俺、篠田信二は年末、ひとりで大井競馬場に来ていた。
東京大賞典、今日のメインレースだ。
今年の東京大賞典は牝馬に人気が集中しているのが特徴。
中央から参戦したヨナサン、マオチャンが1番人気、2番人気だ。
地方馬も負けてはおらず、ユリアンが3番人気、アデリナサマが4番人気である。
ユリアンはまだ3歳で、大井競馬場、期待の新星で、大井の女王、4歳、アデリナサマとは初の直接対決だ。
ヨナサンとマオチャンは5歳馬で、このレースを最後に引退することが決まっている。
先月に行われた中央のジャパンカップダートでは、ヨナサンが1着、マオチャンが2着。
今日のレースは、中央と地方の対決があり、新旧の対決もある。
ジャパンカップで勝たせてもらった俺の馬券はヨナサンとマオチャンの馬連1点に絞った。
展開はいつものようにマオチャンが逃げて、ヨナサンが追い込むと確信している。
最後の直線では二頭の一騎打ちになるというのが俺の予想だ。
レースが始まった。
「おっと、マオチャン、大きく出遅れました」
なんてこった!
まさか逃げ馬のマオチャンが出遅れるなんて、信じられない展開だ。
おかげで2番手につけるはずだったユリアンが先頭になってしまった。
「ヨナサンは中団、アデリナサマは後方集団に位置しています。マオチャンはまさかの最後方です」
馬券ははずしたな。せめて、レースを楽しむか。
「さあ、最後の直線、先頭はユリアンです、逃げ切れるか」
いや、ヨナサンは絶好の位置につけているぞ。
「やっぱり外からやってきた。ヨナサンだ、ユリアンを捉えたか?」
お、ユリアン、粘るではないか。さすが、次期女王候補だ。
「内にユリアン、外にヨナサン、二頭で競り合っております。マオチャンはいまだ後方だが5頭をごぼう抜きした」
さすがにその位置からは届かないだろう。
「さあ、ユリアンか、ヨナサンか。おっと、大外から一頭、とんできたのは、なんと、アデリナサマだ」
これはすごい戦いになってきたぞ。
「ヨナサンがユリアンをかわしたが、今度は外からアデリナサマ、ものすごい末脚だ」
「さあ、ヨナサンとアデリナサマの一騎打ちか」
「粘るヨナサン、迫るアデリナサマ」
「中央の女王ヨナサンか、大井の女王アデリナサマか」
「後ろからはマオチャンがものすごいスピードであがってきた」
え?マオチャン、あの位置から届くのか。
「さあ、ここで先頭はアデリナサマだ、くらいつくヨナサン」
「アデリナサマ、1着でゴールイン」
「2着はヨナサン。3着以下は混戦です」
うーん、あともう少しゴールが先だったなら、勢いとしてはマオチャンだった。やはり最初の出遅れが痛かった。
それにしても、アデリナサマ、大井のファンの歓声に支えられたのか、執念の走りだったな、ものすごい集中力だった。
さて、着順は。
アデリナサマ1着、ヨナサン2着か。残念、俺の馬連1点買いは失敗に終わった。
マオチャンは6着、ユリアンは5着か。
マオチャンはラストランで出遅れたのが残念だが、最後の追い込みの脚は素晴らしかった。
そして、期待の星、ユリアンもいい走りを見せてくれた。
見ごたえのある東京大賞典だった。
さあて、次のレースで挽回するかな。
完