月刊オダサガ増刊号

2024年創刊予定の「月刊オダサガ」の増刊号です。
「月刊オダサガ」編集長が好き勝手に書いているブログです。

ウルトラマンウィンド第3話「湖の謎」

2021-04-23 16:00:56 | ウルト・ラマン・ウィンド
東拳は毎日、晴谷星人の出現に備えて河原のパトロールを7日間も続けたが、なかなか出くわせず、気分転換に山中湖に出かけることにした。

「やっと着いたー」自転車を数時間、こぎ続けた。拳は走るのは遅いが、自転車をこぐのはまあまあ速い。

湖に着いた拳は、到着した途端に、これといった目標がないことに気づいた。「じゃあ、帰るか」

「待ちいや」拳が振り向くと、そこに西軒がいた。「お前、湖に来たのに、そのまま帰る気かいな。ほんま、関東者は理解できんわ」

「お前」拳が言った。「なんで、ここにいる?琵琶湖じゃないぞ、ここは」

「わしはな」西が返した。「いつもお前の動向を探ってるんや。尾行いうの、あるやろ。わしは動きが速いさかい、尾行でのうて頭行になってしまうんや、へへへ」

「つまり、ストーカーだな」拳が言った。「しかし、俺たちは男同士だ。合体もできないんだぞ」

「気色悪いなあ」西が返す。「お前の体なんて興味ないわ」

「なら、なんで」拳が言いかけた時だった。湖の真ん中から大量の水が宙に飛んだ。湖の底にある地面がむき出しになった。

「うわあ、怪奇現象や」西は少し興奮していた。「湖の水が噴き出しとる」

「まさか」拳は考えていた。「晴谷星人の仕業か」

「助けてー」女の声がした。

「あ、女や」西は喜んでいた。「女がおる、女がおるぞ」

「バカ、喜んでる場合か。助けを求めてるんじゃないか」

三人の女が走ってきた。運動の練習なのだろうか、お揃いの白いTシャツに数字の書かれたゼッケンがついている。

「助けてください」1と書かれたゼッケンの女が言った。

「私達、狙われているんです」2と書かれたゼッケンの女が言った。

「湖から大きな怪獣が出たんです」3と書かれたゼッケンの女が言った。

「狙われているって?」拳が聞いた。「誰に?」

「あほか」西が突っ込む。「怪獣に狙われてるに決まっとるやないけ、文脈的に」

「うーん」拳は首をひねった。「なんで怪獣がこんな若い女の子を狙うのだろう」

「ほんま、アホやなあ」西がイラついた。「怪獣に理由なんてあるかい、若い女が好きなだけや」

「それはお前のことだろう」拳は冷静だった。「怪獣が好きなのは、怪獣のメスだ」

「助けてください」1と書かれたゼッケンの女が言った。

「私達、狙われているんです」2と書かれたゼッケンの女が言った。

「湖から大きな怪獣が出たんです」3と書かれたゼッケンの女が言った。

「怖かったやろ、ここから先はわいと一緒に逃げよう」西は嬉しそうだ。「手、つないで行こうなあ」

西は1と書かれた女の手をつかんだ。「おお、冷たい手やなあ、湖の水、かぶったんやな、寒かったやろ?」

「助けてください」1と書かれたゼッケンの女が言った。

「私達、狙われているんです」2と書かれたゼッケンの女が言った。

「湖から大きな怪獣が出たんです」3と書かれたゼッケンの女が言った。

「なんかずっと同じ」拳は思った。「日本語がよくわからない外国人みたいだ」

「さよか」西は幸せそうだった。「じゃあ、みんな手をつないで逃げよう。でもな、手は二本やから、ひとりはわしの胴体に抱き着いてくれな」

女たちは、西に言われたとおりにした。西は逃げもせず、ニヤニヤしているだけだった。

突然、拳が走り出した。50メートルほど走ってから言った。「西、危ないぞ、そいつらは晴谷星人だ!」

「なんやて」西が怒った。「なんの証拠があって、そんなことを」

「お前がそんなにもてるはずない」拳は断言した。「気をつけろ、宇宙人だ」

「なんですって」ゼッケン1の女が切れた。「宇宙人と一緒にしないでよ」

「ははは」拳が笑った。「では、地球外生物と言い直そうか」

「しまった」ゼッケン1の女が言った。「はかったな」

「てゆーことは」西は手を振りほどいて逃げ出した。「宇宙人やー、助けて」

「宇宙人ではない」3人の晴谷星人が巨大化した。「晴谷星人と呼べ」

「ウルトラマンウィンド」拳が叫ぶ。

さっきと同じように湖の水が浮き上がった。今度は浮いただけでなく、空中をクルクルと回っている。

「え?ウィンド?」拳は驚いた。「風でなくて、水?」

水の中からウルトラマンウィンドが現れた。「キタイカ、ダケデナク、エキタイカ、モ、デキルノダ」

「ウィンド」拳が尋ねた。「もしかして、湖にいる怪獣って」

「カイジュウ。デハナイ。ワタシダ」

「なんやそれ」西が嘆いた。「なんて……盛り上がらん話や、わし、もう帰る」西はあっという間に拳の視界から消え去った。

「ウルトラマンウィンド、勝負はお預けだ」

3人の巨大化した晴谷星人は北へ向かって飛んで行った。

「サルモノハオワズ」

ウルトラマンウィンドはいつものように消えた。

「気体化?液体化?」拳は頭をひねった。「湖、カラなんだけど」

山中湖に平和は戻った、のだろうか?

「速く帰ろう」拳は急いで自転車をこぎ、逃げるように家に帰った。


ウルトラマンウィンド第2話「侵略者は去れ」

2021-04-23 14:12:14 | ウルト・ラマン・ウィンド
ウルト・ラマン・ウィンド その2

東拳は、今日もまた、川沿いの原っぱをひとりで、パトロールしていた。

晴谷星人の出現から7日が経った。まだ近くにいると聞いた。次こそ、倒してやる!

