眉村卓/著 カバー/木村光佑(昭和59年初版)
※「作家別」カテゴリー内「眉村卓(角川文庫)」に追加しました。
[カバー裏のあらすじ]
父、母、そして大学生の兄と、中学三年生で受験生の信夫──
こんなごくありきたりの家族なのに、周囲で起きるのは変な出来事ばかり……。
宇宙人からのお礼の話、成績が上がるか、さもなくば死ぬかという薬の話、
窓の下が異次元だった話……いったいぜんたい世の中どうなってるの?
何か天変地異の前ぶれか、それとも夢でも見ているの?
ひょっとしたら、もう明日という日はないのかも……。
眉村卓が、ふつうの家族の周囲を舞台にショートショートで描く、
ちょっぴり危険で魅力的な全67話。
***
私の好きな木村光佑さんの装幀シリーズを読み終えて
今作はコラージュ的なデザイン
眉村卓さんの角川文庫版を揃えて読んできたが
ショートショートばかりがまだ数冊、未読のまま
ショートショートは、1話ごとに登場人物、設定が異なるから
そのたびに頭を切り替えなきゃならず、没頭出来ないけれども
今作は、登場人物が4人家族と決まっているので比較的読みやすい
眉村さんがこんなに笑える作品を書いていたことに新鮮味を感じた
受験真っ只中の次男、大学で気楽な兄、サラリーマンの父、主婦の母
周りでは、毎日のようにおかしなことが起きているのに
なぜかどこかスルーしている感じ
とくにお母さんの天然ぶりが笑える
【内容抜粋メモ】
父:荒川清治
母:和子
兄 大学2年:幹夫
弟 中学3年:信夫
雨の夜
高校の受験勉強をしているノブオ
ラジオで古い曲が流れて、そこに兄が入ってきて「ペンを貸してくれ」という
前にも何度も経験したことがある
兄:既視感てやつだよ この言葉も聞いた
これは錯覚じゃなく、自分はずっと受験勉強をしていて
ある時点になるとまた同じ場面に戻るのでは?
そんなはずはない錯覚だと思いなおす
教卓ジャック
いつもの数学教師の代わりに来たのは妙な服装の若い男性
楽しそうに聞いたこともない「フレンデリッカの定理」について話して誰もついていけない
数学教師が怒って入って来る 「殴って気絶させ、授業の真似をするとは何者だ?」
男は身体が宙に浮かび、窓から出て行く
すごい薬
目薬を買いに行くと日曜でどこも閉まっていて
ようやく店を見つけると、妙なクスリをすすめられる
「毎日飲めば、すぐ成績があがる
ただし、世の中の役に立ちたいと思う者にしか効かない
ラクがしたい、カッコつけたいと思う者は病気で死んでしまう
欲しくないかい? 安いんだよ」
断るノブオ 兄に話すと
「そういえばあの頃の同級生で急に成績が上がったり、
急に死んだヤツもいたけど、まさか関係ないよな」
電車を待てば
父は電車のホームで英会話のテープを聞いていて、やけに調子がいい
電車は通り過ぎるばかりで停まらずに騒ぎになり、駅員に聞くと
「空の電車なんて来ませんよ 電車なら定時に来ています」
時計を見ると5分しか経っていないことに驚く
集団幻覚か? 記憶したはずのテープの内容もすっかり忘れていた
変な役所
母は、今日初めて行った役所の職員がばかに親切で気味が悪かったと話す
長居していたら、きっと後で酷い目に遭ったに違いないと言い合う両親
酷使のあと
もういやだというほど眠ったノブオ 時計を見ると17Hも経っている
兄が可笑しそうに「昨日の授業覚えているか?」と聞き、何も思い出せない
兄:普段、頭を酷使して休息をとるとそうなるんだ どうも現代人は頭と体を使いすぎるからな
母:頭のストライキらしいわ みんな疲れてるのねえ
変な箱
参考書を買いに出ると、路上でモノを売るおじさんから声をかけられる
「いつも時間に追われているだろう その時間を利用してみないか?
これは特殊は貯金箱で、入れたお金が何年後かに
10倍、20倍で返ってくる異次元ボックスなんだ」
安くてつい買うノブオ 10円玉を入れてみると落ちた音がしない
やはり10倍になって戻ってくるのだろうか
不明だが、それから時々お金を入れている
おばけ
午前3時半 ノブオは顔を洗おうと部屋から出ると
兄も部屋から出てきたが、しわだらけの怪物だった
おばけはわめきつつ階段をおりて顔を洗い、手で顔を隠して部屋に戻る
ノブオも洗面所に行き、鏡を見ると、さっきの怪物になっていた
無理して夜更かしし、コーヒーばかり飲んでいるとこんな顔になるのか?!
訓練
ミキオはモデルガンの店を覗きに行き、同じ年くらいの若者の話を聞く
自宅訓練用の銃とか言っている
店員:
お客さんも訓練志望者ですか? 一般民間人の軍事訓練を知らないんですか?
希望者は、お金を出して訓練を受けられるんです
その気になったら申し込んでください
いつの間にそんなことになったのだろうとフシギがる
柔道
ノブオは別のクラスのアキラに出くわした
中学から柔道を習いに道場に通っている
今年入ったか弱くて若い英語教師が
「いい加減やめたらどうだ? 健康のためというがそうじゃないんだろう?」
その後わけを聞くと、何度か宿題を忘れてぼろくそに言われ
柔道を習ってると話したら仕返しをするつもりだと思い込んでるという
2週間後、例の先生が骨折で休んでいる
急に柔道をはじめて無茶な練習をしたらしい
工事
隣りは空き家だったが、明日から取り壊しが始まるらしい
兄:お前、あさってからテストだろ 大丈夫?
母:
あまりやかましくしないでって建設会社の人に頼んだけど
特別スピーディにやるから、なんて言ってたけど
その夜
隣りにマイクロバスが停まり、数人の男が隣家に向かい両腕を伸ばすと
緑色の光が出て、どんどん解体が進んで、バスは行ってしまった
お礼
兄とキャッチボールをしていると、変な飛行物体がおりてきた
フシギなアクセントの声が聞こえた
「ワタシハ ココヲ シバラク カリタイ」
乗り物をしばらく修理する音がして、お礼だと言って黄色く光る円盤を置いていった
母:同じくれるなら日本のお金のほうがありがたいわ(w
警官
いきなり玄関に警官が来た 腰にはサーベルをさして
家族構成などしつこく聞くので、兄が怒ると「貴様、本官を侮辱するか!」と騒ぐ
父が帰り「警察を呼びますよ」と言うと、警官は消えてしまった
父:
あれは戦前の警官だ
昔は家々を調べて、不審な人がいないかチェックした それを真似たんだろう
母:もし昔から来たなら、どうしてうちの家族名簿を持っていたのかしら
みぞれ
授業が終わるとみぞれが降り出した
傘をささずに歩いていると、うしろからキレイな女性が傘をさしてくれた
その人がいるとぽかぽかして、傘の中は妙に明るい
女性:
勉強なんてやめて、私とこのままどこまでも行けば
ずっと楽しく遊んで暮らせるわ
私はそういう世界からスカウトしに来たの
ノブオは逃げたが、やっぱり残念なのもたしかだった
仕返し
理科教師が不意打ちテストをして、むちゃくちゃ難しく
ノブオはあんな先生ひっくり返ればいいと思った瞬間、先生は前に倒れた
その後もいろいろな目に遭う教師
兄:みんな腹を立てて、仕返ししようとして無意識に念力を集中していたんだよ
ノブオは白紙に近い答案を出したことのほうが気になった
車内
父が電車に乗ると、遠足かなにかの小学生で大騒ぎ
今朝は会議のアイデアを考えなくてはならない
全然集中できず、自分も子どもなら気楽なのになと思い
気づくと自分も小学生になっている
ホームに吐き出されると大人に戻り、アイデアもいくつか浮かんでいた
赤い車
ミキオは坂の中央を歩いていると、学生がクルマで来て
「道をあけろ! 人間だけの道じゃないんだぜ!」と怒鳴った
道は本来、人間が歩くためにあったんじゃないのか?(ほんとだよ
腹が立ちまぎれにナンバーを覚えた
掲示板の脇にさっきのクルマが停まっている
大学職員らしい2人が「こんなところに駐車して・・・やるほかないなあ」
なにか気になり、影から見ていると、2人は手を下に振ると
クルマは地面に沈んでしまった
母の姿
母が出かけて、父が夕食を作っている
スプーンがどこにあるかなどわざわざ電話して母に何度も尋ねていたら
「いちいち尋ねないでよ!」と母がキッチンに立っている それから消えた
母:私はずっとPTAの会場にいたわよ
ぬいぐるみ
兄がコンパから酷く酔って帰ってきた 手にはぬいぐるみを持っていて
妙な裏声でまるで女のように喋り出し、家族は気味悪がる
父:これはショック療法しかないな と背中をどやしつけると、兄はきょとんとした
兄:店員が奇妙な手の振り方をした記憶はあるけど、催眠術でもかけて買わされたのかなあ
瞬間移動
ノブオはクラスメートの山本と下校
山本:瞬間移動って知ってるか? 家で古い本を発見して覚えたのさ
山本は顔を真っ赤にして念じ、目の前から消えた
家に電話するとまだ帰宅していない
翌日は学校を休んだ 塾の2階から落ちたそうだ
山本:
塾へ瞬間移動したら2階の窓枠にぶつかって落下したんだ
今度は海でやるぞ 夏が楽しみだなあ
かん詰め
母はラベルのない缶詰の中身が分からないという
とにかく開けてみたらと言われて開けると、黄色い煙がもうもうと出て
中からゼリー状のものがあふれ出て来た
父が水を浴びせるとゼリー状のものは固まった
母:あなたがパチンコで持って帰ったんでしょう! 弁償するよう言ってちょうだい!
