瞳が叫んだ。「ハッピーハロウィン!」
そういう始め方をするのが正しいのかどうかは確かめようもない。
パスモはこういうミーハーな行事をどうしても好きにはなれなかったが、それでもおもちゃとお菓子で皆が喜んでいることに関しては、瞳に感謝していた。
問題はふたりの歌手?である。追浜ゴジラ、ミスターヒステリーピースという瞳が連れてきたふたりは奇怪であった。
追浜ゴジラは家の中でもサングラスをかけたまま、無言でいる。ミスターヒステリーピースは初対面にも関わらず、誰彼構わず好き勝手に話しかけている。なんとも対照的なふたりであった。
パーマは興味津々である。「ねえ、あなた、それってハロウィンだから仮装しているの?」
「いやあ、これは毎日着ていたり着ていなかったりするんだよ」ミスターヒステリーピースが答えになっていないような答えをした。
「じゃああなたは?」パーマが振り返った。「あなた、ゴジラさん」
追浜ゴジラは相変わらず無言であった。ミスターヒステリーピースが説明した。「この人に話しかけてもダメだよ。歌う時にしか喋らないんだ」
「ふうん」パーマは残念そうであった。「ねえ、瞳さん、私、歌が聞きたいわ」
「じゃあ、始めましょうか」瞳がパスモの顔を見た。「ねえ、演奏するから、玄関から中に入れてよ」
来客3人は依然として玄関から中に入れてもらっていない。
「ねえ、パスモ」パーマは懇願した。「中に入れてあげて」
パスモは拒絶した。「ルールはルールだ」
「ですって」パーマは済まなさそうに瞳を見た。「ごめんね、瞳さん」
「いいのよ、玄関、広いし」
元々、一軒家というのはアパートよりも玄関が広いが、この家の玄関は普通の家の2倍はあった。注文建築の住宅なのであろう。
「では最初に」瞳はまるで司会者のように振る舞った。「ミスターヒステリーピースさんです」
家の者達は、先程から盛り上がっていて、歓声と拍手がとんだ。
「わたくし、ミスターヒステリーピース、演奏を始めさせてもらいます」
ミスターヒステリーピースは肩にギターをかけた。一瞬、軽い緊張感が走った。いったいこれから何が始まるのであろうか。11人は固唾を飲んだ。