三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

薬師寺克行『証言 民主党政権』を読む

2013-11-15 20:30:31 | 民主党(日本)論
 当ブログで、日本再建イニシアティブ著『民主党政権 失敗の検証』(中公新書/2013.9.25発行)について9回(①2013年10/9 ②10/11 ③10/13 ④10/16 ⑤10/20 ⑥10/22 ⑦10/25 ⑧10/27 ⑨10/30)にわたって取り上げた。

 この書籍の参考文献としてたびたび取り上げられたのが、薬師寺克行『証言 民主党政権』(講談社/2012年10月発行)だ。

■薬師寺克行 やくしじ・かつゆき 1955年生まれ。東洋大学社会学部教授。東京大学文学部を卒業後、朝日新聞社に入社。主に政治部で国内政治や日本外交を担当。論説委員・月刊『論座』編集長・政治部長・編集委員などを経て、2011年に退社。

 本書は、「結党以後、民主党内で中核的役割を果たしてきた政治家の方々にインタビューを行い、彼らの証言を一次資料として、できるだけ詳細に伝えることにした」(「まえがき」より)ものだ。インタビューは、2012年2~3月を中心に繰り返し行なわれた。

 第1~8章はそれぞれ、岡田克也氏・前原誠司氏・北澤俊美氏・片山善博氏・菅直人氏・福山哲郎氏・松井孝治氏・枝野幸男氏の8人へのインタビュー記事で構成され、最後の「<解題>本格的な「統治改革」の時代に突入」で筆者のまとめ・問題意識・意見などが述べられている。

Ⅰ「知恵袋」2人の発言の一部
(1)片山善博(2010~11年(菅直人第1次改造内閣)に総務大臣[非議員]/元自治省(現総務省)官僚、元鳥取県知事)

「民主党政権は基礎工事を怠ったと言えます。政治主導を掲げましたが、政治家が何でも自分でやることが政治主導だと誤解する向きがありました。・・・政治主導というのは国民の代表である政治家がいかにして官僚を自分たちの意思で動かすかということだと思うんですよ。だから大事なのは役所の体質改善やミッションの再確認・再整理だと言っていたんです。・・・ところが鳩山内閣はそれをやらないで空回りしていたきらいがありますね」(P123)

「民主党政権最初の鳩山内閣を見ると、政務三役は全員バッジをつけた国会議員。やっぱり、論功行賞的な人事があったことは否定できない。これじゃあ政治主導はできませんね。つまり政治主導・・・を実現するための基礎工事がまったくできてなかったということです」(P124)

「私は閣僚の皆さんを見ていて、野党時代の体質がまだ続いているのかなと思いましたね。野党時代は組織的に実績を上げることはできないから、個々の議員が何かを打ち上げることによってマスコミの関心を呼ぶという手法を採る。それが与党になって内閣に入っても体質的に変わっていなかったんじゃないのかなと思います。つまり組織を使って仕事をしていくということがよく理解できていなかったのではないでしょうか」(P125)

「現実に政権交代してこれだけ混乱や戸惑いがあるということは、今まで陰に隠れていた問題点が噴出しているわけですね。ただ民主党は政権を担うに当たってもう少し基礎的なことをきちんと準備しておくべきだった」(P139-140)

(2)松井孝治(参議院議員。2009-10年 内閣官房副長官、2011-12 民主党総括副幹事長・筆頭副幹事長/元通産省(現経済産業省)官僚)

「マニフェストは財源を明示したうえで政策を示すものだから単なるウィッシュリストじゃあないという人がいますね。しかし、僕に言わせればこの財源提示自体が、このくらいカットできたらいいねというウィッシュリストなんですよ」(P231)

「民主党は2007年の参院選で勝って第一党になった。さらに総選挙で勝てば、基本的に民主党は安定した政権を作ることができる。支持率の状況から見ても、政治家としての肌感覚でも、もはや有権者は自民党政治に倦(う)んでいることは明らかでした。だから総選挙で、詳細な、しかも必ずしも根拠十分ではない数値を含むマニフェストを国民に示して、選挙後の実際の政権運営でそのとおりにできなかったことを理由にマニフェスト違反だと指摘されるようなことはしたくなかったのです」(P233)


Ⅱ 著者(薬師寺氏)の「<解題>本格的な「統治改革」の時代に突入」(2012年9月)より
(1)民主党は政権獲得に向けて党活動を2つの作業に集約
①バランスのとれた財政と政策の根本的見直し

②統治システムの根本的な改革

【感想】
 ①の「バランスのとれた財政」ということに関しては、2007年&2009年マニフェストに大きな問題があったのだと思う。

 ②に関しては、やろうと努力はしたが、準備不足(と実力不足?)のために失敗した、ということだと思う。

(2)民主党のマニフェスト
①自民党の財源なきバラマキ政治・利益誘導政治へのアンチテーゼ[*「思い」としては]