テレビの調整
新しいテレビの局が出来て、設定が面倒なためノブオがやると言い出す
前はVHFならチャンネルを回し、UHFならチャンネルをUに固定してダイヤルを操作するが
今度のは見たい局のチャンネルを押す式なのだ(何の話だ???
うまく調整できず、全チャンネルをまずNHKに合わせたところで
友だちから電話がきた そこに兄が帰宅し、
「とうとうこういう時代になったんだな テレビで国民の思想を統一しようとしてる
見ろ! どのチャンネルもみなNHKじゃないか! 思想統制だ!」
スケッチ
美術教師はたくさん花の入った花瓶を真ん中に置いた
「見つめるうちにそれまで見えなかったものが見えてくる そのつもりではじめ」
花瓶を注視していると、女性の顔に見えてきた
17くらいで寂しそうな目をしている
「なんだこれは?」教師がほかの生徒の絵も見て、出て行ってしまった
同じ女性の顔を描いた生徒は5、6人いた
教頭:
その女性は、幼い頃に亡くなった美術教師のお姉さんにそっくりだそうだ
花が好きで、姉を思い出していたそうだが・・・
切符
父:明日はF県に1泊で出張だ
切符を見ると右から左に文字が書かれた昔の切符のよう
ミキオ:きっと過去の世界へ行くんだ
母:駅で改めて買い直したら?
帰宅した父は、同行するはずの鈴木くんがいつまでも来ず
会社ではこんな変な切符を渡さないと言われた
父は自分で買い直したが、鈴木さんはずっと行方不明のまま
居眠り
大学の講義で眠くて仕方ないミキオ
気づくと、高校の数学教師が話していて、教室も高校
教師:こんな問題が分からんようじゃ大学なんて夢の夢だぞ
もう一度寝たら戻るかもしれない 何度も名前を呼ばれても眠り続けた
守衛のおじさんに起こされ、何度起こして起きなかったと言われる
大学に戻れたのだからいくら笑われてもいいのだ
ポスター
ミキオは明日の朝までに同好会のポスターを描かねばならないが
テレビの映画が面白くてやめられない
描かなければと部屋に行くと、自分に似たやつが机に向かっている
「誰だ?」と声をかけると消えた 見るとポスターが出来上がっていて喜ぶ
ノブオに見せるとぽかんとして、見直すと白紙に戻っている
空き地
隣りの空き地に40くらいの女性が歩き回っている
種をまいて「あなた、花好き? 咲いたらあげましょうね」
翌朝、もう芽が出ている 帰宅するともとの空き地に戻っていた
母:
今日、隣りの地主が来て、女性とケンカになったの
草を抜いて、あなたにこれをもってきたわよ と花を渡した
その後、1ヶ月以上も花は咲いたまま 本で調べても何の花か分からない
釣りに行こう
普段あまり親しくない太田というクラスメートが家に来て「釣りに行こう」と誘われるノブオ
太田:学校なんてどうでもいいじゃないか
ノブオは断って、学校に行くと太田がいてそんなはずはないと言う
別のクラスメートの家にも来たと言われる
クラスメート:
そんな話を聞いたことがある クラスメートそっくりに化けて誘いに来るそうだ
見世物
ノブオは窓を開けると、ベランダの下はミルク色に光る壁があり
黒い人間に似た、頭がやけに大きいものが何十も動いている
彼らはこちらを指さして何か言い合っているようだ
兄:僕たち動物園に入れられているのか?
外が暗くなり、いつもの景色に戻った
父:ともかく寝よう
あれは夢だったことにしようと言ったが
本当は自分たちはどこかに入れられて、
人間でない連中の見世物になっているのではないかと不安になる
鉛筆
ミキオはシャープ(シャーペンじゃなくて?)のしんがなくなり、文房具店に入る
ケースに1本1万円の鉛筆があり驚く
店主:買わないなら触らないでおくれ!
上級生:きっと秘密兵器だよ 光線が飛び出すんだ
上級生:アニメの見すぎだよ!w
何日か後、もう一度行くと、中年紳士がそれを2本買っていった
洗濯物
母は洗濯物を取り入れようとして落としたら消えたと言う
ノブオはもう1枚シャツを下に投げてみるとやはり途中で消えた
ミキオ:この窓から下は異次元に通じているのかも 面白いぞ
その後、母はシャツのことで30分以上も文句を言い続けた(w
転落
ミキオは夜中に窓の外が明るいことに気づく
昼間のことの好奇心から覗こうとして落ちてしまう
そこは昼の砂漠だった
ノドが乾いたが動いたら元の場所が分からなくなる
「助けてくれ!」彼は叫びつづけた
救出(1)
ノブオは猛獣が吠えるような声で兄の部屋に入った
声は窓の下から聞こえる 父母も来て、「早く助けてあげて!」と叫ぶ
救出(2)
父:何か長い棒を突き出して探ってみよう
物干し竿を突き出すと途中から見えなくなるが
にわかに重くなるのを感じ、こっちへ来る気配がある
突然、妖怪の顔が現れた 口が大きく裂けたカエルなのだ
数秒経つと兄の顔になった
ミキオ:
オバケが居たが、みんなに戻った
別の世界からこっちを見ると全く違う姿に見えるのかもしれないぞ
砂漠も僕の目にそう見えただけで、別のものかも
母:落ちたのならシャツを拾ってくればよかったのに(ww
変なこと
あまりに変なことが続くのでよそへ引っ越そうと広告を見る両親
母:でもどこへ行っても同じかもしれないし 今さら移るのも面倒だし
国語の授業で竹内という転校生が別の本を読んでいて教師に怒られるが
ふっと消えたのをノブオは見る
ランチ後、「君のカバンの中にあるんだ」
ノブオのカバンから本が出てきた 「これは手品?」
竹内:
ただ転送しただけ この辺はまだ遅れてるね
僕が前いた所ではおかしなことは当たり前だったよ
世の中どんどん変わっているんだろう
どこもみなそうなるんじゃないか?
これまでの常識では説明のつかないことが普通になるんじゃないかな
日野青年
父の部下に今年入社した日野という青年が来た
日野:これは昔の字体でしょ 内容も滅茶苦茶じゃないですか!
日野は一流大学出で頭の回転も早いが常識に欠け
自分が周囲より偉いという態度が露骨なのだ
日野:僕はちゃんと地球の日本の大学生としてやって来たんだ!
荒川:
君、会社から給料をもらってるなら、そんなことは言えたギリじゃないじゃないか
日野:
ああ、給料 あれはどうすればいいのですか?
みんな、どうしているのか知らないんです
給料って・・・なぜくれるんです?
なめくじ
風呂場に大きななめくじが落ちてきたと母が叫びながら出てきた
ノブオは笑いながら、自分が入るとポチャンと長さ10cmもあるなめくじが2匹落ちてきた
ミキオが入ると、「デカいなめくじが3匹も出た!」
父が入ると「えらく大きななめくじだ 4匹も落ちてきた!」
風呂を修理してもらい、一家で銭湯に行った
兄:あのままだと、次は5匹かな
父:うちの会社に生意気な社員がいるが、家に招待して風呂に入れてやればよかった(w
告白
日野が家に来た
日野:
僕はどうやら失格らしい 会社をやめます
日本人もやめます 地球人もやめます 人間もやめなければならないのです
僕の先輩の工作員が手を打ち、勉強させてくれて大学に入り、
就職もしたのですが、うまくいかないのです
向こうから年配の男女が来て、ものも言わず日野を連れて行ってしまった
ミキオ:地球外のどこかの生命体のスパイだよ
おもての子供たち
夏休みに入ると、窓の外から子どもたちの声がしてノブオは集中出来ない
見ると、チャンバラの棒が本物の刀に似ている
別の子の胸をなでると、倒れて血がふき出ている!
