欺的手口を使っていたという事実。その一点からみても、この国の銀行の闇は、底知れず深い。(佐々木奎一)