②小沢一郎(*2006年4月~09年5月に党代表、政権獲得後の09年9月~10年6月に党幹事長)の選挙対策最優先の姿勢
→「政策マグナカルタ」(2006年12月)・2007年参院選マニフェスト・2009年衆院選マニフェストに反映

③「2007年のマニフェストで政権交代が単なる銭勘定の話になってしまった」「2005年までは『削るマニフェスト』だったが、以後は『配るマニフェスト』となった」(松井孝治氏)
→ほぼそのまま2009年衆院選マニフェストに引き継がれた。

【感想】
 小沢一郎氏が主導した選挙戦術のおかげで(*それだけではないが)、民主党への国民の期待は膨らみ、2009年総選挙で民主党は圧勝して政権交代が実現した。「自民党の自滅」という要因も大きかったが、もし数年来の「小沢采配」がなければ、2009年総選挙での政権交代はなかったのかもしれない。

 それでも、後知恵ではあるが、2009年総選挙は「ドーピング」による無理な政権交代だった、と思う。「とにかく選挙に勝てばいい」という姿勢には違和感がある。「勝利」後にそれをどう生かし維持していくか、こそが重要なのだと思う。そういった意味で、民主党政権は時期尚早だったのではないか、と今では思う。

 自民党政権のように「官僚主導政治」を行なうのなら、内閣・与党にそれほど実力がなくても何とかなるだろう。しかし民主党は、「自民党政治」よりはるかに高いレベルの政治を目指した。そして失敗した。私は、民主党の中軸議員らの実力が自民党のそれより劣る、とは考えていない。

(3)党内の「ねじれ」
①小沢代表の下で、党内意思決定のスタイルも変わった。
→議論の経緯や政策変更の理由などが不明確なまま、主要政策が決められていった。

②2009年衆院選で掲げたのは「小沢系政策(マニフェスト)」だったが、政権交代後に内閣の中枢を担ったのは「反小沢系議員」。
→民主党政権の「ねじれ」
→消費税増税を原因とする2012年の党分裂は、必然的なものだった。

【感想】
 2009年マニフェストで衆院選を戦ったこと自体に、問題があったのではないか。もっと大きなビジョンに基づき財政の裏付けがある政策を掲げていれば、こんな混乱に陥ることはなかったと思う。そういった「地味な」政策で政権交代が成しえなかったとしても、それはそれで仕方のないことだ。次の機会のためにもっと実力をつけ、政権運営の準備を整えればよいのだ。

(4)民主党政権の問題はどこにあったのか?
①片山善博氏の指摘[Ⅰ(1)参照]
(a)個別の問題については、行政刷新会議の事業仕分けで歳出カットなどの解決策を示したが、問題の背景にある構造の改革には手をつけていない。

(b)政権運営の基礎工事ができていなかった。

②松井孝治氏の指摘[Ⅰ(2)参照]
 統治改革の具体的な内容やその意味・目的などが、党内で十分に共有されていなかった。

③筆者(薬師寺氏)の考え(*一連のインタビューを通して)
 「「政治主導」や「政策決定の一元化」の意味を理解していない議員がそれぞれ自分の都合のいいように解釈して行動したために、各省で混乱が生まれたり、内閣と党の間に無用な摩擦や緊張がまれたりしたのには必然性があった」

【全体の感想】
(1)薬師寺氏がインタビューした8人のうち、片山善博氏と松井孝治氏の2人は、他の6人に比べて、民主党政権のあり方に対する批判トーンが高かったように思う。片山氏は民間人(慶應義塾大学教授)から菅直人第1次改造内閣の総務大臣となり、離任後は元の大学教授に戻っている。松井氏は、2013年7月の任期で参議院議員を引退する決意を固めていた(*実際引退)。つまり、この2人は民主党と一定の距離を取って発言できる立場にあった(*特に片山氏は)。

(2)片山氏と松井氏の批判の多くは的を射ている、と思った。しかし、他の6人のインタビュー記事も読めば、民主党(政権)の中軸議員らはけっこう頑張っていた、ということも分かる。
  
 要は、その場その場ではよく頑張ったのだろうが、片山氏が言うように「政権運営の基礎工事ができていなかった」ということだ。民主党には少なくとも「努力賞」だけはあげたい、と思う。

(3)民主党を離党した小沢一郎氏を含む「小沢グループ」中軸議員のインタビュー記事(*または補足記事)がないのは、残念だ。「小沢グループ」「反小沢グループ」双方の言い分を聞いたうえで、総合的に考察すれば、なお良かったと思う。

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