「救急車だ!」とわめいて、自転車に乗った子どもが来て診察の真似事をすると
血はなくなり、子どもは起き上がった 振り回しているのはただの棒だ
あまり勉強ばかりして、そういう神経になっているのか?
分からないまま、彼はまたノートを開いた
祈り屋
ノブオが玄関に出ると変な格好の男が立っている
「和子さんは風邪を引いてますな
わしは厳しい修業をした者じゃ
病気を治してやる 祈ってさしあげよう
わしは法力で、この家の和子さんが病気だと知った」
「結構です!」母がよろよろ出てきた
ノブオ:祈ってもらったら、案外すぐ治ったんじゃない?
母:治ったとしても、いくら治療代とられるか知れたものじゃない!
続おもての子供たち
また外で近所の子どもたちが騒いでいる
「ゆう、たんねん!」と声をそろえて叫びだした
兄が叱ると逃げていったが、また戻り、今度は絶叫して歌っている
兄が外に出るとわっと逃げた
みんな犬になって逃走し、兄は追いつけない
兄:逃げ足の速い連中だ!
まもなく子どもたちがまた怒鳴りだすのが聞こえてきた
波
友人・川端が連れてきた波が打ち寄せるプールに初めてきたミキオ
いい気分で泳いでいたが、高さ3mほどもある波が襲い飲み込まれた
慌てちゃいけない ようやく水から顔を出すと
いつも行く市営プールなのだ 更衣室に行っても服はない
小銭で電話をかけると「こっちじゃ君が溺れたと大騒ぎになりかけたんだぞ!」
彼は一度帰宅して服を着てから服を取りに行った
母:
出たところが太平洋の真ん中だったらどうするの?
もうそんなおかしなプールで泳がないでね
盆踊り
友人が科目によって時間の過ぎ方が違うとノブオに話す
帰途の途中の公園で盆踊りをしている
その太鼓がどんどん速くなり、人々は手足をばたばたさせて、まるでディスコだ(ww
彼は呆れた 車道を見るとクルマは時速100キロ以上で走っている
どういうつもりだ? と考えた途端、すべてが元に戻った
今のは友人が言っていた神経の作用なのか?
母:盆踊りを1時間以上も見ていたの?
彼はため息をついた これがテストの時におきたら困るのだ
火事のあと
消防車のサイレンで目が覚めた 火事は大きいが遠い
誰かがドアを叩き、ドアを開けると座布団のようなものをひっかけている
フシギな格好をした家族だ
父親:
申し訳ありませんが、子どもたちに水を1杯やっていただけませんでしょうか
焼け出されて、ゆうべから水も飲めてないんです
父は母に言ってお茶、食べ物、古着を渡した
家族は丁寧にお礼を言って去って行った
ノブオが聞くと
父:
あの人たちは空襲で家を焼かれた人たちだ
なぜ迷い込んだか知らないが 出来るだけのことをしただけだ
台風来
父:
これは直撃かもしれないぞ 小さい頃、大きな台風がきて
家が倒れたこともあるんだ
雨戸は閉めて、窓には板を打ちつけよう
母:ガスや水道も止まるかもしれないし 非常用のものを出さなきゃ
そのうちみしみしと音がした 家が揺れている
だが、夜中過ぎには台風はそれていった
父:いつかきっと、非常用物資を使う時が来る
母:もちろんそうよ!
2人とも残念そうにいつまでも喋っているのだった
夢のけむり
荒川氏は近くの公園に寄った 人が多く座るベンチがない
1つだけあいている 一風変わった人がいるが隣りに座った
山高帽をかぶりまるで奇術師だ
直径5cmもありそうな葉巻きからもうもうと煙が出ている
「あなた、夢を見たくありませんかの?
実現しそうもない望みを見せてあげるのじゃ
この葉巻きの煙を吹きかけると夢を見られるのじゃ」
荒川氏は慌てて断った 麻薬か何かなら大変だ
「麻薬ではない」と言われて、言われた通り目を閉じたが
会社で偉くなりたいとも思わないし
家族もうまくやってるし、財産も分に過ぎた真似はしたくないし・・・
荒川氏:何も出てきませんよ
「あなたに夢がないせいじゃ 近頃は夢のない時代じゃわい 残念だ」
椅子の山から
校庭で何部か知らないが4,5人組み立てイスを並べている
その山にのぼり、ひらひらと腕を振るとびゅうと飛んで見えなくなった
体操部のキャプテンが来て「また練習をサボって遊んでいるな!」
と言うなり自分ものぼって上昇し見えなくなった
しばらく後、生徒が校庭に降り立った
あそこにのぼれば空を飛べるのか?
ノブオもあがり、両手をひらひらさせて、イスから転げ落ちた
母:
あなた、運動部員じゃないんでしょう?
もっと基礎体力をつけて、教えてもらってからやったらどう?
無礼な来訪者(1)
荒川氏のデスクのそばに変な男が立っている
「ここに日野という社員がいただろう どこにいる?
そいつの行方をつきとめるのが私の役目だ!」
ほかの社員も協力してそいつを追い出した
「こんなことをして、お前たちや地球がどうなるか考えたことがあるのか!」
何だったんだろう だが、仕事のほうが大切だ 後で考えればいい
無礼な来訪者(2)
その話を聞き
ノブオ:スパイの日野さんを追いかけているんじゃない?
昼間の男が家にも来る
ミキオ:お前、スパイを追いかける刑事か?
男はぎくりとしてクルマに入り、中から様子を窺っている
警察を呼び、パトカーが近づくとクルマは光って消えてしまった
警官に話しても納得してくれないのだ
無礼な来訪者(3)
ミキオ:時々変なことが起きるほうが変化があって面白いじゃないか
今度は階段から日野がおりてきた
日野:
非実体の状態で2、3日この家にいさせてもらっていい勉強になりました
瞬間移動します お礼を言いたくて実体化しました
一度消えてから、また出現し、お礼を忘れていたと硬貨を3枚床に置き、また消えた
隔離(1)
荒川氏の部署からどこに電話をかけても話し中で騒ぎになる
ほかの部署も同じらしい
窓際にいた社員が叫んだ「窓の外に何もない!」
ドアの外はエレベーターホールのはずが、白い空間があるばかりだ
「これから役員で会議を始めます」
どうなるものでもないと思うが、会議となるとなんだか気が休まるのが奇妙だった
隔離(2)
母はテレビを見ていると電話がかかってきた
「お宅にペンネストールはありますか?」
知らないと怒って切っても、またかかってくる
「希望工業(父の会社)でひそかにペンネストールを製造している疑いがあるのです
世間に出回ったら、これまでの人間でなくなってしまう」
母はキレて「あんたなんか死ねばいいのよ! バカ!」と言って切った
念のため夫の会社にかけても話し中で、後でもいいかとテレビに戻ると
もう番組は終わっていて、また腹が立つ(w
隔離(3)
荒川氏らは会議を開くが、何も分からない状態で意見が出るはずもなく沈黙が続く
心配したOLらが入ってきて、白い空間に灰皿を投げてみせると一瞬消滅して
また戻ってきた
隔離(4)
部下の社員から昼飯をどこで食べるか聞かれる荒川氏
会社に食堂はなく、いつもみんな地階のレストランか外に出るが
部下:それに気づいたら騒ぎが起きるのでは?
天井の蛍光灯はついているし、ガスや水道は使えるかもしれない
炊事場に行くと、若い社員が群がり、インスタントラーメンやお菓子を持っている
時々、残業になるため、引き出しに入れてるという
荒川氏は自宅には保存食のたくわえがあるが、デスクに置くなど考えもしなかった
いくらお茶を飲んでもすぐ空腹になった
隔離(5)
もう退社時刻だ 会議室から歌声が聞こえてきた
勤務時間が終わったからコーラス部が練習を始めたという
床でヨガをしている者、みんなそれぞれで
荒川氏も将棋をやり始める
なんだかとても平和で解放された感じなのだ
隔離(6)
床に横になる者、酒を飲む者 荒川氏の空腹感は限界だ 時計は夜9時
そこに別の会社から中途採用された山岸が来て
「お腹は空いてませんか? これ非常食でペンネストールというんです
代金はいりません 私のおごりです」
四角いオレンジ色のカステラのようで齧ると結構いける
食べ物はありがたいなあと涙が出そうになりながら食べ続けた
(こういう食べ物で栄養が摂れるなら、毎日でもいいなあ
隔離(7)
ペンネストールは1個食べただけで空腹感はすっかりなくなった
空腹感がおさまり、いきいきした気分になるが、
会社の仕事が急に馬鹿馬鹿しく見えてきて
出張の時に読もうと持って、結局読めずにいた本を読み始めた
小さい文字だが、なぜか若い頃のようにはっきり読める
次長:荒川さん、目がいやに大きくなってますよ
スポーツが好きな次長はやけに筋骨隆々としている
跳び上がると天井に頭をぶつけて落ちてきた
次長:こんなに上がれるはずない やっぱり何かおかしいんだ!