「あのお」メガネをかけた小太りの男が拳に話しかけてきた。

「なんでしょう?」拳は返事をした。「今、パトロールで忙しいのですが」

「パトロール?それはこっちのセリフです」メガネが答えた。「ちょっと来て」

メガネは近くに立っていた背の高い痩せた男を呼んだ。「なんか、この人、怪しいんだ、職務質問しよう」

「職務質問?」拳は考えた。青い上下の制服、帽子がお揃いのこの二人組は誰だろう?もしかして?「宇宙人ですか?」

「警察官だよ」メガネが言った。「あんた、ここで何をしているんだ?」

「パトロールです、何度も聞かないでください」拳は少し、イライラしてきた。「こうしているうちにも晴谷星人がやってくるかもしれないので」

「バルタニ星人?」メガネがニヤリと笑った。「署まで行きましょう」

「だから」拳は声を張り上げた。「僕、忙しいんですよ」

「忙しいのはこっちだよ、あんたのせいでね」メガネが拳の手をつかんだ。拳は反射的にメガネを投げ飛ばしてしまった。

「なにをするんだ」慌てたノッポが拳の肩をつかんだ。ノッポも一回転して、地面に落ちた。

「逮捕する」メガネが叫んだが、打ちどころが悪かったせいか、起き上がれない。ノッポも横になったままだ。

「どうするかな」拳は迷った。「とりあえず、逃げるか」

「おまわりはん、大丈夫でっか?」西軒がやってきた。「こいつ、指名手配中の凶悪犯なんですわ」

「こら、でたらめを言うな」拳は西をにらんだ。「毎度、卑怯だな。だから関西人は嫌いなんだ」

「卑怯もクソもあるかい。お前、どう見ても現行犯やで」西がせせら笑った。「おまわりはん、大丈夫でっか」

西がメガネを助け起こそうとした。「あれ、おまわりはんの腕、めっちゃ、冷たいでんな」

「冷たいってなに?」メガネが言った。「既読のラインに返信をよこさない、というあれですか?」

「そないな回りくどいこと、言ってまへん。おまわりはん、凍っとるみたいに冷たいんや」西はメガネから手を放した。

「凍っとる?あれか、ペンギンにいる南極ことか」どうもメガネの言ってることはちょっとおかしい。

「おい」メガネの後ろからノッポが声をあげた。「だから地球人のフリは無理だって言ったんだよ」

その途端に、警察官らしき二人は、金色の上下を着た地球外生物、晴谷星人に変身した。

「ひえー、ばけもんや」西が喚いた。

「出たな、晴谷星人」拳が身構えた。「今日こそ、決着をつけてやる」

「ははは、お前など相手にならない」二人の晴谷星人が巨大化した。

「まずい」拳は走り出した。「逃げなきゃ」

「じゃあこっちだ」晴谷星人は西に狙いをつけた。「必殺、踏みつぶしだ」

「そんな殺生な」西も走り出す。

「バカ、西、こっちに来るな、せっかく逃げてるのに」拳は戦いには強いが、足は遅かった。

「逃げ足ならわいが上や、おおきに」西はあっという間に拳の視界から消え去った。

「西、待て、僕を置いていくな」拳は思い出した。「そうだ、呼ぶんだった」

二人の晴谷星人が拳の前後に立ちはだかる。「非力な地球人め、とどめだ」

「ウルトラマンウィンド」拳が叫んだ。

突如、地面から砂煙があがり、それはどんどん高く広くなって、周囲のものを巻き込んだ。

「うわー」拳も吹き飛ばされた。

「あれー」二人の晴谷星人も吹き飛ばされていた。

大きくなった砂煙は徐々に実体化し、ウルトラマンウィンドとなった。

「ウィンド、助けて」現れたウィンドに気づいた拳が叫んだ。「カプセル魂とか、使う前にさあ」

「ソウカ、ソウナノカ」ウィンドは納得した。「ヨシ」

