★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

日本は駄目だって、ウラヂオで聞いて来たのだから

2013-11-09 23:53:04 | 文学


「伴奏させるのは歌だけなの」Begleitenということばを使ったのである。伴奏ともなれば同行ともなる。「銀座であなたにお目にかかったといったら、是非お目にかかりたいというの」
「まっぴらだ」
「大丈夫よ。まだお金はたくさんあるのだから」
「たくさんあったって、使えばなくなるだろう。これからどうするのだ」
「アメリカへ行くの。日本は駄目だって、ウラヂオで聞いて来たのだから、あてにはしなくってよ」
「それがいい。ロシアの次はアメリカがよかろう。日本はまだそんなに進んでいないからなあ。日本はまだ普請中だ」
「あら。そんなことをおっしゃると、日本の紳士がこういったと、アメリカで話してよ。日本の官吏がといいましょうか。あなた官吏でしょう」
「うむ。官吏だ」
「お行儀がよくって」
「おそろしくいい。本当のフィリステルになりすましている。きょうの晩飯だけが破格なのだ」

――森鷗外「普請中」


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