隔離(8)
次長はみるみるしぼんで元の姿に戻った
読んでいた本は活字が小さく読めなくなった
「飛べる! ぼくは飛行機だ!」と声がして
飛行機そっくりな物体がオフィス内を飛んでいる
数秒して社員の姿に戻った
「自分が願うものに変身出来るようですわ」
背の高い美人が立っていて、すっと低くなり部下のOLに戻った
山岸はまた「非常食どうですか? 食べたら、自分の好きな姿になれます!」
ペンネストールを食べると好きな姿になれるに違いない
だが、自分は本が読みやすくなっただけだと寂しくなった
隔離(9)
ほとんどの社員はどんちゃん騒ぎの末に床に転がって眠っている
時計は6時 朝だろう
「おかしい もう変身出来ないぞ!」
「腹が減った」
「ペンネストールをどうぞ!」と山岸
その時、突然まぶしくなり、4人の制服姿で武器を持った姿が現れ、
山岸を撃つと動かなくなった 次にペンネストールを撃ちゴミになった
「君たちは実験台にされたのだ
人間ではないある勢力が、この工場の工程を利用して
生物を不定形化する薬品を作り、隔離して時間を加速した
今はあまり摂取してないようだから、たぶん影響は出ないだろう もう安心だ」
「あなたたちは何です?」
「説明しても分からないだろう では」
4人と山岸は消えた
隔離(10)
「外が見えるぞ!」みんな外を見るといつもの景色だが夜だ
朝6時のはずが、午後8時過ぎで、自宅に電話をかけると和子が出た
「きょうは遅くなるの? 遅くなるなら連絡してくださいね」
1晩過ぎたのに家では平気だ ここでは時間が加速したということか?
とにかく帰ってゆっくり休もうと思ったが、電話がじゃんじゃん鳴りはじめた
1日連絡が取れずに、事務所のドアも開かず、どうしたのだという問い合わせが後をたたないのだ
先行テレビ
ミキオはテレビをつけると今朝起きた銀行強盗のニュースをやっている
その次は宝くじの抽選番号
母が帰宅し、「この宝くじの抽選は明日だけど、今日のもあったのね」
その後、新聞のテレビ欄を見ると、明日やるはずの映画が今流れている
母:今映っているのは、明日の番組よ!
その瞬間、画面が消え、映ったのは今日の番組だ
母:もし番号を控えていたら、その番号を探したのに!
とミキオに怒る母(w
錠
ノブオが帰宅すると、母が家のカギが開かないと玄関で首をひねっている
ノブオのカギでも開かず、裏のガラス戸を開けて、中から錠を開けた
近所の奥さん:
さっき、変な人がドアの前にいましたよ
ドアの鍵穴に口をつけてふうふう吹いて、逃げていきました
新しいカギにかえてもらうと、鍵穴がすごい高熱で溶けていたことが分かった
五里霧中(1)
ノブオは勉強していたが寒くて仕方ない 古い寒暖計を見ると零下10度になっている
こんな馬鹿な!(出た 眉村さんの定番文句v
部屋を降りていくと、下はあたたかい わけが分からないが2階に戻る気がしないのだ
五里霧中(2)
ミキオが目を覚ますと、こたつに寝ていた
友人宅でさんざん飲んで眠り込んだらしい
友人の一人が「飲み過ぎたな」と言うのが聞こえたが口を開いていない
ほかの友人の夢が映画のように見える
泊めてくれた友人の母が来て(学生の身でこんなに飲んで、どうかと思うわ)
という心の声が聞こえた どういうことだ?
ノドが乾いたので水をもらって飲むと、もう聞こえなくなった
五里霧中(3)
荒川氏は久しぶりにゴルフの競技会に参加した
自分の球が一番飛んだが、気のせいかなんとなく大きく見える
次もよく飛んだが、また大きくなり直径7cmもある
「どうも大きいですが、それに間違いないですよ お打ちになったらどうです?」
また打つと、球は直径15cmほどになった だが打つしかない
これで、うまくいっても絶対にカップに入りっこないのだ(爆
なんとなく馬鹿馬鹿しくなる
五里霧中(4)
家には和子とノブオしかいない 電話が鳴り
「もしもしノブオだよ 今アメリカにいるんだ 母さん、元気?」
母:いたずら電話はいい加減にしてください! と切ったものの不安になり
ノブオの部屋に行くと誰もいない
「ノブオ!」とわめくと机にノブオの姿が現れた
居眠りをしてアメリカから母に電話している夢を見たという
2階に行って叫ばなければどうなっていたかと思うと、ホッとする母
五里霧中(5)
父:まったく いつまでこんなことが続くんだろうなあ
今日のゴルフの話をして、球をかえてもらったら
今度は打つたび小さくなり、プレーをやめてついて歩いたという
母:私たち、知らないうちに馴れてしまったけど、これでいいのかって時々思うの
ミキオ:面白いけどなあ
ノブオ:どうしもうないんじゃない?
父:そうなんだ こっちも普通に対応するしかないのかもな
母:そうね 何が起きても驚かないように それしかないかもね
「そうなのだ」部屋いっぱいに男の声が響き渡った
「お前たちなりに、ふつうの家族としてやるがよい
それでこちらは楽しいのだ グワハハハ」と笑い声で家が震えた
その音がオートバイの音になり、夜道を遠ざかる
父:暴走族、今夜もやってるのかな
母:お茶いれるわね
雨の夜
冒頭とまったく同じw
※読者の皆様に本作を何度でも楽しんでいただきたいため
巻頭の「雨の夜」を再録しました 編集部
【解説 眉村卓氏の世界 光瀬龍 内容抜粋メモ】
眉村氏の作品群は、大きく3つに分けることができる
『司政官シリーズ』(これ毎回解説に出て来るから気になる
サラリーマンSF
ジュニアSF
『司政官シリーズ』は、どうやらライフワークになりそうだ
すでにそうなっている
「サラリーマンSF」という言い方は、私は好きではないが特徴をよくとらえている
「企業小説」というレッテルを貼った事件小説が
サラリーマンの間でよく読まれているというが
日常の精神的疲れを癒し、娯楽を提供するのは
眉村氏の描く白昼夢のような奇妙な世界だろう
「ジュニアSF」は、十数年前、学習雑誌上で、ほとんど競作の形で連載されたものだった
今では、長編小説を1年以上も連載するなどないようだが
O社の『時代』やG社の『コース』などは優れた青春小説を何本も載せていた(羨ましい
そこへ「ジュニアSF」が割り込んだ
青春小説は抜けなかったが、推理小説、スポーツ物語を抜いて2位になった
眉村氏との出会い
昭和36年 柴野拓美氏主催のSFファンには有名な『宇宙塵』という同人誌があり
その月例会が大田区戸越の星新一氏宅であった
眉村氏は大阪に住んでいたので、出席したことはなかったから
その日初めて皆に紹介された
明るい大阪弁が座に新しい活気を持ち込み
日本のSF界の揺籃時代だった
昭和36年に発表した『文明考』は、38年にT社から『燃える傾斜』と改題して刊行された
その出版記念会の司会は、今は亡き広瀬正氏だったと思う
眉村氏は、女学生のような楚々たる美人のご夫人と
産まれて間もないお嬢さんをともなっていた
俳人としての眉村氏
俳句を中学時代から始め、高校ではクラブ、後に水原秋桜子の『馬酔木』により
活躍したというから本格派だ
それをもって作品を読むと、背後に作者の眼があることを感じさせる
問題はその視線の意味だ
対象に向けられるまなざしは、対象の中に入り
その痛みを探ろうとする強い意志と慈愛に満ちている
今作についての解説は試みるまい
読者のとらえ方があるはずだ
眉村氏は、全く端倪すべからざる作家である
「端倪すべからざる」意味
はじめから終わりまでを安易に推し量るべきでない、
推測が及ばない、計り知れないといった意味で用いられる表現のこと
※「作家別」カテゴリー内「眉村卓(角川文庫)」に追加しました。
[カバー裏のあらすじ]
父、母、そして大学生の兄と、中学三年生で受験生の信夫──
こんなごくありきたりの家族なのに、周囲で起きるのは変な出来事ばかり……。
宇宙人からのお礼の話、成績が上がるか、さもなくば死ぬかという薬の話、
窓の下が異次元だった話……いったいぜんたい世の中どうなってるの?
