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(90年代のパチンコ・パチスロ情報がメイン)

女流パチプロの優雅な日々(岡田安里・著)

2016-07-13 23:23:46 | 懐かしのパチンコ本・攻略誌・漫画



「女流パチプロの優雅な日々」
著者 :岡田安里
発行元:文園社
発行年:1987年(昭和62年)


女流作家、女流パチプロの岡田安里(おかだあんり)さんが、
自身のプロ生活の日常を赤裸々に綴った、自叙伝的エッセイ。
昭和のパチ屋の空気を疑似体験できる、貴重な資料でもある。

私は「1990年」デビュー組なので、昭和期のパチ屋を深くは知らないが、
(小学生時分、少年野球の監督と一緒に入った地元ホールで、床を這って
小銭や玉を拾った記憶はあるが)90年~92年辺りは、いかにも昭和然として
ノンビリ・マッタリした空気が、馴染みのホールにも流れていた。本書に描かれる
数々のエピソードに触れて、「自分の通った店も、やっぱ同じだったなぁ」
という感じで共感を覚える。

4000発終了のハネモノシマで、3900個出して流したが、たった100発足りない為、
あの「終了アナウンス」が聴けないのは淋しい…とか、カウンターで玉数を数えたら
特殊景品の玉数に6発だけ足りなかったが、店員に「あと6個で景品をあげるから、
そこらで玉を拾ってきなよ」と言われる話などは、まさに「古き良き」パチ屋の風情。
そんな胸奥にしまい込んだ「ノスタルジー」を、思う存分に思い出せる秀作である。


著者の岡田さんについては、以前に当ブログで大きく取り上げたので、
詳細は、過去記事を読み返して頂ければと思う。代表作は、本書の他、
パチ屋が舞台の書き下ろし小説「ミセス・パチンカー」(’92年)など。
近年では、電子書籍「遊び人の哲学」(三恵書房)なども出ている。
三恵書房は、故・田山幸憲プロの「パチプロ告白記」を出した出版社だ。
そういえば、田山さんは「パチンコ必勝ガイド」(白夜書房)をはじめ
様々な雑誌で、石橋達也、安田一彦、ベンツ小林といった有名プロ達と
対談を行っているが、岡田女史との対談は、今まで一度も見た事が無い。
田山・岡田の両者が顔を合わせた、過去の雑誌企画などをご存知の方は、
ぜひご一報下さい。


現在、「女性パチンコライター」と呼ばれる人間は多くいるが、
岡田さんは、昭和の昔から新聞や雑誌、書籍で、パチンコ記事の
執筆活動を続ける、まさに女性ライターの先駆け的な存在である。
ただ、岡田さんの近況を報せる媒体が、非常に少ないのが残念だ。


岡田さんは元々OL(社長秘書)で、後に専業主婦となり、その主婦時代に
偶然体験したパチンコが、その後の彼女の運命を、大きく変える事となった。
以来、チューリップ台やハネモノなど、通算1万台以上(1996年時点)も
打ち止めにしてきたという、ハンパなく年季の入ったプロなのである。


90年代のパチンコブームには、「確かな腕を持つ、ベテラン女流プロ」として
TVメディアにもたびたび登場。パチプロのイメージから程遠い柔らかな口調や、
周囲の雑音など意に介さない「マイペース」ぶりが、視聴者の記憶に刺さった。


1996年放映の「TVチャンピオン・パチプロ王決定戦II」では、対戦機種の
「CRFビッグパワフルFX」(SANKYO)で、相手だった末井昭氏に甘釘台を
早々に取られたが、別の台で悠然と一服後、のんびり打ち始めた岡田さんが、
何と「最初の1回転目」で大当りするという、ミラクルなヒキで皆を驚かせた。
(「早当て対決」の為、そこで勝負終了。末井さんは、力を出せずガックリ…)

(C)テレビ東京
(1996年、「パチプロ王決定戦II」出場時の岡田さん)



