読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

桜庭 一樹著「私の男」

2008-05-05 | さ行
直木賞受賞作。一見優雅なんだが、どこかうらぶれた感じがする男、一見おとなしそうな若い女、
アパートの押入れから漂う罪の異臭。
自信と津波で家族を失った孤児の花の結婚式の前夜から話しは始まりアルバムを逆から捲るように養父との過去へと遡る。
優雅で惨めで色気のある淳悟は「腐野 花」の養父。震災孤児となった9歳の花を若い25歳の淳悟が引き取った。
空洞を抱え愛に飢えた親娘には、善悪の境もないのか・・・暗い北の海・紋別の水平線の彼方で
そこで少女を大人に変化させる事件が起きた。
家族の愛とはなにか、超えてはならない、人と獣の境・・・この世の裂け目に堕ちた父娘の過去に何が?
狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もないのか。読んでいるうちにどんどん読むのが苦しくなってくるが読まずにいられない。
歪んでドロドロとした描写に目を背けたいのに、なぜか目が離せない。
暗くて深い淋しさや・悲しさ・なんとない不安、ドロドロしたものがあるのに、それでもまだ癒されがたい飢えた心の内面に
共感するところがあるからきっと読む人の心を捕らえるのだろう。
暗い北の海の生活から逃げてきた父と娘の関係を過去を、著者のいつもながらの父娘の愛憎を力強い筆で描いていく。
消費されて終わる恋ではなく、人生を搦めとり、互いの心を縛り支配し、死ぬまで離れないと誓える相手がいる
・・・不幸と幸福の裏表。
黒い冬の海と親子の禁忌を、圧倒する恐さ美しさ、痛みで描ききる著者はどんな家族関係の体験者なのか興味が涌いた。
読み終わって再度第1章を再読すると最初感じた苛立ちと不安なく読めました。
インパクトの有る作品です。
2007年10月 文藝春秋刊 1550円

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