ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

「あなたを想う花」

2023-06-18 | 読書日記

ムラサキツユキサが咲いています。

「あなたを想う花」上下(ペラン著 2023年4月 早川書房刊)を読みました。

墓地の管理人をしている40過ぎの主人公ヴィオレットの
穏やかな日々が描かれる。
犬と猫の世話をし
花を育てて売り
菜園の世話をし
墓地を訪ねて来る人たちの案内をし
時には話し相手になる日々

3人の墓掘り人と
葬儀会社の3人兄弟と
セドリック神父とお茶を飲み
時には葬儀に立ち会い
それを記録する日々

クローゼットには「冬の洋服掛け」と「夏の洋服掛け」がある。
きれいな色の夏の服の上に
管理人らしいくすんだ色の冬の服を重ねている日々

「私はひとりだから
自分の時間を
自分のためだけに使える。
それはとても贅沢なことだと思う。
人が自分にしてやれる最大の贅沢のひとつだ」という日々……

夫のフィリップ・トゥーサンは
19年前にふらりと出て行ったきり帰って来ない。
それまでも夫は
朝食を食べ、バイクで出かけ、昼食を食べ、テレビゲームをし、また出かける
そんな日々を過ごしていたのだから。

おだやかな暮らしの記録を上下巻読もうと思っていると
その期待は裏切られる。
これはミステリ?

夫は生きているのか、死んでしまったのか
サマースクールに参加した娘は
6才の夏にスクールが火事になって死んでしまった
火事の原因は分からない…

読み進むにつれてトランプの札をひっくり返すように
登場人物たちの違った顔が現れる。

「10回死んでもおかしくないような」(訳者の言葉)人生を送るヴィオレット
を励まし続ける人たち
前任の墓地の老管理人サーシャ
立ち往生していた列車から救ったことを恩に感じて
夏の家を提供してくれるセリア
母親を埋葬に来て親しくなった刑事のジュリアン……

ストーリーの予測のつかなさと
人物の魅力に
ついつい一気読み

墓地の美しさの描写も作品を支えています
(日本では墓地を散歩するということはないけれど
フランスではあるらしいです)

 

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