何か天変地異の前ぶれか、それとも夢でも見ているの?
ひょっとしたら、もう明日という日はないのかも……。
眉村卓が、ふつうの家族の周囲を舞台にショートショートで描く、
ちょっぴり危険で魅力的な全67話。
***
私の好きな木村光佑さんの装幀シリーズを読み終えて
今作はコラージュ的なデザイン
眉村卓さんの角川文庫版を揃えて読んできたが
ショートショートばかりがまだ数冊、未読のまま
ショートショートは、1話ごとに登場人物、設定が異なるから
そのたびに頭を切り替えなきゃならず、没頭出来ないけれども
今作は、登場人物が4人家族と決まっているので比較的読みやすい
眉村さんがこんなに笑える作品を書いていたことに新鮮味を感じた
受験真っ只中の次男、大学で気楽な兄、サラリーマンの父、主婦の母
周りでは、毎日のようにおかしなことが起きているのに
なぜかどこかスルーしている感じ
とくにお母さんの天然ぶりが笑える
【内容抜粋メモ】
父:荒川清治
母:和子
兄 大学2年:幹夫
弟 中学3年:信夫
雨の夜
高校の受験勉強をしているノブオ
ラジオで古い曲が流れて、そこに兄が入ってきて「ペンを貸してくれ」という
前にも何度も経験したことがある
兄:既視感てやつだよ この言葉も聞いた
これは錯覚じゃなく、自分はずっと受験勉強をしていて
ある時点になるとまた同じ場面に戻るのでは?
そんなはずはない錯覚だと思いなおす
教卓ジャック
いつもの数学教師の代わりに来たのは妙な服装の若い男性
楽しそうに聞いたこともない「フレンデリッカの定理」について話して誰もついていけない
数学教師が怒って入って来る 「殴って気絶させ、授業の真似をするとは何者だ?」
男は身体が宙に浮かび、窓から出て行く
すごい薬
目薬を買いに行くと日曜でどこも閉まっていて
ようやく店を見つけると、妙なクスリをすすめられる
「毎日飲めば、すぐ成績があがる
ただし、世の中の役に立ちたいと思う者にしか効かない
ラクがしたい、カッコつけたいと思う者は病気で死んでしまう
欲しくないかい? 安いんだよ」
断るノブオ 兄に話すと
「そういえばあの頃の同級生で急に成績が上がったり、
急に死んだヤツもいたけど、まさか関係ないよな」
電車を待てば
父は電車のホームで英会話のテープを聞いていて、やけに調子がいい
電車は通り過ぎるばかりで停まらずに騒ぎになり、駅員に聞くと
「空の電車なんて来ませんよ 電車なら定時に来ています」
時計を見ると5分しか経っていないことに驚く
集団幻覚か? 記憶したはずのテープの内容もすっかり忘れていた
変な役所
母は、今日初めて行った役所の職員がばかに親切で気味が悪かったと話す
長居していたら、きっと後で酷い目に遭ったに違いないと言い合う両親
酷使のあと
もういやだというほど眠ったノブオ 時計を見ると17Hも経っている
兄が可笑しそうに「昨日の授業覚えているか?」と聞き、何も思い出せない
兄:普段、頭を酷使して休息をとるとそうなるんだ どうも現代人は頭と体を使いすぎるからな
母:頭のストライキらしいわ みんな疲れてるのねえ
変な箱
参考書を買いに出ると、路上でモノを売るおじさんから声をかけられる
「いつも時間に追われているだろう その時間を利用してみないか?
これは特殊は貯金箱で、入れたお金が何年後かに
10倍、20倍で返ってくる異次元ボックスなんだ」
安くてつい買うノブオ 10円玉を入れてみると落ちた音がしない
やはり10倍になって戻ってくるのだろうか
不明だが、それから時々お金を入れている
おばけ
午前3時半 ノブオは顔を洗おうと部屋から出ると
兄も部屋から出てきたが、しわだらけの怪物だった
おばけはわめきつつ階段をおりて顔を洗い、手で顔を隠して部屋に戻る
ノブオも洗面所に行き、鏡を見ると、さっきの怪物になっていた
無理して夜更かしし、コーヒーばかり飲んでいるとこんな顔になるのか?!
訓練
ミキオはモデルガンの店を覗きに行き、同じ年くらいの若者の話を聞く
自宅訓練用の銃とか言っている
店員:
お客さんも訓練志望者ですか? 一般民間人の軍事訓練を知らないんですか?
希望者は、お金を出して訓練を受けられるんです
その気になったら申し込んでください
いつの間にそんなことになったのだろうとフシギがる
柔道
ノブオは別のクラスのアキラに出くわした
中学から柔道を習いに道場に通っている
今年入ったか弱くて若い英語教師が
「いい加減やめたらどうだ? 健康のためというがそうじゃないんだろう?」
その後わけを聞くと、何度か宿題を忘れてぼろくそに言われ
柔道を習ってると話したら仕返しをするつもりだと思い込んでるという
2週間後、例の先生が骨折で休んでいる
急に柔道をはじめて無茶な練習をしたらしい
工事
隣りは空き家だったが、明日から取り壊しが始まるらしい
兄:お前、あさってからテストだろ 大丈夫?
母:
あまりやかましくしないでって建設会社の人に頼んだけど
特別スピーディにやるから、なんて言ってたけど
その夜
隣りにマイクロバスが停まり、数人の男が隣家に向かい両腕を伸ばすと
緑色の光が出て、どんどん解体が進んで、バスは行ってしまった
お礼
兄とキャッチボールをしていると、変な飛行物体がおりてきた
フシギなアクセントの声が聞こえた
「ワタシハ ココヲ シバラク カリタイ」
乗り物をしばらく修理する音がして、お礼だと言って黄色く光る円盤を置いていった
母:同じくれるなら日本のお金のほうがありがたいわ(w
警官
いきなり玄関に警官が来た 腰にはサーベルをさして
家族構成などしつこく聞くので、兄が怒ると「貴様、本官を侮辱するか!」と騒ぐ
父が帰り「警察を呼びますよ」と言うと、警官は消えてしまった
父:
あれは戦前の警官だ
昔は家々を調べて、不審な人がいないかチェックした それを真似たんだろう
母:もし昔から来たなら、どうしてうちの家族名簿を持っていたのかしら
みぞれ
授業が終わるとみぞれが降り出した
傘をささずに歩いていると、うしろからキレイな女性が傘をさしてくれた
その人がいるとぽかぽかして、傘の中は妙に明るい
女性:
勉強なんてやめて、私とこのままどこまでも行けば
ずっと楽しく遊んで暮らせるわ
私はそういう世界からスカウトしに来たの
ノブオは逃げたが、やっぱり残念なのもたしかだった
仕返し
理科教師が不意打ちテストをして、むちゃくちゃ難しく
ノブオはあんな先生ひっくり返ればいいと思った瞬間、先生は前に倒れた
その後もいろいろな目に遭う教師
兄:みんな腹を立てて、仕返ししようとして無意識に念力を集中していたんだよ
ノブオは白紙に近い答案を出したことのほうが気になった
車内
父が電車に乗ると、遠足かなにかの小学生で大騒ぎ
今朝は会議のアイデアを考えなくてはならない
全然集中できず、自分も子どもなら気楽なのになと思い
気づくと自分も小学生になっている
ホームに吐き出されると大人に戻り、アイデアもいくつか浮かんでいた
赤い車
ミキオは坂の中央を歩いていると、学生がクルマで来て
「道をあけろ! 人間だけの道じゃないんだぜ!」と怒鳴った
道は本来、人間が歩くためにあったんじゃないのか?(ほんとだよ
腹が立ちまぎれにナンバーを覚えた
掲示板の脇にさっきのクルマが停まっている
大学職員らしい2人が「こんなところに駐車して・・・やるほかないなあ」
なにか気になり、影から見ていると、2人は手を下に振ると
クルマは地面に沈んでしまった
母の姿
母が出かけて、父が夕食を作っている
スプーンがどこにあるかなどわざわざ電話して母に何度も尋ねていたら
「いちいち尋ねないでよ!」と母がキッチンに立っている それから消えた
母:私はずっとPTAの会場にいたわよ
ぬいぐるみ
兄がコンパから酷く酔って帰ってきた 手にはぬいぐるみを持っていて
妙な裏声でまるで女のように喋り出し、家族は気味悪がる
父:これはショック療法しかないな と背中をどやしつけると、兄はきょとんとした
兄:店員が奇妙な手の振り方をした記憶はあるけど、催眠術でもかけて買わされたのかなあ
瞬間移動
ノブオはクラスメートの山本と下校
山本:瞬間移動って知ってるか? 家で古い本を発見して覚えたのさ
山本は顔を真っ赤にして念じ、目の前から消えた
家に電話するとまだ帰宅していない
翌日は学校を休んだ 塾の2階から落ちたそうだ
山本:
塾へ瞬間移動したら2階の窓枠にぶつかって落下したんだ
今度は海でやるぞ 夏が楽しみだなあ
かん詰め
母はラベルのない缶詰の中身が分からないという
とにかく開けてみたらと言われて開けると、黄色い煙がもうもうと出て
中からゼリー状のものがあふれ出て来た
父が水を浴びせるとゼリー状のものは固まった
母:あなたがパチンコで持って帰ったんでしょう! 弁償するよう言ってちょうだい!