砂煙はなくなり、拳はウィンドの右手に乗っかっていた。「助かった」

「アレ?」ウィンドは首を傾げた。「バレタニセイジンハドコダ?」

「あ、小型UFOが飛んでいる」拳は指でさした。「あれで逃げたのでは?」

「ソウカ、ソウナノカ」ウィンドは納得した。「ヨシ」

「よし、じゃなくて、追いかけましょうよ」

「サルモノハオワズ」ウィンドは満足そうにUFOを見ている。

「なんで、そんな日本語を知ってるの?」拳はちょっと不思議な気分になった。「去る者は追わず来る者は拒まず、でしょ?」

「クルモノハタオス」ウィンドは満足そうに拳を見た。

「え?」拳は驚いた。「やっぱり文化って、星によって違うんだね」

拳をゆっくりと地面に置いたウィンドは、だんだんと薄くなり、消えていった。

拳はパトロールを終わりにして、家に帰った。

ウルトラマンウィンド第1話「姿なき救世主」

2021-04-23 11:35:30 | ウルト・ラマン・ウィンド
ウルト・ラマン・ウィンド



東拳(あずまけん)は身構えた。鳳凰(ほうおう)の構えだ。

東拳は彼の名前、鳳凰は東拳が得意とする空手の型である。

拳の向かい側には、宿敵である西軒(にしけん)がいる。西軒は左手に5歳くらいの子供を抱えている。

人質だ。

戦いの実力的には拳は西を圧倒している。しかし、この西という男、関西人だけあって、まことに卑怯である。

「わいの手の中に、子供がおること、忘れたらあかんで」

拳はためらった。西の顔面は拳の拳(こぶし)の射程内にあるが、子供を盾に使われるかもしれない。

拳の拳はとても速い。西にそれを見切る力量などない。けれど、まぐれということもある。万が一にでも、拳の拳が子供に当たったら。それは想像もしたくない惨事となる。

拳の速さは諸刃の刃だ、と拳は思った。

「おい、お前、何を迷っとんのや。どうせ、俺の拳は諸刃の刃だ、とか悩んどるんやろ、タコ」

図星、あまりに図星すぎて拳は驚いた。西はテレパシーが使えるのか。

「お前、わいがテレパシー使えるか、考えとるやろ。あほ、こんなん、大阪では当たり前のことやで。ええかっこしいの東京人、ざまあみいや」

「なんだと」拳の頭に血が昇り、気づくと、拳の拳は西の顔面を貫いていた。

西は仰向けにひっくり返っている。「ずるいやないか、話してる人に手を出すなんて、きたないわ」

西は鼻血を垂らしながら泣いていた。

拳はすかさず、子供を奪い返した。「ぼうや、大丈夫かい」

「うん、ありがとう」そういうと、子供は走り出した。「5時の鐘が鳴ったから、おうちに帰るね」

子供はあっという間に、拳の視界から消え去った。

拳は再び、西に向かった。「西よ、今日こそはお前の息の根をとめてやる」

「やめてえな、息を止めたら、苦しいやないか」西は完全に戦意を喪失している。

拳は西を許すつもりはなかった。再び、鳳凰の構えをとる。

「堪忍してえや」

堪忍などするか、思った瞬間、背後から飛んできた小型UFOが拳の後頭部を直撃した。

拳はうつぶせに倒れた。

UFOから金色の上下を着た、不思議な生物が下りてきた。

「う、宇宙人や」西は走って逃げた。西はあっという間に拳の視界から消え去った。

「宇宙人だって?」拳は頭を振りながら起き上がった。

振り返ると、西が宇宙人と呼んだ生物が立っていた。背丈はほぼ、等身大といえる。

「宇宙人だと?」宇宙人らしき生物は話し始めた。「宇宙人ではない、われわれは地球外生物だ」

「われわれ?」拳は尋ねた。「あなたはひとりに見えますが、仲間がいるということですか?」

