読書の記録

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階級都市 格差が街を侵食する

2012年01月10日 | 東京論

階級都市 格差が街を侵食する

橋本健二

 

マルクス主義観が散見されることにちょっと辟易してしまうところもあるのだけれど、なんとなくみんなが皮膚感覚的に思っていたことを、統計データとフィールドワークで明確に看破した感じの本である。ただし、東京23区に限定された話なので、それ以外の地域に住む人にはいまいちぴんとこない話だとは思う。

僕自身はついに人口減少に転じた千葉県住民だけど、職場が東京で、かつては区内に住んでいたこともあるので、本書の描写はどれもなんとなくわかる。私見の限りで言うと、90年代後半あたりから都心回帰現象が始まって、それが現在のジェントリフィケーションという都内格差をつくったわけだけれど、そもそも「都心回帰」というからにはそれ以前に「郊外進出」という時代があったことになる。その時代こそバブルの地価高騰の時期、80年代だ。団塊という最大人口ボリュームを持つ世代が、都内のサラリーマンとして働き盛りだったころである。このときは土地バブルで、一介のサラリーマンはとてもじゃないが、職場の近くに家など買えなかった。職場から1時間から2時間はかかる遠方の郊外に住居を定め、常軌を逸した満員電車で毎日通勤せざるを得なかったのである。だから、地価が下がって、多少なりともローンが組めるようになると、都心回帰するのは当然の力学なのである。

一方で、都市社会学的観点からは、都市の内部には必ず格差が出現する、とは本書でも先行研究事例として指摘している。東京、ひいては江戸においては、もともと江戸時代から、城西城南のほうが、城北城東より格上という地盤ができていた。それは江戸という西高東低の地形がそうさせたのである。その江戸が首都になり、そこに人口が集結すると必然的にこういうことになり、「格差の再生産」は容易に進む。発掘された下町の江戸時代の人骨を調査すると、けっこう貧しい暮らしを強いられた例も多かったことがわかるそうだ。

本書では多様性の保全こそが健全な都市のありかたということを終章で述べているが、根本的なところで日本人は多様性というのを信じていない国民だと思う。「一億総中流」という状況を心地よいと思うこの感受性を持つDNAが多様性をみとめるわけがない。

最近の報道では、東京23区では5割近くの中学生が私立中学通学者になっているそうだ。WEBと携帯電話で、土地をしばる社会組織力はますます弱まっており、土地柄を離れ、ステイタスで横軸に階層されていく都市像はますます加速していく様相である。本書でも指摘しているけれど、雑誌の「下町特集」とかNPOなどが行う「地域活性化プロジェクト」が最近随所で見られるということは、そういう動きが出るくらい、土地を縛る力が弱体化しているということに他ならない。モクミツ地域を睥睨する高層マンション。他の住宅街を通らなくてもよそに行ける張り巡らされた地下鉄網。ひとつひとつの殻がますます硬くなりながらモザイク都市はますます一極集中していく。

 

 


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