ついに「各アーティストにつき1枚ずつ」の禁を破ってしまった。しかし久しぶりにこのアルバムを聴いたらすごく良くて、どうしても書きたくなった、単純なことである。まいったな。今日はペナルティとして飲みたくないけどビールを飲みます。
8月になった。思えばこのブログも3ヶ月以上続いたわけだ。自分で言うのもアレだけど、まさかここまで続くと思わなかった。これもひとえに私の努力と仕事の暇さの賜物である。しかしブログのおかげで時間を有効活用できているし、好きな本や音楽についてあらためて考えることができるから、頭を使うけどこうして書くのはわりに楽しかったりする。もっと早く始めていてもよかったなあ、なんて。
今日は2000年代邦楽の名盤と名高い、フジファブリックの『TEENAGER』を。
以前紹介した『FAB FOX』からは2年2ヶ月ぶりのリリースとなった本作、一聴してわかるがギラギラして重かった前作とはえらいカラーが違う。カラーが違うというか、スケールが大きくなった、世界観が広がった、そんな風に言えるだろう。
それもそのはず、前作はセルフプロデュースであったが、本作はプロデューサーにかのユニコーンを手掛けたマイケル河合を招いて制作されたのである。ユニコーンと言えばVo/Gtの志村が音楽をやろうと思うきっかけとなったバンドだ。そのプロデューサーを招いたというのは、「彼ら(ユニコーン)みたいになりたい」という志村の思いが達成された部分もあるだろうし、アルバム作りに相当に気合が入っていたことがわかる。さて大好きなアルバムなので気合を入れて本ブログ初の全曲レビューをしていこう。
M1「ペダル」
遠くから聞こえる柔らかいハウリングをバックに、アコギのアルペジオが流れ出す。今までになかった始まり方だ。ギターの山内氏は、本作で空間系のエフェクターを多用している。そういったことも、アルバム全体の音の広がりに影響しているように思う。それから足立氏がクビになりドラムがサポートの城戸さんに変わって、前作ではできなかったことができるようになっている、と言ったら足立氏に失礼だろうか、ごめんね。でも最初のタムが叩かれるあたりですごくぞくぞくするのだ、さあ始まるぞ、という予感。最後の「そういえばいつか語ってくれた話の続きは このあいだ人から聞いてしまったよ」という歌詞、意味深だ。君に会う口実がなくなってしまった、ということかもしれない。残念さというか、やるせなさの漂うフレーズだ。
M2「記念写真」
リフは変だが引き続き盛り上がる曲。前作には見られなかったさわやかさだ。曲は山内氏によるもの。「僕はなんでいつもおんなじことで悩むの」という内容の歌詞は、次作の「バウムクーヘン」にも見られる。なお本作では軽く聞こえるが、向こうはかなり深刻である。一体何があったのか。
M3「B.O.I.P」
タイトルの4文字は「バトルオブイノカシラパーク」ということになっている。ペダルこいだり池の話が出たりしているから、武蔵野にある井之頭公園のスワンボートのことだろう。終わったと見せかけて最後にもう一度ぶり返して始まるのが面白い。前作の「唇のソレ」にも同じようなことをやっている。そして地味にすごいと思うのがベースの加藤氏のフレーズ。彼は美しいフレーズを優雅に弾くというより、地味で大変なベースを弾き倒す「苦行系ベーシスト」だなと思わせる一曲。「銀河」とかもそうだけど辛くないんだろうか、余計なお世話か。終わり際の演奏が凄まじい。
M4「若者のすべて」
名曲中の名曲。なので特に語る必要はない。そういえば珍しくクリシェのコード進行が使われている。とりあえず聴いた方がいいのでリンクを貼っておく。ザ・なつやすみバンドの中川理沙さんがカヴァーしているのもむちゃくちゃ良いので、こちらもリンクを貼っておく(「若者のすべて」は7:10から)。
フジファブリック (Fujifabric) - 若者のすべて(Wakamono No Subete)
Live at Arumakan - AMC vol.3 - 中川理沙
M5「Chocolate Panic」
前作の「マリアとアマゾネス」のような60年代、70年代のギターロックっぽいフレーズに甘い(?)歌詞が載っている。それにしても「蛇になって荒野を裸で歩きたくなる」というのはどういう心境なんだろう。わからなくもないけれど。蛇は歩くというより這うのだ、という突込みは野暮かな。
M6「Strawberry Shortcakes」