「その宇宙船にわれわれの同胞が二億人ほど、乗っているんだ」地球外生物は小型UFOを指した。

「それ、どう考えても、あなたひとりで満員ですよ。それに宇宙人ではないのに宇宙船っておかしくないですか?」

「交渉は決裂した。消えてもらおう」地球外生物は右手を前に出した。

「決裂って、軽く突っ込んだだけなのに」拳は慌てた。

「われわれの星に、ボケや突っ込みという文化はない」地球外生物の右手からビーム線が発射された。

あれ、効かない。なんのビームだか知らないが痛くも痒くもない。

拳は反撃に転じた。パンチ、パンチ、キック。

地球外生物はあっけなく倒れた。

「よし、とどめだ」拳は鳳凰の構えをとった。

その時、突風が吹いた。拳はバランスを崩した。

「あ、あれは?」拳は風と共に出現した、目のようなものに気づいた。

目だけが、宙に浮かんでいる。不思議な光景だった。

その隙に地球外生物は起き上がった。「油断したぞ、地球人」等身大だった彼は、いきなり巨大化した。身長は50メートルくらいか。

拳は地球外生物に踏まれた。そして、息絶えた。

「ワハハハハ、ざまあみろ、地球人」

地球外生物は笑っている。

「すっきりした、帰ろう」

地球外生物は乗ってきた小型UFOをつかんで、空に飛び去った。

「くそう」拳は悔しかった。

そして拳は初めて知った。体は死んでも、意識は残ることを。「こんな原っぱでひとり、死ぬなんて。せめて救急搬送してくれれば蘇生することだってあるのに」

再び風が吹いた。さっきの突風の数十倍の強さがある、竜巻だった。

拳の意識は周囲を見渡した。さっきは目しかなかった、あの物体の全身がそこにあった。

「チキュウジン」物体が話しかけてきた。「ザンネンダ」

「え?あなた、誰ですか?」

「ワタシハ、ウルトラマンウィンド。セイカクニハ、ウルト・ラマン・ウィンド」

「宇宙人ですか?」

「ウルトセイカラ、ヤッテキタ」

「ウルト星?」

「ソウダ。ケン、オマエハ、ユウカンダッタ。コノママシナセルノハ、オシイ」

「え?もしかして、俺と合体してくれるのか?」

「ワタシハオトコダ」

「駄目なのか?」

「ガッタイハ、イヤダ。カプセルタマシイ、コレヲツカエ」

カプセル魂と呼ばれた、緑色の小さな錠剤のようなものが拳の体に投げ込まれた。途端に、つぶれたはずの拳の肉体は元に戻り、意識もそこに吸い込まれた。

「あ、なんか、これって。生き返ったのかな?」

「イキカエッタ、ノデハナク、カラダトココロヲ、ツナギアワセタ」

「よくわかりませんけど、ありがとうございます」

「レイ、ハ、イラナイ」

「そうですよ。あなたがいきなりビュッて目を出したから、とどめを刺せずに、僕はやられたんじゃないですか」

「ハハハ、キニスルナ」

「気にしますよ。そういえば、あの地球外生物はどこに行ったんでしょう?」

「アイツハ、バルタニセイジン。マダ、チカクニ、イル」

「バルタニ星人?あいつの名前?」

「ハレタ、タニ、ト、カクソウダ」

「晴谷星人!くそう、次こそはやっつけてやる」

「ヤメテオケ」

「だって」

「ヤツガ、アラワレタラ」

「うん?」

「ワタシヲヨベ」

「ウルトラマンウィンドって?」

「ソウダ」

「やっぱ合体してるんじゃないですか」

「ガッタイデハナイ」

「じゃあ、なに?」

「オマエ、ヨブ、オレ、クル」

「わかりました、男同士ですから」

「マタアオウ」

嵐が吹いた。ウルトラマンウィンドは全身が薄くなって消えた。