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決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント

2018年12月08日 | ビジネス本

決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント

 

マイケル・A・ロベルト

英治出版

 

「失敗の本質」以来、「〇〇の本質」というタイトルのビジネス本が次々と出て、本書もその一環のように見えるが、原書のタイトルは「WHY GREAT LEADERS DON'T TAKE YES FOR AN ANSWER」。「なぜ優れたリーダーは正解を言わないのか?」といったところか。

 

本書はそれなりに厚みのある本だが、主旨はけっこうシンプルである。チームが正しい決断を得るには、リーダーは「正解」を言うのではなく、「正解が出るプロセス」を整えることである、というものだ。

つまり、チームが間違った意思決定をした場合、間違いの原因は、それを導き出したチームの意思決定プロセスにあるというものである。したがって、そのプロセスが改善されない限り、同じ間違いを繰り返す。アメリカのスペースシャトル「コロンビア号」の事故は、その17年前に起こった「チャレンジャー号」の事故と、表面上の現象は違う技術的事故だが、その事故を許してしまったのはNASAという組織の意思決定プロセスにあり、それは両事故とも同じものであった。

「失敗の本質」も、言うならば日本軍特有の意思決定プロセスに失敗の因果が潜んでいたことを看破した本である。

 

僕の勤めている会社で、お得意先に採用されなかったりライバル会社に競り負けてしまったプレゼンの企画書を集めて、失敗分析をしようというプロジェクトチームが発足した。僕も採用されなかったプレゼンの企画書を提出させられた。しかし、はっきりいって企画書を集めて眺めたところで失敗の真の原因はわからないだろうとひがみ半分で思ったりする。焦点をあてるべきは、なぜそんな企画書に至ってしまったのかのチームの意思決定プロセスで、そこを検証しないことには、また同じような提案をして失敗を繰り返すだろう。

で、組織の意思決定プロセスというのはかなりその会社の社風というか、組織文化に左右される。フラットな雰囲気の組織と、ピラミッド的な官僚型の組織と、体育会的な組織ではモノゴトの決まり方はだいぶ違うだろう。その文化は時によってプラスにもマイナスにも作用するはずだ。

簡単に言ってしまう、「それって間違っているんじゃないかなあ」とチームの誰かが思っても、それを言わせない雰囲気のある組織は、けっきょく間違った意思決定を出し続けるリスクがある、ということだ。こういう組織は多かれ少なかれあるだろう。

とくに日本の場合は、年功序列的なものがなんだかんだいってあるから、先輩の間違いを指摘しにくい。これだけ変化の激しい今日の世の中では、先輩のほうが後輩より正しい答えを導く確率というのは必ずしも高いものではないし、むしろ過去の成功体験が今となってはミスリードになることもしばしばであるが、それでも先輩に異を問いにくいという組織は多いだろう。上を通して許可をもらわないと行動に持っていけない、というところは多いはずだが、このとき「上」が基本的に間違っていたりすると悲劇が繰り返されることになる。(新橋のサラリーマンのぼやきみたいになってきたぞ)

 

 

本書では、意思決定「プロセス」をコントロールすることこそが有能なリーダーであるとする。そして、非建設的な対立に陥るチーム議論の原因や、それを回避するためのファシリテーション方法などがいろいろ挙げられているが、その要諦は、誰もが畏れも警戒もなく自由に意見が言えること、意見を言われた相手が機嫌を損なわせないようにすることということなのである。簡単そうで難しい。そこには面子や立場といったなかなか厄介なものがあるし、「立場」というものがかなり言動を制限することはスタンフォード監獄実験などの心理学実験でもよく指摘されている。

まずはリーダーそのものが、リーダーという「立場」なのだけれど、その「立場」が醸し出すネガティブ効果を抑えるように配慮する必要がある。配慮しながら、しかしファシリテーションを繰り広げなければならない。感情的になりすぎるところを先回りして制し、なあなあで妥協しそうになるところをもうひと踏ん張りさせる。チームがあたかも自発的にそれを意思決定したかのように、実はリーダーの差配でその結論にもっていくようなコントロールを行う。まさに離れ業である。

 

第2次世界大戦時に最高司令官となり、戦後に第34代アメリカ大統領になったアイゼンハワーはこれの名人だったそうだ。

アメリカの大統領というのは、キューバ危機のケネディにしろ、剛腕ニクソンにしろ、冷戦終結のレーガンにしろ、9.11後に最高支持率を獲ったブッシュにしろ、Yes We canで全世界を感動させたオバマにしろ、そのリーダーシップのありかたはそれぞれで賛否もあるけれどなんだかんだで人をよく惹きつけるものだ。出てくる政策や最終的な成果だけみれば疑問も多い歴代アメリカ大統領だが、それこそ「プロセス」のコントロールに関しては相当に鍛えられているように感じる。ほぼ1年にわたる大統領選を勝ち抜くことがそれのスクリーニングになっているのかもしれない。トンデモなのか実は凄いのかよくわからないトランプ大統領も、なんだかんだで国民の支持は下がっていないし、人をいかにまとめあげるかというDNAが移民と開拓の歴史の中で培われたのであろうか。このへんは日本の歴代首相にはなかなか見られないものである。

 


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