★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

平気よ……内緒ごっこなんだから……

2019-04-22 23:48:27 | 文学


「大殿腹の君をうつくしげなりと、世人もて騒ぐは、なほ時世によれば、人の見なすなりけり。かくこそは、すぐれたる人の 山口はしるかりけれ」
と、うち笑みたる顔の何心なきが、愛敬づき、匂ひたるを、 いみじうらうたしと思す。


夕霧は左大臣の孫だからというてみんなは褒めるだけ、それにくらべて明石の君の娘のなんと将来有望な……こりゃすごいことになるにきまってる、と決めつけている源氏であるが、夕霧もこの娘も自分の子どもではないか、ひどい贔屓である。にっこり笑った顔がすごく可愛くどうしようもない。こうなったら、この源氏という男、完全にブレーキの代わりにアクセルを踏んでしまう男である。

このあと、明石の君の娘を紫の上の養子にしてしまうのであった……。

拉致してきた娘に更に拉致してきた娘を……。

だいたい、源氏物語の娘っこたちはどうも源氏とかその他の男に補助金のあれを握られているせいなのかしらんが頭が悪くなっている気がしてならない。安部公房の作品のなかのヨーヨーの娘なんか、

「平気よ……内緒ごっこなんだから……」

という一言によって、仮面を被って周囲をだましているつもりの主人公の男を、一撃で倒す頭脳を持っている。源氏に対してなんか、この「平気よ……内緒ごっこなんだから……」でだいたいの決着はつくのではないだろうか。

しかし、安部公房も頭がいいので、この娘や妻の「見破ったり」の態度を逆手にとり、男が野獣になっても内緒ごっこを続けなければならない、我が社会の女性たちの姿を暴き出すのである。源氏の狼藉余りある。