テレビの調整
新しいテレビの局が出来て、設定が面倒なためノブオがやると言い出す
前はVHFならチャンネルを回し、UHFならチャンネルをUに固定してダイヤルを操作するが
今度のは見たい局のチャンネルを押す式なのだ(何の話だ???
うまく調整できず、全チャンネルをまずNHKに合わせたところで
友だちから電話がきた そこに兄が帰宅し、
「とうとうこういう時代になったんだな テレビで国民の思想を統一しようとしてる
見ろ! どのチャンネルもみなNHKじゃないか! 思想統制だ!」
スケッチ
美術教師はたくさん花の入った花瓶を真ん中に置いた
「見つめるうちにそれまで見えなかったものが見えてくる そのつもりではじめ」
花瓶を注視していると、女性の顔に見えてきた
17くらいで寂しそうな目をしている
「なんだこれは?」教師がほかの生徒の絵も見て、出て行ってしまった
同じ女性の顔を描いた生徒は5、6人いた
教頭:
その女性は、幼い頃に亡くなった美術教師のお姉さんにそっくりだそうだ
花が好きで、姉を思い出していたそうだが・・・
切符
父:明日はF県に1泊で出張だ
切符を見ると右から左に文字が書かれた昔の切符のよう
ミキオ:きっと過去の世界へ行くんだ
母:駅で改めて買い直したら?
帰宅した父は、同行するはずの鈴木くんがいつまでも来ず
会社ではこんな変な切符を渡さないと言われた
父は自分で買い直したが、鈴木さんはずっと行方不明のまま
居眠り
大学の講義で眠くて仕方ないミキオ
気づくと、高校の数学教師が話していて、教室も高校
教師:こんな問題が分からんようじゃ大学なんて夢の夢だぞ
もう一度寝たら戻るかもしれない 何度も名前を呼ばれても眠り続けた
守衛のおじさんに起こされ、何度起こして起きなかったと言われる
大学に戻れたのだからいくら笑われてもいいのだ
ポスター
ミキオは明日の朝までに同好会のポスターを描かねばならないが
テレビの映画が面白くてやめられない
描かなければと部屋に行くと、自分に似たやつが机に向かっている
「誰だ?」と声をかけると消えた 見るとポスターが出来上がっていて喜ぶ
ノブオに見せるとぽかんとして、見直すと白紙に戻っている
空き地
隣りの空き地に40くらいの女性が歩き回っている
種をまいて「あなた、花好き? 咲いたらあげましょうね」
翌朝、もう芽が出ている 帰宅するともとの空き地に戻っていた
母:
今日、隣りの地主が来て、女性とケンカになったの
草を抜いて、あなたにこれをもってきたわよ と花を渡した
その後、1ヶ月以上も花は咲いたまま 本で調べても何の花か分からない
釣りに行こう
普段あまり親しくない太田というクラスメートが家に来て「釣りに行こう」と誘われるノブオ
太田:学校なんてどうでもいいじゃないか
ノブオは断って、学校に行くと太田がいてそんなはずはないと言う
別のクラスメートの家にも来たと言われる
クラスメート:
そんな話を聞いたことがある クラスメートそっくりに化けて誘いに来るそうだ
見世物
ノブオは窓を開けると、ベランダの下はミルク色に光る壁があり
黒い人間に似た、頭がやけに大きいものが何十も動いている
彼らはこちらを指さして何か言い合っているようだ
兄:僕たち動物園に入れられているのか?
外が暗くなり、いつもの景色に戻った
父:ともかく寝よう
あれは夢だったことにしようと言ったが
本当は自分たちはどこかに入れられて、
人間でない連中の見世物になっているのではないかと不安になる
鉛筆
ミキオはシャープ(シャーペンじゃなくて?)のしんがなくなり、文房具店に入る
ケースに1本1万円の鉛筆があり驚く
店主:買わないなら触らないでおくれ!
上級生:きっと秘密兵器だよ 光線が飛び出すんだ
上級生:アニメの見すぎだよ!w
何日か後、もう一度行くと、中年紳士がそれを2本買っていった
洗濯物
母は洗濯物を取り入れようとして落としたら消えたと言う
ノブオはもう1枚シャツを下に投げてみるとやはり途中で消えた
ミキオ:この窓から下は異次元に通じているのかも 面白いぞ
その後、母はシャツのことで30分以上も文句を言い続けた(w
転落
ミキオは夜中に窓の外が明るいことに気づく
昼間のことの好奇心から覗こうとして落ちてしまう
そこは昼の砂漠だった
ノドが乾いたが動いたら元の場所が分からなくなる
「助けてくれ!」彼は叫びつづけた
救出(1)
ノブオは猛獣が吠えるような声で兄の部屋に入った
声は窓の下から聞こえる 父母も来て、「早く助けてあげて!」と叫ぶ
救出(2)
父:何か長い棒を突き出して探ってみよう
物干し竿を突き出すと途中から見えなくなるが
にわかに重くなるのを感じ、こっちへ来る気配がある
突然、妖怪の顔が現れた 口が大きく裂けたカエルなのだ
数秒経つと兄の顔になった
ミキオ:
オバケが居たが、みんなに戻った
別の世界からこっちを見ると全く違う姿に見えるのかもしれないぞ
砂漠も僕の目にそう見えただけで、別のものかも
母:落ちたのならシャツを拾ってくればよかったのに(ww
変なこと
あまりに変なことが続くのでよそへ引っ越そうと広告を見る両親
母:でもどこへ行っても同じかもしれないし 今さら移るのも面倒だし
国語の授業で竹内という転校生が別の本を読んでいて教師に怒られるが
ふっと消えたのをノブオは見る
ランチ後、「君のカバンの中にあるんだ」
ノブオのカバンから本が出てきた 「これは手品?」
竹内:
ただ転送しただけ この辺はまだ遅れてるね
僕が前いた所ではおかしなことは当たり前だったよ
世の中どんどん変わっているんだろう
どこもみなそうなるんじゃないか?
これまでの常識では説明のつかないことが普通になるんじゃないかな
日野青年
父の部下に今年入社した日野という青年が来た
日野:これは昔の字体でしょ 内容も滅茶苦茶じゃないですか!
日野は一流大学出で頭の回転も早いが常識に欠け
自分が周囲より偉いという態度が露骨なのだ
日野:僕はちゃんと地球の日本の大学生としてやって来たんだ!
荒川:
君、会社から給料をもらってるなら、そんなことは言えたギリじゃないじゃないか
日野:
ああ、給料 あれはどうすればいいのですか?
みんな、どうしているのか知らないんです
給料って・・・なぜくれるんです?
なめくじ
風呂場に大きななめくじが落ちてきたと母が叫びながら出てきた
ノブオは笑いながら、自分が入るとポチャンと長さ10cmもあるなめくじが2匹落ちてきた
ミキオが入ると、「デカいなめくじが3匹も出た!」
父が入ると「えらく大きななめくじだ 4匹も落ちてきた!」
風呂を修理してもらい、一家で銭湯に行った
兄:あのままだと、次は5匹かな
父:うちの会社に生意気な社員がいるが、家に招待して風呂に入れてやればよかった(w
告白
日野が家に来た
日野:
僕はどうやら失格らしい 会社をやめます
日本人もやめます 地球人もやめます 人間もやめなければならないのです
僕の先輩の工作員が手を打ち、勉強させてくれて大学に入り、
就職もしたのですが、うまくいかないのです
向こうから年配の男女が来て、ものも言わず日野を連れて行ってしまった
ミキオ:地球外のどこかの生命体のスパイだよ
おもての子供たち
夏休みに入ると、窓の外から子どもたちの声がしてノブオは集中出来ない
見ると、チャンバラの棒が本物の刀に似ている
別の子の胸をなでると、倒れて血がふき出ている!