同上の、昔のロックを現代風にアレンジしたような曲。イントロ、Aメロの鍵盤が良い。作曲にJellyfishの鍵盤の人が参加しているのが大きいのかも。サビのマイナー調で下降していくメロディが好き。「もう一つ僕のイチゴ食べてよ」というのはどういうシチュエーションなんだろう。「唇のソレ」や「花屋の娘」のような、ちょっと倒錯的な歌。
M7「Surfer King」
妙にハイテンションの曲。私は「メメメメメリケーン」という歌詞をずっと「Ma Ma Ma Ma Make it」だと思っていた。フジに詳しい友人によると「志村がそんなお洒落なことを歌うわけがない」とのこと。この曲はドラムが大変そうである、たぶん足立氏だと無理だったろう、ごめんね。
M8「ロマネ」
ほかに比べると地味だけど、個人的にはとても好きな曲。出だしがまんまQueenだが歌詞の中で言及しているからいいのかな。「夢が覚めて虚しくなる」「嘘をついた日は 素直にもなりたくなるから」など、随所に歌詞の間に志村の本音らしきものがうかがえる。タイトルのロマネというのは某高級ワインのなんとかコンティのことだろうか?歌詞の中で赤ワインを飲むくだりが出てくるが、志村がそんなお洒落なものを飲むとも思えないけれど。
M9「パッションフルーツ」
この曲をよくシングルで出そうと思ったな…と言ったら失礼になるかな。打ち込みを初めて導入した曲。それもあって、これまでのフジファブリックの路線とはちょっと違う感じだ。全体的に歌詞がエッチな気がする。「眼鏡はどうかそのままで」という歌詞に賛同する方は多いと思っている。
M10「東京炎上」
歌詞は全体的に意味が不明である。サビは「さあダバダバ ダバチダバダバババ ダバチダババチテ」といったスキャットだし。しかし曲がいいので癖になる。特に「時計を止めてPARTY TIME」前後のキメの部分と、2回目のサビが終わった後のCメロが好き。力強いドラムの上に妖しい鍵盤の音色が響くのが格好良い。
M11「まばたき」
最後の箸休め的な曲。これはギターの山内氏によるもの。ぼんやりとした歌詞が浮遊感のある曲調と合っている。「今日も昼も夜もずっと晴れたままで冬が終わる」「まばたきを3回している間に 大人になるんですと君が言った」全体的に意味深だが、「わがままな僕らは期待を たいしたことも知らずに」というのは、何かを漠然と期待していたけれど思っていたのとは違った、ということだろうか。いまひとつわからない。でも個人的には好きな曲である。
M12「星降る夜になったら」
作曲で鍵盤の金澤ダイスケが参加している。ドラムが高速でハイハットを叩いていてえらい辛そう。目立たないが、実はベースも結構大変なフレーズを弾いている、しかし苦行系ベーシストにはあまり関係がないようだ。深めのリバーブがかかった鍵盤が好き。この曲も、彼らのなかではわりにハイテンションな方だろう。
M13「TEENAGER」
間髪入れずに始まるタイトルトラック。イントロからして遊び心満載だ、曲の途中には珍しくハンドクラップも入っているし。「朝まで聴くのさAC/DC」と珍しく自分の好きなミュージシャンのことも歌っている。ソファの上で飛び跳ねてエアギター弾いてそうな曲。インディー時時代も含めてアルバムがセンチメンタルな曲で終わらないのは、このアルバムが初めて。ギターソロがどことなくユニコーンの「スターな男」に似ている気がするのは、プロデューサーが河合氏という先入観があるからかな。
怒涛の全曲レビュー終わり、ふう疲れた。気になった曲があったらチェックしたり、改めて聴いてみたりしてくれると幸い。
個人的なこだわりとして毎年8月になったらこのアルバムを解禁しているのだけれど(カニ漁みたいだが)、本当にいい曲が多い。ドラムがサポートの城戸さんに替わったのもあってか、音楽の幅が大きく広がっている。打ち込みを入れたり他のメンバーの曲も増えたりと、あれこれ模索している感じがあるから、今までの彼らに見られなかった曲もけっこうある。「TEENAGER」というタイトルが表す通り、遊び心満載のアルバムだと思う。しかしこの後に出す「CHRONICLE」はもう少し陰鬱な感じの漂うアルバムになる。その辺の振れ幅が大きいのが、このバンドの魅力でもあるのだが。
とはいえエネルギーに満ち溢れていてヴァリエーションも豊かなこのアルバムは、じっくり聴いているとけっこう疲れるんだな。昔はそうでもなかったんだけれど、自分が歳をとってとっくにTEENAGERでなくなった証拠なのかもしれない。そう思うととても悲しい。まいったな。でも、何年経っても聴きつづけるんだろうな。