かつて、文豪の故・遠藤周作から、パチンコの「弟子入り」志願された事もある岡田さん。
彼女が学生時分に、遠藤氏の「教え子」だったことが縁となり、後に二人が再会した際、
遠藤氏の方から弟子入りを申し出たという。その遠藤氏がパチンコを好んだのは、別に
勝って嬉しいとかいう理由でなく、「パチンコには哀感(悲哀)があるから」とのこと。
僅かに残った上皿の玉が、一つまた一つ消えていく様子が、何ともわびしくて好きだ…と
遠藤氏は語っている。詳細は、彼の著書「変るものと変らぬもの」(文春文庫)収録の
「パチンコプロの弟子に」の項や、単行本「パチンコの為の夜想曲集」(大和書房)に
収録された短編エッセイ、「競馬とパチンコ」(「王様手帖」H1.4にも掲載)を参照。


主婦時代、旦那さんに連れて行かれた地元のパチ屋で、運よく勝利を収めた岡田さん。
それを契機に、パチの魅力に取りつかれる。大抵は「負け組」に落ち着くこの世界で、
自身の才覚や生来の人当りの良さで、先輩格の常連プロからあれこれ知識を吸収して、
メキメキ腕を上げると、いっぱしのプロとして、周囲からも一目置かれる存在となる。
そんな岡田さんの、パチ屋での成長ぶり・充実ぶりを、生き生きと描写したのが本作。


岡田さんは、「主婦」「作家」を兼ねたプロ生活の為、閉店まで入り浸る事もなく、
買い物や夕飯の支度までに帰る事が大半だった。にも拘らず、コンスタントに勝利を
モノにできたのは、彼女の温厚な人柄もさることながら、常日頃の信条とした勝利の要諦、
即ち「釘、バネ(ハンドル)、技」にとことん拘った結果だろう。
故・田山プロとの対比でいえば、田山さんは各台の「デキ(の良さ、悪さ)」を重んじたが、
同じことを、岡田さんは本書において「素性(すじょう)の良い台」という言葉で表現した。


先輩プロやクセのある常連など、ホール内の人間模様が、赤裸々に綴られているのも面白い。
田山さんの「パチプロ告白記」や「パチプロ日記」をご存知なら、「女パチプロ告白記」
といった感じで、最後まで読み進める事が出来るハズ。

岡田さんには親切だが、逆に世話されるのを嫌った、昔気質のパチプロ「矢野ちゃん」。
素人時代の彼女に甘釘台を世話したり、釘読みを教えたりした、ベテランプロ「田部さん」。
皆に良い顔をして人当りの良い「八方美人のお兄ちゃん」など、個性的なジグマが登場。

一方、こうしたプロ同士の「仁義」などお構いなし。常に自己中心的かつ理不尽な立ち回りで
他の常連と軋轢を生んだ、「けつ狙い」「ダニおばさん」「チビおばさん」といった不埒な輩も。
しかし、そんな「ヒール役」のえげつないエピソードでも、読むと大いに臨場感があって、
真面目で行儀良いプロの話より、却ってワクワクするから面白い。



さて、本書では、岡田さんが「パチンコデビュー」を果たした昭和50年前後から、
その後の約10年(昭和60年頃)にわたる、ホームグラウンドでの経験が描かれている。 

登場する機種も、初めは電動ハンドルのチューリップ台(平台)のみ。当時、手打ちも
残っていたが、手打ちが苦手だった岡田さんは、最初から電動ハンドルを選んだという。
(電動ハンドルのポイントは、ベストストロークを決める、ハンドルの「合わせ」)
暫くはチューリップ台で稼いでいたものの、やがてハネモノや電役、権利モノなど、
「ヤク物」中心の機種に取って代わられた。そのままの文言で本書を引用すれば、
「タイガー、ウルフ、フラッシュ、ユーフォー、サンダーバードなどのヤク物が、
幅をきかせるようになった」とのこと。

メーカー名がなく断言はできないが、恐らく「タイガー」は平和の元祖ヒコーキ台
「ゼロタイガー」や兄弟機。「ウルフ」は西陣「ウルフ」、「フラッシュ」は西陣の電役、
「ユーフォー」は京楽「UFO1号」「UFO2号」、そして最後の「サンダーバード」は、
西陣「エレックスサンダーバード」を、それぞれ指していると思われる。
何れも、昭和50年代半ば~後半に、目覚ましい活躍を見せた名機。
本書における時代背景も、まさに、その辺りが中心という事になろう。
 

