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★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

2015-12-11 23:10:02 | 文学


 しかし、私はそれを誰にも言えぬ。考えてみると、それは婦女子の為すべき奉公で、別段誇るべきほどのことでも無かった。私はやっぱり阿呆みたいに、時流にうとい様子の、謂わば「遊戯文学」を書いている。私は、「ぶん」を知っている。私は、矮小の市民である。時流に対して、なんの号令も、できないのである。さすがにそれが、ときどき侘びしくふらと家を出て、石を蹴り蹴り路を歩いて、私は、やはり病気なのであろうか。

――太宰治「鴎」