背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

「奥様ご用心」

2005年11月09日 15時46分46秒 | フランス映画


 先日フランス映画の「奥様ご用心」(1957年制作)をビデオで見た。世紀の美男俳優と言われ35歳の若さで亡くなったジェラール・フィリップの代表作の一つとして有名な映画だ。十数年前テレビで放映されたとき私はこれをビデオで録画しておいたのだが、どうも見た記憶がないように思えてならなかった。実はずっと「奥様ご用心」のことが気にかかっていた。この映画には私が好きな女優ダニー・カレルとダニエル・ダリューが二人とも出演しているのを知っていたからだ。
 「奥様ご用心」を見て、これは以前まったく見ていなかったことに気づいた。そして、大変面白く感じた。と同時に、驚いたことがいくつかあった。まず、監督がジュリアン・デュヴィヴィエだったこと。彼の映画を私は結構見ているのだが、戦前の作品が多かったように思う。デュヴィヴィエという人はなにしろ多産な監督で、戦後もたくさん映画を作っているが、「奥様ご用心」が彼の作品であるとは、知らなかった。さらに、この映画がまるでデュヴィヴィエらしくないことにも驚いた。例のじっとりと湿った暗さがなく、自由奔放なタッチで、ちょっとした喜劇なのだ。しかも、最後はハッピー・エンドだった。デュヴィヴィエの映画にしては珍しいと思った。彼の映画は「望郷」「旅路の果て」などのように最後は主人公が死ぬ作品が多かったからだ。
 それと「奥様ご用心」には女優アヌーク・エーメも出演していた。これも知らなかった。この映画では端役で、魅力も発揮していなかったが、女優というのはずいぶん変わる(化ける)ものだといつものように思った。その一年後、名作「モンパルナスの灯」(1958年)で、彼女はまたジェラール・フィリップと共演し、画家モディリアーニの献身的な若妻の役を見事に熱演したからである。
 「奥様ご用心」は、原題をポ・ブイユ(Pot-bouille)といい、「ごった煮」あるいは「寄せ鍋」の意味で、洒落た邦題に対し、「ごった煮」とはなんとも卑俗で変わった題名である。この映画の原作者エミール・ゾラの小説の題名をそのままとったのだろうか。原作を読んでいないので分からない。ともかくこの映画は19世紀後半のパリを舞台に老若男女のブルジョワたちが繰り広げる不道徳な恋愛喜劇なのだ。つまり、その入り乱れた様々な人間模様が「ごった煮」というわけだ。フランス独特のコキュ話(人妻を寝取る間男の話)を盛り込み、落語の艶笑噺のフランス版といった感じだった。



 色男を演じるのが美男ジェラール・フィリップ。さすがは舞台俳優だ。彼は暗い影のある悲劇的な主人公もうまいが、こうした軽佻浮薄な色男も得意である。この男、パリの社交界に潜り込んで、可愛い娘、美しい人妻を次から次へとたらしこむ。最初にフィリップにまいってしまうのが、結婚適齢期のダニー・カレルである。カレルは例の弾むようなピチピチした可愛らしさを振りまき、なかなかの好演だった。結局フリップに振られ、別の男と結婚するのだが、フィリップのことが忘れられず、彼と浮気してしまう。夫の留守に彼と同衾した翌朝のしどけない寝姿が良かった。
 そして、ダニエル・ダリューが、婦人服店の女主人役を演じている。ダリュー、40歳のときの出演作で、やや厚化粧だが、気品ある中年女の魅力を出していた。亭主が病気で、一人で店を切り盛りしているが、どことなく熟女の寂しさを漂わせている。色男のジェラール・フィリップが就職して、彼女に迫ってくる。が、ガードを固め、気丈に振舞っているのだが、次第に彼が好きになっていく。時折垣間見せる生娘のような初々しさは、若い頃のダリューを思い起こさせ、実に素晴らしかった。

<カレル、フィリップ、ダリュー>


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