それから、当時、岡田さんが好んだ「キングスター(三共)」「グラマン(三洋)」
「イーグル(⇒イーグルレント、京楽) 」「ジャガー(⇒スペースジャガー、西陣)」
「アラジン」(マルホン)といった各機種の実戦記も、簡潔な形で収録されている。


加えて、本書が出版された1987年辺りの人気機種、「レッドライオン」(西陣)、
「プリズム」(マルホン)、「サンタナ」(京楽)、「キューピッド」(奥村)、
「スリーチャッカー(三洋)」「スーパーコンビ(三共)」の釘解説コーナーもある。
また、良い店、悪い店の選び方なども説明してあり、単なる「読み物」にとどまらず、
「パチンコ実戦書」の役割も果たした。


まさに、知る人ぞ知る女流・岡田さんの、昭和期「アンリ・ワールド」が
存分に堪能できる本作。ぜひ、ご一読あれ。
・新品は、出版元の文園社公式HPから注文可
・中古本は、アマゾンにて複数出品中 

 
(余談)
「ノーちゃんの指定席」と「マーちゃんの指定席」

本書には、岡田さんが思い出の一台について語る「ノーちゃんの指定席」という項がある。
「ノーちゃん」とは、岡田さんのホールでのアダ名。作家でもある彼女は、店内でネタに
なりそうな事があれば、何でもノートに書き留めておく習性があったから、他の常連から
「ノート」に因んで「ノーちゃん」と呼ばれていたという。そのノーちゃんと大変相性の
良かったチューリップ台(平台)が、「362番台」。この台の「素性」(デキ)の良さを
見抜いていた岡田さんは、ほんの僅かでもクギが開けば、決まって打ち止めしたとの事。
いつしかその台は、「ノーちゃんの指定席」と呼ばれるようになった…という話だ。


一方、現在も連載中のパチンコ漫画「雷電」では、かつて「マーちゃんの指定席」という
タイトルの作品が掲載された事がある(「パチンカーワールド」1999年7.3号に掲載)。
雷電が立ち寄った店の常連客で、「釘を読むことにかけては女で一番」といわれた女性。
それが、裕福な未亡人の「マーちゃん」である。そのマーちゃんが最も得意だったのが、
平和のハネモノ「綱引きドン2」の300番台。他の常連も「マーちゃんの指定席」と呼ぶ
相性の良さだ。だが、その日マーちゃんが「(釘を)シメた」と思って捨てた300番台を、
雷電はあっさり打ち止める。それを知ったマーちゃんは対抗心を燃やす。「CRルパン三世K」に
移った雷電の隣で打ち始めたが、ハマリにハマってボロ負け状態に。哀れに思った雷電は、
マーちゃんがカードを買いに席を立った隙に、得意の「活動電流」をバリバリッと使い、
隣のマーちゃんに確変大当りをプレゼントする…といったストーリーである。


これは推測だが、「雷電」の「マーちゃんの指定席」という作品は、脚本担当の
北鏡太氏が、本書と岡田さんを意識して作り上げたシナリオではないだろうか。
事実、マーちゃんは「素性がいい台は少しくらいシメ釘でもソコソコ入る」と発言。
ノーちゃん即ち岡田さんが、デキの良い台を「素性がよい」と本書で表現した事と、
見事に符合するのだ。つまり、本書や岡田さんへの「オマージュ」作品と思われる。
ただ、ボロ負けの彼女を「活動電流」で助ける設定は、結構「皮肉」めいている。
「マーちゃん~」は「雷電 the Best of活動電流」にも収録。興味ある方は、ご確認を。




(「女流パチプロの優雅な日々」の項、了)


※このところ、めっきり記憶の「経年劣化」が進んでしまった模様。
一昔前は当たり前のように覚えていた台の特徴が、徐々に徐々にだが
霞がかってきた感がある。その為、記事中、思いもよらぬ記載ミスを
犯す可能性もありますが、心優しい読者の皆様方にお願いします。
誤記や勘違いを発見の際は、「非公開コメ」でこっそりご指摘頂けると、
大変有り難いです。