「救急車だ!」とわめいて、自転車に乗った子どもが来て診察の真似事をすると
血はなくなり、子どもは起き上がった 振り回しているのはただの棒だ
あまり勉強ばかりして、そういう神経になっているのか?
分からないまま、彼はまたノートを開いた
祈り屋
ノブオが玄関に出ると変な格好の男が立っている
「和子さんは風邪を引いてますな
わしは厳しい修業をした者じゃ
病気を治してやる 祈ってさしあげよう
わしは法力で、この家の和子さんが病気だと知った」
「結構です!」母がよろよろ出てきた
ノブオ:祈ってもらったら、案外すぐ治ったんじゃない?
母:治ったとしても、いくら治療代とられるか知れたものじゃない!
続おもての子供たち
また外で近所の子どもたちが騒いでいる
「ゆう、たんねん!」と声をそろえて叫びだした
兄が叱ると逃げていったが、また戻り、今度は絶叫して歌っている
兄が外に出るとわっと逃げた
みんな犬になって逃走し、兄は追いつけない
兄:逃げ足の速い連中だ!
まもなく子どもたちがまた怒鳴りだすのが聞こえてきた
波
友人・川端が連れてきた波が打ち寄せるプールに初めてきたミキオ
いい気分で泳いでいたが、高さ3mほどもある波が襲い飲み込まれた
慌てちゃいけない ようやく水から顔を出すと
いつも行く市営プールなのだ 更衣室に行っても服はない
小銭で電話をかけると「こっちじゃ君が溺れたと大騒ぎになりかけたんだぞ!」
彼は一度帰宅して服を着てから服を取りに行った
母:
出たところが太平洋の真ん中だったらどうするの?
もうそんなおかしなプールで泳がないでね
盆踊り
友人が科目によって時間の過ぎ方が違うとノブオに話す
帰途の途中の公園で盆踊りをしている
その太鼓がどんどん速くなり、人々は手足をばたばたさせて、まるでディスコだ(ww
彼は呆れた 車道を見るとクルマは時速100キロ以上で走っている
どういうつもりだ? と考えた途端、すべてが元に戻った
今のは友人が言っていた神経の作用なのか?
母:盆踊りを1時間以上も見ていたの?
彼はため息をついた これがテストの時におきたら困るのだ
火事のあと
消防車のサイレンで目が覚めた 火事は大きいが遠い
誰かがドアを叩き、ドアを開けると座布団のようなものをひっかけている
フシギな格好をした家族だ
父親:
申し訳ありませんが、子どもたちに水を1杯やっていただけませんでしょうか
焼け出されて、ゆうべから水も飲めてないんです
父は母に言ってお茶、食べ物、古着を渡した
家族は丁寧にお礼を言って去って行った
ノブオが聞くと
父:
あの人たちは空襲で家を焼かれた人たちだ
なぜ迷い込んだか知らないが 出来るだけのことをしただけだ
台風来
父:
これは直撃かもしれないぞ 小さい頃、大きな台風がきて
家が倒れたこともあるんだ
雨戸は閉めて、窓には板を打ちつけよう
母:ガスや水道も止まるかもしれないし 非常用のものを出さなきゃ
そのうちみしみしと音がした 家が揺れている
だが、夜中過ぎには台風はそれていった
父:いつかきっと、非常用物資を使う時が来る
母:もちろんそうよ!
2人とも残念そうにいつまでも喋っているのだった
夢のけむり
荒川氏は近くの公園に寄った 人が多く座るベンチがない
1つだけあいている 一風変わった人がいるが隣りに座った
山高帽をかぶりまるで奇術師だ
直径5cmもありそうな葉巻きからもうもうと煙が出ている
「あなた、夢を見たくありませんかの?
実現しそうもない望みを見せてあげるのじゃ
この葉巻きの煙を吹きかけると夢を見られるのじゃ」
荒川氏は慌てて断った 麻薬か何かなら大変だ
「麻薬ではない」と言われて、言われた通り目を閉じたが
会社で偉くなりたいとも思わないし
家族もうまくやってるし、財産も分に過ぎた真似はしたくないし・・・
荒川氏:何も出てきませんよ
「あなたに夢がないせいじゃ 近頃は夢のない時代じゃわい 残念だ」
椅子の山から
校庭で何部か知らないが4,5人組み立てイスを並べている
その山にのぼり、ひらひらと腕を振るとびゅうと飛んで見えなくなった
体操部のキャプテンが来て「また練習をサボって遊んでいるな!」
と言うなり自分ものぼって上昇し見えなくなった
しばらく後、生徒が校庭に降り立った
あそこにのぼれば空を飛べるのか?
ノブオもあがり、両手をひらひらさせて、イスから転げ落ちた
母:
あなた、運動部員じゃないんでしょう?
もっと基礎体力をつけて、教えてもらってからやったらどう?
無礼な来訪者(1)
荒川氏のデスクのそばに変な男が立っている
「ここに日野という社員がいただろう どこにいる?
そいつの行方をつきとめるのが私の役目だ!」
ほかの社員も協力してそいつを追い出した
「こんなことをして、お前たちや地球がどうなるか考えたことがあるのか!」
何だったんだろう だが、仕事のほうが大切だ 後で考えればいい
無礼な来訪者(2)
その話を聞き
ノブオ:スパイの日野さんを追いかけているんじゃない?
昼間の男が家にも来る
ミキオ:お前、スパイを追いかける刑事か?
男はぎくりとしてクルマに入り、中から様子を窺っている
警察を呼び、パトカーが近づくとクルマは光って消えてしまった
警官に話しても納得してくれないのだ
無礼な来訪者(3)
ミキオ:時々変なことが起きるほうが変化があって面白いじゃないか
今度は階段から日野がおりてきた
日野:
非実体の状態で2、3日この家にいさせてもらっていい勉強になりました
瞬間移動します お礼を言いたくて実体化しました
一度消えてから、また出現し、お礼を忘れていたと硬貨を3枚床に置き、また消えた
隔離(1)
荒川氏の部署からどこに電話をかけても話し中で騒ぎになる
ほかの部署も同じらしい
窓際にいた社員が叫んだ「窓の外に何もない!」
ドアの外はエレベーターホールのはずが、白い空間があるばかりだ
「これから役員で会議を始めます」
どうなるものでもないと思うが、会議となるとなんだか気が休まるのが奇妙だった
隔離(2)
母はテレビを見ていると電話がかかってきた
「お宅にペンネストールはありますか?」
知らないと怒って切っても、またかかってくる
「希望工業(父の会社)でひそかにペンネストールを製造している疑いがあるのです
世間に出回ったら、これまでの人間でなくなってしまう」
母はキレて「あんたなんか死ねばいいのよ! バカ!」と言って切った
念のため夫の会社にかけても話し中で、後でもいいかとテレビに戻ると
もう番組は終わっていて、また腹が立つ(w
隔離(3)
荒川氏らは会議を開くが、何も分からない状態で意見が出るはずもなく沈黙が続く
心配したOLらが入ってきて、白い空間に灰皿を投げてみせると一瞬消滅して
また戻ってきた
隔離(4)
部下の社員から昼飯をどこで食べるか聞かれる荒川氏
会社に食堂はなく、いつもみんな地階のレストランか外に出るが
部下:それに気づいたら騒ぎが起きるのでは?
天井の蛍光灯はついているし、ガスや水道は使えるかもしれない
炊事場に行くと、若い社員が群がり、インスタントラーメンやお菓子を持っている
時々、残業になるため、引き出しに入れてるという
荒川氏は自宅には保存食のたくわえがあるが、デスクに置くなど考えもしなかった
いくらお茶を飲んでもすぐ空腹になった
隔離(5)
もう退社時刻だ 会議室から歌声が聞こえてきた
勤務時間が終わったからコーラス部が練習を始めたという
床でヨガをしている者、みんなそれぞれで
荒川氏も将棋をやり始める
なんだかとても平和で解放された感じなのだ
隔離(6)
床に横になる者、酒を飲む者 荒川氏の空腹感は限界だ 時計は夜9時
そこに別の会社から中途採用された山岸が来て
「お腹は空いてませんか? これ非常食でペンネストールというんです
代金はいりません 私のおごりです」
四角いオレンジ色のカステラのようで齧ると結構いける
食べ物はありがたいなあと涙が出そうになりながら食べ続けた
(こういう食べ物で栄養が摂れるなら、毎日でもいいなあ
隔離(7)
ペンネストールは1個食べただけで空腹感はすっかりなくなった
空腹感がおさまり、いきいきした気分になるが、
会社の仕事が急に馬鹿馬鹿しく見えてきて
出張の時に読もうと持って、結局読めずにいた本を読み始めた
小さい文字だが、なぜか若い頃のようにはっきり読める
次長:荒川さん、目がいやに大きくなってますよ
スポーツが好きな次長はやけに筋骨隆々としている
跳び上がると天井に頭をぶつけて落ちてきた
次長:こんなに上がれるはずない やっぱり何かおかしいんだ!
