石井信平の 『オラが春』

古都鎌倉でコトにつけて記す酒・女・ブンガクのあれこれ。
「28歳、年の差結婚」が生み出す悲喜劇を軽いノリで語る。

「おとなしい聖歌隊」

2010-09-27 09:08:20 | AERA メディアウォッチ
 まるで、教会のミサにおける司祭と聖歌隊のように、政府の発表を、メデイアはただ、オウム返している。

 六月十日「GDP(国内総生産)一・九%上昇」と政府が発表すると、各新聞が一斉に第一面トップにそれを掲げる。五月の完全失業率四・六%で「前月より改善された」と総務庁が発表すると、やっぱり「前月より改善!」という見出しが一面トップに踊る。

 誰がどこで、どれだけの精度ではじいているのか、トンと分からないこの種の数字。政権維持に役立つものなら、政府サイドはどんな数字でも動員するだろう。それを黙って、まるで官報のように報じるメデイア。「あんた達、いつまで役所の広報におさまってるんだ?」と言いたくなる。

 なにしろ一年前は金融監督庁は長銀を「健全な銀行」と認定して公的資金六千億円を投じた。ゴミ箱に放り込んだも同然のそのカネは、もう還ってこない。その判断の誤りを、誰も責任をとっていない。いや誤りを公式に認めていない。そういう政府だ、と肝に銘じて数字に対処するのがメデイアの仕事だろう。

 去年、アメリカの雑誌「ビジネスウイーク」は「日本の本当の危機」という記事を掲げ、日本の公的負債総額はGDPの二五〇%、千三百兆円になると報じた。あれ?公表されている国と地方の借金は五百兆円じゃなかったっけ? 同誌の分析は、空港や鉄道など公的資金が投入されている公団・第三セクターなどの、全負債総額を試算し、その総額が千三百兆円だという。

 外に向かっていつも言う「国民の個人金融資産千二百兆円があるから大丈夫」は、これで吹っ飛ぶことになる。人類発生以来、このような負債を背負った国はない。事実上の破産国家ではないか?

 この数字は大雑把だと批判する前に、日本のメデイアは、国・地方・公共団体を含めた連結決算の実態を官が公表していない事実をこそ突き、自ら乗り込んで調査し、発表すべし。GDP上昇にバンザイしてる場合ではない。

 かつてメデイアがやったのは「戦局報道」という提灯持ちだった。「大本営発表、勇猛ナル我ガ機動部隊ハ台湾沖海上ニテ、敵空母三、戦艦七隻を劇沈セリ」。

 こうした数字を掲げた大新聞が、その後「訂正とお詫び」を出しましたっけ?


1999年7月