背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

東陽一の「化身」

2005年11月01日 03時34分29秒 | 日本映画
 東陽一は、女優の使い方がうまい映画監督である。女優を型にはめず、さりげなく演技させて、しかも女優を美しく撮れる監督だと思う。これまで多くの新進女優が彼の映画に出演して、その後人気女優の道を歩んでいった。「もう頬杖はつかない」の桃井かおり、「レイプ」の田中裕子、「湾岸道路」の樋口可南子、みなそうである。そして、黒木瞳もその一人だった。
 私は東陽一監督の「化身」(1986年)という映画が好きだ。主演は藤竜也と黒木瞳。黒木瞳は宝塚を辞めたばかりの頃だった。助演に作詞家の阿木耀子と三田佳子が出ていた。原作は渡辺淳一の同名小説で、正直言って、小説より映画の方が優れていたと思う。小説は上下二巻あってやたらと長く、途中で飽きて投げ出した覚えがある。私はどうも渡辺淳一という作家が体質的に合わない感じを持っている。彼の映画論も好きでない。
 「化身」という映画を私は三度見ている。理由ははっきりしている。藤竜也が好きなこと、この映画の黒木瞳が素晴らしいこと、そして映画の出来が良いこと。さらに付け加えれば、最後に流れる高橋真梨子の主題歌「黄昏人」が好きなことであろうか。
 この映画は、題名通り、女性が美しく化けていくストーリーである。主人公は秋葉という中年作家(藤竜也)で、妻(三田佳子)とは離婚し、今は母親と二人で暮らしている。彼には古くからの愛人(阿木耀子)がいるのだが、やや腐れ縁に近く、関係はだれている。そんなある日、とあるバーで霧子という名の田舎出の若い女の子(黒木瞳)に出会う。彼女はバイトで働いているのだが、化粧気のない初々しさに秋葉は一目惚れしてしまう。まあ、よくある話で、中年男が若い女に入れ込んでいくと、どうなるか?まず、女の欲しがる服やなんかを買い与える。女は着飾って美しくなる。それを見て男は喜び、女は嬉しさを肉体で表し、男に尽くす。こうなるとずぶずぶとはまっていく。挙句の果ては女をマンションに住まわせ、アクセサリーの店まで持たしてやる。昔の愛人は嫉妬する。若い女は増長して自己主張が強くなる。離婚した妻は冷たい目で見る……。
 この映画、藤竜也と黒木瞳のツーショットが実にいいのだ。女がめきめき美しくなっていくのに対し、男はだんだん駄目になっていく。次第に逆転していく関係。「化身」は、男と女のこうした変化を映像の流れに沿って巧みに描いた秀作だったと思う。