隔離(8)
次長はみるみるしぼんで元の姿に戻った
読んでいた本は活字が小さく読めなくなった
「飛べる! ぼくは飛行機だ!」と声がして
飛行機そっくりな物体がオフィス内を飛んでいる
数秒して社員の姿に戻った
「自分が願うものに変身出来るようですわ」
背の高い美人が立っていて、すっと低くなり部下のOLに戻った
山岸はまた「非常食どうですか? 食べたら、自分の好きな姿になれます!」
ペンネストールを食べると好きな姿になれるに違いない
だが、自分は本が読みやすくなっただけだと寂しくなった
隔離(9)
ほとんどの社員はどんちゃん騒ぎの末に床に転がって眠っている
時計は6時 朝だろう
「おかしい もう変身出来ないぞ!」
「腹が減った」
「ペンネストールをどうぞ!」と山岸
その時、突然まぶしくなり、4人の制服姿で武器を持った姿が現れ、
山岸を撃つと動かなくなった 次にペンネストールを撃ちゴミになった
「君たちは実験台にされたのだ
人間ではないある勢力が、この工場の工程を利用して
生物を不定形化する薬品を作り、隔離して時間を加速した
今はあまり摂取してないようだから、たぶん影響は出ないだろう もう安心だ」
「あなたたちは何です?」
「説明しても分からないだろう では」
4人と山岸は消えた
隔離(10)
「外が見えるぞ!」みんな外を見るといつもの景色だが夜だ
朝6時のはずが、午後8時過ぎで、自宅に電話をかけると和子が出た
「きょうは遅くなるの? 遅くなるなら連絡してくださいね」
1晩過ぎたのに家では平気だ ここでは時間が加速したということか?
とにかく帰ってゆっくり休もうと思ったが、電話がじゃんじゃん鳴りはじめた
1日連絡が取れずに、事務所のドアも開かず、どうしたのだという問い合わせが後をたたないのだ
先行テレビ
ミキオはテレビをつけると今朝起きた銀行強盗のニュースをやっている
その次は宝くじの抽選番号
母が帰宅し、「この宝くじの抽選は明日だけど、今日のもあったのね」
その後、新聞のテレビ欄を見ると、明日やるはずの映画が今流れている
母:今映っているのは、明日の番組よ!
その瞬間、画面が消え、映ったのは今日の番組だ
母:もし番号を控えていたら、その番号を探したのに!
とミキオに怒る母(w
錠
ノブオが帰宅すると、母が家のカギが開かないと玄関で首をひねっている
ノブオのカギでも開かず、裏のガラス戸を開けて、中から錠を開けた
近所の奥さん:
さっき、変な人がドアの前にいましたよ
ドアの鍵穴に口をつけてふうふう吹いて、逃げていきました
新しいカギにかえてもらうと、鍵穴がすごい高熱で溶けていたことが分かった
五里霧中(1)
ノブオは勉強していたが寒くて仕方ない 古い寒暖計を見ると零下10度になっている
こんな馬鹿な!(出た 眉村さんの定番文句v
部屋を降りていくと、下はあたたかい わけが分からないが2階に戻る気がしないのだ
五里霧中(2)
ミキオが目を覚ますと、こたつに寝ていた
友人宅でさんざん飲んで眠り込んだらしい
友人の一人が「飲み過ぎたな」と言うのが聞こえたが口を開いていない
ほかの友人の夢が映画のように見える
泊めてくれた友人の母が来て(学生の身でこんなに飲んで、どうかと思うわ)
という心の声が聞こえた どういうことだ?
ノドが乾いたので水をもらって飲むと、もう聞こえなくなった
五里霧中(3)
荒川氏は久しぶりにゴルフの競技会に参加した
自分の球が一番飛んだが、気のせいかなんとなく大きく見える
次もよく飛んだが、また大きくなり直径7cmもある
「どうも大きいですが、それに間違いないですよ お打ちになったらどうです?」
また打つと、球は直径15cmほどになった だが打つしかない
これで、うまくいっても絶対にカップに入りっこないのだ(爆
なんとなく馬鹿馬鹿しくなる
五里霧中(4)
家には和子とノブオしかいない 電話が鳴り
「もしもしノブオだよ 今アメリカにいるんだ 母さん、元気?」
母:いたずら電話はいい加減にしてください! と切ったものの不安になり
ノブオの部屋に行くと誰もいない
「ノブオ!」とわめくと机にノブオの姿が現れた
居眠りをしてアメリカから母に電話している夢を見たという
2階に行って叫ばなければどうなっていたかと思うと、ホッとする母
五里霧中(5)
父:まったく いつまでこんなことが続くんだろうなあ
今日のゴルフの話をして、球をかえてもらったら
今度は打つたび小さくなり、プレーをやめてついて歩いたという
母:私たち、知らないうちに馴れてしまったけど、これでいいのかって時々思うの
ミキオ:面白いけどなあ
ノブオ:どうしもうないんじゃない?
父:そうなんだ こっちも普通に対応するしかないのかもな
母:そうね 何が起きても驚かないように それしかないかもね
「そうなのだ」部屋いっぱいに男の声が響き渡った
「お前たちなりに、ふつうの家族としてやるがよい
それでこちらは楽しいのだ グワハハハ」と笑い声で家が震えた
その音がオートバイの音になり、夜道を遠ざかる
父:暴走族、今夜もやってるのかな
母:お茶いれるわね
雨の夜
冒頭とまったく同じw
※読者の皆様に本作を何度でも楽しんでいただきたいため
巻頭の「雨の夜」を再録しました 編集部
【解説 眉村卓氏の世界 光瀬龍 内容抜粋メモ】
眉村氏の作品群は、大きく3つに分けることができる
『司政官シリーズ』(これ毎回解説に出て来るから気になる
サラリーマンSF
ジュニアSF
『司政官シリーズ』は、どうやらライフワークになりそうだ
すでにそうなっている
「サラリーマンSF」という言い方は、私は好きではないが特徴をよくとらえている
「企業小説」というレッテルを貼った事件小説が
サラリーマンの間でよく読まれているというが
日常の精神的疲れを癒し、娯楽を提供するのは
眉村氏の描く白昼夢のような奇妙な世界だろう
「ジュニアSF」は、十数年前、学習雑誌上で、ほとんど競作の形で連載されたものだった
今では、長編小説を1年以上も連載するなどないようだが
O社の『時代』やG社の『コース』などは優れた青春小説を何本も載せていた(羨ましい
そこへ「ジュニアSF」が割り込んだ
青春小説は抜けなかったが、推理小説、スポーツ物語を抜いて2位になった
眉村氏との出会い
昭和36年 柴野拓美氏主催のSFファンには有名な『宇宙塵』という同人誌があり
その月例会が大田区戸越の星新一氏宅であった
眉村氏は大阪に住んでいたので、出席したことはなかったから
その日初めて皆に紹介された
明るい大阪弁が座に新しい活気を持ち込み
日本のSF界の揺籃時代だった
昭和36年に発表した『文明考』は、38年にT社から『燃える傾斜』と改題して刊行された
その出版記念会の司会は、今は亡き広瀬正氏だったと思う
眉村氏は、女学生のような楚々たる美人のご夫人と
産まれて間もないお嬢さんをともなっていた
俳人としての眉村氏
俳句を中学時代から始め、高校ではクラブ、後に水原秋桜子の『馬酔木』により
活躍したというから本格派だ
それをもって作品を読むと、背後に作者の眼があることを感じさせる
問題はその視線の意味だ
対象に向けられるまなざしは、対象の中に入り
その痛みを探ろうとする強い意志と慈愛に満ちている
今作についての解説は試みるまい
読者のとらえ方があるはずだ
眉村氏は、全く端倪すべからざる作家である
「端倪すべからざる」意味
はじめから終わりまでを安易に推し量るべきでない、
推測が及ばない、計り知れないといった意味で用いられる表現のこと